ソルトその2(32停止目)

メビウスの時間

 俺の部屋にいきなり美少女がやって来た。
 そんな凡庸なスタートで、この話は始まる。

 「やれやれ、また美少女ものか。
  死神とか天使とか悪魔とか何かの神様とか、もう出尽くしてるぞ。
  で、お前は何者だ。」
 「死神?天使?悪魔?何かの神様?
  失礼ね、そんな下等な存在と一緒にしないでよ。
  魔王メビウス様だっての。」
 「へぇ…魔王ねぇ…。
  で、その魔王メビウス様が善良なる一般人の俺に何の御用で?」
 「いやー、暇だったから、人間を発狂させて遊ぼうかなと思ったの。
  そこで目に付いたのがあんただったわけよ。」
 「…」

 さ、流石は魔王だな…。
 人の命とか尊厳とか、まったく気にしちゃいねぇ。

 で、魔王…というか、吸血鬼みたいな格好のその美少女は言う。

 「さてここに取り出したるは、メビウス式裏時間相転移波動ゲート。」
 「なげぇよ。」

 魔王メビウスと名乗る美少女は、空間を鋭く指でなぞって何かを描いている。
 次第に、車のテールランプのように指先の軌跡が輝き始める。
 メビウスが何かを唱え始めた。

 「汝、その諷意なる封印の中で安息を得るだろう、永遠に儚く。」
 「それじゃセレスティアルスターだよ。」

 メビウスが詠唱句を唱え終わる。
 瞬間、閃光が走り、ゴウッと突風が吹き荒れた。
 俺の体はその風に乗る。
 そのまま部屋の隅に勢いよく転がっていった。

 「な、何だ今の攻撃魔法は…!?
  全体攻撃か!?風属性か!?」
 「いや、攻撃魔法でも回復魔法でも補助魔法でもないし。」

 死ぬかと思った。
 風圧で死にそうになることってあるんだな。
 むくっと、頭を持ち上げる。
 視界に入って来たのは、部屋の中央にネオンサインのように輝く謎のゲート。

 「わー、何これ、ヘブンズゲート?
  この先にアダムが居るのかな?」
 「まぁまぁ、おちつきなさいチェリーボーイ。
  ん?そういえば名前なんだっけ?」
 「誰がチェリーか。
  って、ああ、失礼。自分、こういうものです。」

 学生証を差し出す。

 「えーっと…もり…いち………ん?いちご?
  なんて読むの?これ?」
 「うむ。拙者、“森一吾”と書いて“もり かずあ”と申す。」
 「えー…“いちご”にしかよめないって、チェリー。」
 「チェリーとか言うな!失礼な!
  ファッキュー!メビウスファッキュー!」
 「へぇー、魔王を前に物怖じしない根性は認めるけどね。
  ―――下等生物の分ってもんをわきまえないと殺すよ?」
 「はひっ。」

 情けない声を上げる俺。
 いつの間にか俺の首にメビウスの指が食い込んでいた。

 「さてそれじゃ、さっさと入りなさい。」
 「事前に説明とか欲しいんですけど。
  何さ、これ?」
 「メビウス式反転時間瞬間跳躍殺傷ゲート。」
 「途中の部分さっきと違うし。
  なんか最後にさりげなく殺傷とか言ってるし。」
 「いいから、ほーら」

 シャツの襟首つかまれて、光る門にぶん投げられた。
 そのまま俺は、門を突き抜けた。

 ゲートを抜けた先にたどり着く。

 「こ、ここは…!」
 「ん?」
 「ここは……………俺の部屋だ!
  つまり………今いた場所だ!
  よって…本当に門を突き抜けただけだ!」
 「説明くさい台詞ありがとう。
  まあね、時間の帯を 切り取って ねじって 貼り付ける だけだからね。
  で、めでたく裏時間にくることができたってわけよ。」
 「裏時間?何だそれ?
  裏面みたいなものか?」
 「そう、まさにそんな感じ。
  それじゃ行きましょ、チェリー発狂ツアーの始まりー。」
 「チェリーじゃないもん!チェリーじゃないもん!」
 「黙れ童貞。」
 「…はい、ごめんなさい。」

 目まぐるしい勢いで展開が進む。
 ちなみに魔王メビウスを名乗る少女に出会ってから、ここまで7分だった。


メビウスの時間 / 続く

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