テンパイ(4停止目)

 

毎日毎日しょうもないと思いながらも10年間も続けてきた某企業の警備員の仕事。やっと帰ってきたのが深夜の1時。
本当はもっと早く帰れたのだが交代する相手が渋滞に捕まったとか言って結局2時間半も残業手当も出ない無駄な仕事をさせられた。
イライラしながらもやっと築40年になるボロアパートの自分の部屋の前に着いて大きく息を吐いた。
郵便受けに珍しくチラシ以外の物が入っていた、何の変哲もない封筒だ。
中には先に砂時計の形をしたものが付いているネックレスと手紙が入っていた。
“これを身に付けて強く願えば時間を止めたり再び時を動かせたりできる!”と書いてあるのを見てムシャクシャしたのでクシャクシャに丸めてポケットに突っ込んだ。
「そんな馬鹿な!」今にもこのボロアパートを壊すんじゃないんだろうかと思うほどのストレスを静めた。紙はあれだがネックレスの方はなかなか良いデザインをしてたので付ける事にした、
鬱憤晴らしに酒と食べるものが欲しくなり近くのコンビニに向かった。

籠に二千円分ほどの酒とつまみを入れてレジに行き会計をする。レジに居る店員は所謂DQN、DQNがダルそうに会計をしているところを見ながらDQNにする嫌がらせを考えていた。
この怪しい性格は小さいときからだ。そんなことを考えていると愉快になってきて自然と顔はにやける、お金を払っている時もニヤニヤしていたのだろう、DQNは相当引いてた。
(あーあー・・さっきの紙の通り時間がとまんねーかなぁ)
と思いながらコンビニを出ようとした瞬間、ドアのガラス越しに見える全てのものが動きを止めた。道路を走る車、歩いている人そして小降りだった雨。
ハッとして後ろを振り返るとDQNはガムを口に入れようとしているまま動かない、さっきまで鳴っていた新しい人気の曲も止まっている。
「・・・まさか・・・」突然の出来事にどうしたら良いか分からずひとまず(時よ動け!)と念じた。そうすると全てが何事も無かったかのように再び動き始めた。
その後は足早に家に帰った。

時間が止められるということを知って興奮しながら『したいこと』を考えた。
「お金は・・・特には困ってないかな?このままでも充分だろう。特に復讐したい奴もいないしな・・・せっかく時を止められるのにそんなしょぼい事に使うなんて勿体無い。となると・・・」
俺には夢があった、芸能人とセクロスしたい。この時を止める能力があれば叶う。家で試したが止まった時の中でも自分の体が動かなくなることもないし物も動かせる。
ならば時を止めても人を脱がすこともできる、マネキンの衣服を脱がすのと同じことだ。物の感触も変わらないのであそこも大丈夫だろう。
明日は仕事がない。ここまで休みの日、いや明日が楽しみになるなんて人生初だ。今日は明日の為に寝よう。

喪痔(もじ)テレビ局の前に居る。さっそく作戦の開始だ
(時よ止まれ!)
周りの観光客のカップルや親子連れが一斉に止まる。この力は昨日限りという訳ではなかったようで安心した。
群集の間を悠々と通り、芸能人の楽屋を探すと超有名人の江口伊代の楽屋を見つける。
ドアを開けると可愛らしい私服姿の江口伊代とマネージャーらしき男が話しているらしい形で止まっている。
「ははっ・・・なんか見られてるみたいだな。」
一刻も早く挿れたいと思いながら時間はある、というか止まっているので前戯をする事に。
胸に手を伸ばして揉んでみる、心地よい感触が手から全身を伝わる。
それを感じた瞬間無音の空間に音が出てきた。
江口伊代「キャァ!なによあなた!やめて!」
男「誰だお前は!いったい何時入ってきた!」
呆然と立ち尽くす俺は何が起こったのか理解できなかった。マネージャーらしき男が警備員を呼んできて俺は事態を理解出来ないまま警備員に取り押さえられて警察に突き出されようとしている。ふと思い出して昨日読み途中でクシャクシャにした紙を見てみた
“これは神様が良い子に与えた特別な力です。悪い子になった人からはこの能力は無くします☆”
やっと事態を理解して、絶望した。
可笑しいものだ、ついさっきまでは神様も認める良い子だったのに今では一転犯罪者だ。
両脇にいる警備員にも聞こえないほどの声で呟いた
「そんな馬鹿な・・・」

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