シュガーその5(35停止目)

妬みの力

 

散らかった部屋の中を、テレビの光だけが怪しく照らしている。
映っているのはゲームの戦闘画面。俺は出来るだけ無心で操作する。
しかし、暑くて閉められない窓からは、隣りの部屋から女の喘ぎ声が聞こえて来る。

「うぅ……畜生……」

喘ぎ声が激しくなったと同時に、ボスにやられてしまった。
ストレスと怒りが溜まっていくのがはっきりと分かる。

「糞っ糞ぉ……うっ」

なぜか涙が流れてきた。壁を叩く事すら出来ない自分が情けない。
コントローラーを操作して、ゲームをロードした。

「タイムストップで止めて……」

先ほどやられたボスに挑む。魔法を使うと、敵の動きが止まった。

「……あれ、バグか?」

コントローラーを操作しても、画面は写真の様に動かない。
というか、BGMも止まっている。

「なんだよ……糞っ」

電源を押した。しかし、PS2は反応しない。試しに押したテレビもだった。

「なんなんだよ!糞がぁ!!」

怒りが限界に達し、もっていたコントローラーを壁に叩き付けた。

「……あ?」

壁にぶつかったコントローラーは、壁から少しはなれた場所に浮いていた。
その瞬間、頭の中であるスレッドが浮かんだ。

よく文字として見ていた光景。あのスレッドの作品が現実になったら、こんな感じだろうか……。

―もしも時間を30秒止められたら―

「ちょ、ちょっとま……」
『ガンッ!!』

コントローラーがぶつかった音が、辺りに響いた。
本当に、時間が止まっていたようだ。

「タタ、タイムストップを!!」

転がったコントローラーを素早く拾い、先ほどと同じように操作した。

「……殺す殺す殺す!!カプッルはヌッ殺ロだぁぁ!!!」
『タイムストップ!!』

テレビ画面から、キャラクターが叫ぶ。同時に、時間が止まった。
急いで柵を伝って、隣りの部屋のベランダに移る。ガラスをブチ破り、部屋の中に侵入した。
そこには、繋がっている学生らしきカップル。それをみて、さらに切れた。

「糞ガキ共が!うるせぇんだよ!!」

浮いていたガラスを、男の一物に突き刺す。2、3度突き刺して顔をぶん殴った。
コンポを担いで、女の顔の上で放す。すると、その場に浮いた。
それを確認した後、テーブルやテレビも上に置いた。
男の頭の上には、包丁と冷蔵庫と、壁から引き抜いたクーラーが浮いている。

「死ね糞カップルが!!」

悪態を吐いて、部屋へと戻った。

「…………動きだしたか」

部屋に戻った途端に、隣りから物凄い音が聞こえた。
今思えば随分と止まっていたな、感覚で15分は止まっていたな。
カップルへの妬みの力が、常識の限界を超えたのか?
……まぁいいか。気にしないでおこう。

「おっと、続き続き……」

テレビの前に座ろうとした瞬間、さっきとは反対側の部屋から、また喘ぎ声が聞こえてきた。

「……どいつもこいつも……新手のいじめか?」

コントローラーを操作して、減っていたMPを回復させる。
口元が緩むのは、怒りからだろうか?
まぁ……今となってはどうでもいいか。

「まぁいい、今夜は長くなりそうだ」

『タイムストップ!!』ゲームの中で、キャラクターが叫んだ。

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