刹那その3(7停止目)

力が無くても時間は止まる

俺は今、山の中にいた
なぜだ?
俺はつい24時間前までは修学旅行で東京に行こうとしていたのだが・・・
 『おいっ純、どこいくんだ?』
 『トイレ行って来る』
そう、これが最後の記憶だった
もう、かれこれ24時間探している、しかし見つからないので諦めた
そして、俺は今、深く考えていた
あの時、乗り変えの列車に乗り遅れたのが問題か?
いや、その後、適当に乗った列車が問題だったのか?
いやいや、その後に湖を泳いで渡れば東京につけると思い
泳ぎ切ったのが、悪いのか?
それとも山小屋にある、トイレを借りようとしたのが悪かったのか?
それとも山小屋がなかったのが問題か?
俺は、これ以上考えるのが嫌だったから、考えないことにした
さすがに歩き疲れたので、座って休むことにした

耳を澄ませば川のせせらぎと滝の音がした
俺は音のするほうへと足を向ける
そこには水浴びをする、水の妖精が1人
それはとても幻想的な光景だった・・・
 「あのっ、何をしているのですか?」
 「あっ、ご、ごめん」
俺は急いで後を向く
 「道に迷って、そしたら水の流れる音がしたから・・・ごめん」
すると、俺は異臭に気がついた
これは・・・熊の臭いだ
俺は急いで振り向いた、彼女を挟んで、俺と反対側にいる
彼女もどうやら熊に気づいたようだ
まずい・・・今の時期の熊は凶暴なんだ・・・どうする
そう思っていたら熊は彼女に襲い掛かろうと走りだす
俺は急いで力を使った・・・時間を30秒止める力を
どうやらまだ使えたようだ
この力は昔からあった、だがいつまで使えるかわからなかった
俺は急いで彼女を抱きかかえて急ぎ足で走る
彼女の服を一応取る、だが着せている時間はない
30秒時間がたつまで走った
そうしたら彼女が、今の自分の状態に気づき赤面する
 「おっ、おろしてください」
 「だめ、熊に追いつかれる」
 「こっ、こんなとこ見られたらお嫁にいけません」
 「じゃぁ俺がもらうから、大人しくしてて」
急いで走る
どうやら、撒いたようだ
俺は彼女を降ろし、服を渡す
俺は見ないように反対側を見る
 「その、着替え終ました」
 「とりあえず、ここどこ?」
俺は一番気になっていたこと聞いた
 「北海道ですけど・・・」
北海道か・・・なぜ東京と正反対の方向に・・・
ん?するとあの泳いで渡った湖は津軽海峡だったのか?
まあいい、気にしないことにした
 「とりあえず、山を降りよう、道案内頼めるかな」
 「はい、こちらです」
俺は彼女についてった

ここは・・・彼女の家か?ずいぶん大きいな
 「私の家です、どうぞ入ってください」
 「えっ?いいの?見ず知らずの人いれちゃって」
 「見ず知らずの人ではないですから」
俺はとりあえず、お茶でも一杯もらおうと思い、入ることにした
彼女の家は純和風でほとんどが畳部屋だった
俺は客室に案内され、お茶を出された
目の前には彼女のお父さんが、そして横には彼女が
 「実はね、お父さん、この人に熊に襲われそうなところを助けてもらったの」
 「ほうほう、それは、よかった、ありがとう若者よ」
なんか感謝された、ちょっとうれしかった
 「それでね、実はお父さんに話したいことがあるの」
 「ん?なんだ?」
なにやら重要そうな話しだ、俺は居ていいんだろうか?
ちょっと席をはずそうと思ったとき彼女は言った
 「実は、私、この人と結婚するんです!」
へっ?と思った瞬間、俺は吹っ飛んでいた
お父さんのドロップキックが見事に俺の顔面にクリティカルヒットし
後にあった障子ごと吹っ飛んだ
 「き、きさま〜わしの娘になにを〜!」
俺はお父さんに蹴られながら聞いた
 「なぜにいきなり結婚?」
 「だってお嫁にもらってくれるって言ったじゃないですか」
 「いや、それは言ったけど、見られた場合で・・・それにあれは勢いで・・・」
 「見た・・・じゃないですか、責任とってください」
俺は・・・見たな、いや、しかしあの場合は・・・関係ないか
俺はまだお父さんに蹴られていたが気にせず言った
 「おかしいよ、お互いの名前も知らないのに結婚なんて」
 「お名前は?」
 「菊池明人」
 「私は田中彩です、ほかには知りたいことありますか?」
 「あのね、彩さん・・・いや、特にないです」
もう聞くこと、話すことが無く、とりあえず頭がまっ白だった
この日は、この家に泊めてもらう事にした、条件はお父さんと一緒に寝る事だった

目覚めは最悪だった、俺はお父さんに抱きつかれていた
俺はとりあえず彼女と話しをするため、彼女の部屋へ
 「その、なんでしょうか」
その前に、あのドアのむこうにいる、お父さんをどうにかしたかった
まあ、聞かれても困らないし、気にしないことにした
 「少し話しが戻るのだけど、見られただけだよね」
 「見られました・・・」
彼女の顔は赤くなっている
今時珍しいのではないか?こういう純情なのは?
彼女にとっては、どうやら見られたことはかなり重大らしい
 「結婚って言っても、なんだ、その、俺の事とか何も知らないだろうし」
 「大丈夫です・・・これから知っていきますから」
 「いや、ですから、俺、とっても悪い人かもしれないよ
  それに結婚してからじゃぁ、気づいた時には遅いと言うか」
 「受け入れるつもりですから・・・」
 「どうしようかな・・・」
俺は深く考えるのであった・・・
そして昼は彼女とデートすることになった
お互いを知るために・・・

