シュガーその12(44停止目)

レイプ屋始めました

 

 とあるマンションの一室に、今ネットで静かに話題になっている人物がいる。
 通称レイプ屋と呼ばれる彼は、報酬次第では大統領暗殺も引き受けるというなんでも屋。
 レイプ屋と呼ばれる所以は、依頼遂行の方法に好んでレイプを使うからだそうだ。
 呼び鈴を押して数秒、大学生くらいの男が顔を出してきた。

「……誰?」
「あ、すっすいません! ツバメさんですか?」
「……入って」

 ドアチェーンが外され、扉が開かれる。同時に、咳き込みそうな臭いが鼻をさした。
 ワンルームの室内は白い家具で統一されており、清潔感の漂う綺麗な部屋だ。
 しかし、玄関で感じた臭いはさらに強くなり、そのせいからか頭痛がしてきた。

「悪いね、前の依頼の死体置いたままだった」
「し、死体ですか……」
「で、あんた依頼はなんだよ?」

 彼は腐臭を気にもしてないのか、すぐに商談に入った。

「これに写っている女を、精神的に追い詰めて自殺させて下さい」

 写真と名前や住所を書いた紙をレイプ屋に渡す。
 彼は写真を見るやいなや、不気味に口元を歪ませた。

「……へぇ、可愛いな。よし、六十でいいよ、今持ってる?」
「えと……はい、あります」

「……やり方はこっちで決めるよ」
「彼女が自殺するほど苦しむなら、どんな方法でも構いません」
「……いつまでに自殺させればいいよ?」
「それもお任せします。なんなら監禁して飼い殺しでも構いませんよ……ただ、苦しませれば満足ですから」
「……分かった、じゃあ三日後にどうするか一度連絡するよ」
「はい、お願いします……それでは失礼します」

 携帯の番号をメモ帳に書き、テーブルの上に置いて席を立った。
 見送ると言ったのを丁重に断り、レイプ屋を後にする。

「渡部……お前なんかが僕を振った罰だ……お前が悪いんだ」

 家に帰り着いても、あの部屋に充満していた腐臭が消えなかった。

 

【レイプ屋始めました】

『一人目 渡部友花』

「……どうすっかな」

 依頼主が帰った後、白いソファーにもたれかかり写真を眺めた。
 正直言って暗殺やテロならお手の物だが、こう言う依頼は面倒臭い。
 なんたって、やろうと思えば依頼主だってやれるはずだ。

「……まぁいいか、ちょうど肉便器が壊れてた所だしな」

 腐臭の発生源となっているウォークインクローゼットに視線を投げる。
 アレも片付けないといけないな、近所に騒がれてまた引っ越すのは面倒だ。

「よっ……うわっ!? うはっ、クセェな」

 扉を開けると中には数個の黒いゴミ袋。しっかりと口を縛っているが、臭いは漏れ出していた。

「これじゃ燃えるゴミじゃ出せないな……しゃーねぇか」

 ポケットから携帯を取り出し、電話をかける。何度かの呼び出し音の後、金切り声が耳を刺した。

「……もう少し静かに話せないのかお前は」
「ごっめーん♪ ツバメから電話来たから嬉しくってさ」
「……そうすか、仕事を頼みたいんだが、死体の……」
「ぶーぶー! ウチ臭い仕事はやーだー!」
「そう言うなって……今度手伝うから頼むよ魔女さん」
「仕事は困ってないからな〜……二十とデート一回でやったげる」
「はいはい頼んだぞ」

 電話を終えた後、頭を振って耳鳴りを振り払う。
 段ボールを取り出してゴミ袋を詰め込んでテープで密封する。
 先程貰った写真と書類を鞄に入れ、死体の入った箱を担いで家を後にする。

「さて、早速仕事とすっか……って、こっちを先に処理しないとな」

 やたらと悪臭を放つそれを車に積み込み、まずは魔女の家に向かった。


 家を出てから十数分、魔女の根城となっている高層マンションについた。
 エレベーターで一緒になった人が顔をしかめていたが、クサヤと言ってごまかした。

「すいませーん、宅急便でーす」
「はいはーい……って臭っ!? マジくっさ!!」

 玄関から出て来たのは、黒いパジャマ姿の少女こと現代の魔女だ。
 眩しい程の綺麗な金髪に、硝子細工の様な大きな瞳。幼さの残る顔と細いラインの華奢な肢体。
 まさにクィーンオブ妹キャラだが、この容姿に騙されてはいけない。
 俺の記憶だと、四百歳は軽く超えている糞ババアだ。

「ハンコいらないんでさっさと受け取ればか野郎」
「ちょっと酷くない? ……って、その様子だとこれから仕事か」
「分かったなら早く、重いんだよこれ」
「じゃあデートは来週ねっ♪」
「へいへい」

 魔女と別れた後、車の中でもう一度書類に目を通した。

「……渡部友花って言うのか、名前も可愛いじゃん」

 渡部友花、二十一歳大学三年生。両親は平均的なサラリーマンと専業主婦。兄弟はいないらしい。
 友達付き会いは狭く深く、多くはないがそれぞれ深く信頼している……か。

「ふむ、交際経験無しか……今時珍しいね、しっかし……」

 よくもここまで調べたものだ。依頼主はストーカーか。

「そんなこと気にしてもしょうがない……なにより久々の上玉だしな」

 思わず口元がにやけてしまう。気にせず車を走らせ、渡部の家を目指した。

 私は小さな頃から性的なものが嫌いだった。
 それでも、いつかは好きな人に抱かれる日がくる事に憧れた。
 でも体が成長するに連れ、大きくなる胸を周囲の男がイヤらしい目で見る事が堪らなく嫌だった。
 いつからか、男の人はみんなセックスしか頭にないと思い始め、以来男の人を好きになる事がなくなった。

