シュガーその9(40停止目)

時間と人を繋ぐ者

「嫌われてるのかな」
 どうだろうね、もしかしたら嫌われてるのかもしれないね。
「やっぱり戻りたくない」
 でも、嫌われて無いかもしれない。まだ分からないよ。
 君だって、まだちゃんと話してないんだろ?
 何もしないうちから決めてつけていたら、それこそ嫌われるんじゃないかな。
「……僕はどうすればいい?」
 そうだね、とにかく話してみなよ。
 でないとなにも分からないまま、無意味に怯えるだけだよ。
「わかった、頑張ってみる……ありがとう」
 これが仕事だからね。気にしなくていいよ。
 君と話しているのは、なかなかに楽しかったし。
「本当? うれしいな」
 本当さ。もしかしたら、皆は君が話しかけて来るのを待ってるのかもしれないよ。
「うん、わかった」
 じゃあ、時間を元に戻すよ。


「もう会えないよね」
 そうだね、これがきっと最初で最後だね。
 本来、君はここにきちゃいけないんだよ。
「そう……だよね。さ、最後に」
 なんだい?
「名前聞いてもいいかな」
 ……僕に名前はないんだ。
 以前ここに来た人には『時間の管理者』って呼んでたなぁ。
 そんな大それた物でもないんだけどね。
「そっか……それなら」

 ん?
「僕がつけてもいいかな?」
 ……君が僕の名前を?
「うん、だめかな……」
 いや……駄目じゃないよ……たださ……照れくさくて。
「あははっ、そっか……ん〜……『つなぐ』」
 『つなぐ』……? どうしてだい?
「なんかこう……時間と人を繋いでいるから……かな。やっぱり変だ、やめやめ――」
 ……ううん、『つなぐ』かぁ、気に入ったよ。素敵な『名前』ありがとう。
「えっ……うん、そっか、気に入ってくれてよかった」
 


 そろそろ時間の流れを元に戻しても大丈夫かな。
「うん、もう大丈夫……つなぐっ!!」
 ……なに?
「僕たち、友達だよね?」
 ……うん、君は僕の最初の友達だよ!
「ありがとう……つなぐも、僕に出来た最初の友達……

人は、誰しも少なからず時間を操れる事をご存じだろうか。
何かに集中していて、あっという間に何時間もすぎていた。
なんて事を、君もいつか経験しただろう。
そんな風に、皆知らず知らずの内に力をつかっている。
だけど大きすぎる力は扱いにくく、とても不安定なんだ。
一度暴走し始めると、自分では元に戻せなくなってしまう。
暴走した力は『世界の時間』も狂わせ、やがては取り返しの付かない事になってしまう。
そんな、力を暴走させた人が、狂った時間の中で訪れる部屋。そこに僕はいる。
狂った時間を元に戻し、暴走した力を安定させる。
それが僕……『つなぐ』の仕事。

「毎日毎日……同じ事の繰り返しじゃねえか! いっそ明日なんかこなけりゃいい!!」

……どうやらまた、誰かが時間を狂わせたようだ。僕は今日も扉を開ける。
人が時間の流れからはぐれ無いように。
僕は時間と人を繋ぐ。

終わり

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