「やっぱり私おかしいのかな……」
「そんなことないって、男なんてみんなヤる事だけしか考えてないんだから」

 そして気付けば、私は女の人を好きになっていた。
 あれほど嫌いだったセックスも、彼女となら受け入れられた。
 同性なら、身体だけじゃなく心も求めてくれると思えたからだ。

「じゃあね、また明日〜」
「うん、帰り道気をつけてね」

 サキと別れて薄暗い家路を辿る。駅前は明るいが、実家のある住宅地は物静かで少し怖い。
 最近は痴漢や変質者が多いと聞いた。あぁ、やっぱり男は気持ち悪い。

「すいません、渡部友花さんですよね?」
「ひゃ!? えっ? あの、どちら様ですか?」

 下を向いて歩いていると、不意に後ろから声をかけられた。
 びっくりして振り向くと、爽やかなイメージの青年が爽やかに笑っていた。

「驚かせてしまってすいません、実はあなたのご両親から警護を頼まれたものです」

 立川と名乗った青年は申し訳なさそうに頭を下げる。
 名刺には、立川探偵事務所 所長 立川登と書かれてあった。

「警護って……どういう事ですか、そんな話聞いていませんけど」
「あれ? 聞かれてませんでしたか。
最近あなたがストーカー被害にあわれているからと、ご両親が数日前に依頼にこられたんですけど……」

 確かにストーカーじみた被害は受けていた。相手は同じ大学の男の人。
 しかし、一昨日の夜にストーカーは掴まり、その事は両親も知っているはずだ。
 仮に両親が依頼していても、この人が知らないのはおかしい。

「あなた、本当に両親が頼んだ探偵ですか?」
「そうですけど……嫌だな、疑っているんですか?」
「……失礼します。私、急いでますから」
「そうですか。参ったな」

 無視して走る。この人はおかしい、確かに誠実そうな顔をしていたが、問題はあの目だ。
 私と話している間、全く笑っていなかった。あの目はまるで、獲物を前にした……

「なれない事するんじゃないな、肉便器ごときに」

 突然耳元から声がしたと思うと、意識がとんだ。

「ん……うっ!? ここ、は?」

 目が覚めると見覚えのない部屋にいた。殴られたのか、鈍い痛みがある。
 手は後ろ手に手錠が着けられており、脚も椅子に繋がれていて満足に動かせない。
 見れば何故か服を着ておらず、秘部には違和感があった。
 恐る恐る見てみると、何かを入れられてテープで固定されていた。

「ちょ、ちょっと何なのこれ!?」

 叫んではみるものの室内に人の気配はない。
 がむしゃらに身体を動かすも、椅子も手錠も足の鎖もびくともしない。

「こ、のぉっ! ……んぁっ!?」

 と、突然バイブが動き出した。ねちねちとイヤらしい音をたて、私の中を掻き回す。
 中でバイブが暴れる度に、言い様のない快感が身体に襲いかかって来る。
 嫌なのに、椅子は私から溢れた愛液で濡れていた。

「んぅっ!? ぃ、いやぁっ!! ぁうっ!」

 おかしい。私は普段から感じにくい体質だった。不感症かと悩んだ事もある程だ。
 なのに、今は私の気持ちなんて無視して、身体は異常なほど快感に震えている。
 もう少しで絶頂きそうになったその時、部屋に誰か入ってきた。

「……おはよう」
「あぅっ! あなたは、さっきの……あっん!」

 入って来たのは、さっきの立川とか言う男。先程の笑顔とは違い、あの目も笑っていた。
 本当に楽しい物を見るような目で、心から笑っている。
 男の手には注射器が握られていた。体の異常があの注射が原因だと気付いたのは、再度注射された時だった。

「やっぱり魔女さんの薬は効きがいいな」
「あぁ!? んぁぁぁっ!」

 絶頂。それでもバイブは私の中をかき回し続け、気が狂いそうな快感を与え続ける。
 何度も押し寄せる快感の波。私の理性はその波に何度も飲まれ、次第に壊れていく。

「いひぃ!! やっ、やめぁ!? あひゃあ!」
「いいねいいね〜、女が壊れる様は何度見ても最高だ!」

 何も考えられなくなって来た……でももういいや、だってキモチイイんだもん。
 バイブでぐちゃぐちゃにされたおまんこも、今乳首にされたピアスも全部キモチイイ。

「依頼とは少し違う形になったけど、壊れちまったからいいよな」

 男が何かいいながら笑ってる。私もおかしくて笑った。
 お尻にもバイブをいれられた。中でバイブがゴリゴリしてキモチイイ。
 また注射された。もっとキモチヨクなる、何にも考えられない。

「はい、出来上がり〜ひゃはは!」

「と、まぁこんな感じでぶっ壊れちゃいました」
「…………」
「これはこっちで処分しとくから、何も心配しなくていいから」

 変わり果てた渡部の姿が視界の端に映った。
 昔の面影など何処にもなく、喘ぎ声をあげながら涎を垂らしている。

「……だめだった? じゃあ料金を半分返すから、それで」
「……いえ、これでいいです。ありがとうございました」

 ニヤニヤと笑う彼に礼を言い、レイプ屋を後にする。
 途端に彼が怖くなり、足が震えだした。
 彼は渡部を「これ」と言い、また処分などとまるでゴミのように見ていた。

「僕は悪くない……僕は悪くない……」

 そうだ、渡部が僕を振ったのが悪いんだ。
 そう言い聞かせても、震えが止まることはなかった。

 
【レイプ屋はじめました】 『一人目 渡部友花』

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