とりあえず、あの、こそ泥のようについて来る人をどうにかしたい
 「な、何かしたいことある」
 「いえ、特にこれといって・・・」
どうしようかな、とりあえず金は持っているけど・・・
 「ところであれ何?」
 「あれは図書館です、ここらへんで一番大きいんですよ」
確かにあれは大きいな
 「本とか好き?」
 「はい」
彼女は笑顔で答えた、どうやら相当好きらしい
 「それじゃぁ、図書館でいい?」
 「いいんですか?」
 「ああ、本好きそうだから」
 「ありがとうございます・・・やっぱり悪い人じゃないですよね」
しまった、いい印象を与えたか、まあ仕方ない

図書館に行くと、ものすごい量の本があった
彼女の目はものすごく輝いている、ここに来たことが無いのかな?
 「あのさ、もしかして来た事無い?」
 「はい、あまりお父さんが外出を許してくれないので」
なぜ今日は許したのだろう?気にしない、気にしない
俺はとりあえず適当に本を選んで座る
それから彼女も隣に座り本を読む、俺の2倍ぐらい厚い本だな
俺が本を読みをわるころには日が沈みかけていた
よくよく考えると、お互いを知るためとか言っていたが
あんまり話してないから、これはどうなんだろうと思う
横を見てみると窓から射し込む光が彼女を照らしていた
それは昨日見た、水の妖精とは違って、天使のようだった・・・
おっといかん、このままだと本当に結婚してしまうぞ
俺はそう思いながらも彼女の横顔を見ながら
彼女が本を読み終えるのを待った

俺はずっと彼女の横顔を見ていた
 「その、ずっと見られると・・・はずかしいです」
 「ああ、ごめん」
 「待っててくれたのですか?」
 「いや、そのつもりは無かったけど」
 「いつから、その、私を見ていたんですか?」
時刻を見ると8時を過ぎていた
 「2,3時間かな」
彼女はそんなに見られていたのかと思って赤面している
 「ごめんなさい、そんな待たせてしまって」
 「いや別に気にしなくていいさ」
俺たちは図書館をあとにする
 「あの、明人さん」
初めて名前で呼ばれた
 「どうかした?」
 「行きたいところがあるのですけど、いいですか」
 「かまわないけど」
俺は彼女とともに、その場所に行く
そこは神社だった
 「ここで待っていてください」
と言われたので俺は彼女を待っていた
やがて彼女がやってきた
 「これを」
手渡されたのはお守りだった
 「どうしたの、これ?」
 「えっと、待っていてくれたお礼です」
俺は受けとっておくことにした
 「ところでこのお守りは何を願っているの?安全悲願」
 「えっと・・・では熊に襲われても大丈夫なように」
 「できればその、熊に会わないように、にしてほしかったな」
 「それと、いろいろです」
 「ふ〜ん、まあいいか、帰ろうか」
 「そうですね」
俺は彼女とともに家に帰る

家について玄関を開けるとお父さんが
 「おそいんじゃ〜!」
と言いながら俺にドロップキックをしてきた
俺はそれを華麗に両手で受けとめ、ひっくり返してやった
するとお父さんが
 「ホヴァ!」
と言いながら顔を地面にぶつけていた
ホバークラフトにでも乗りたいのかな?
 「なかなかやるな・・・」
と花を赤くしながら言ってきた
ところでお父さん何歳?ずいぶん年寄りくさい喋り方をしているが・・・
今日、寝る時怖いな

今日の目覚めも最悪だった、お父さん、背骨が折れそうだよ
今日も昼からデートをすることになった
当然、こそ泥も一緒だが・・・
 「ところであれ、気がついてる?」
 「お父さんですか?」
 「うん、そう」
 「いつものことですから・・・
  でもたまにはお父さんのいないところで羽を伸ばしたいですね」
 「じゃぁ俺がつれてってやるよ」
そういって彼女を抱き抱える
 「えっ?」
時間を止める
そして、全速力で走る
30秒たつ寸前にタクシーに乗った
 「とりあえずだして!」
タクシー運転手は驚いていたが出してくれた
 「えっと、何をしたのですか?」
 「瞬間移動みたいなもの」
 「すごいですね」
彼女はこんな言葉を信じるのか・・・
 「どこ行きます?」
 「じゃぁ、海にむかってください」
そういって俺たちは海にむかった

海につくと彼女はとてもうれしそうだった
 「海でよかったのかな・・・」
 「はい、最近海に来てなかったので、とてもうれしいです
  昔は、よく連れて来てくれたのですけどね」
彼女は笑いながら言う、だがそれはとても悲しそうだった
 「お母さんが死んでからは来てないんです」
 「もしかして・・・」
 「はい、お母さん、私を助けるために海で溺れて死んじゃったんです
  だから、それからは海にきてないんです
  その時、お父さん、お母さんに私をよろしくって頼まれたらしいんです
  だからあんなに心配して・・・」
俺は海につれてきてよかったのか悩んだ・・・
 「ところで明人さん、さっきのどうやったんですか?」
 「もしかして瞬間移動の話?」
 「はい、そうです」
俺は話していいのか悩んだ、が隠す必要が無いので話した
 「実は俺、時間が止められるんだ30秒だけ」
 「そう・・・なんですか?」
 「なんかいきなり使えるようになってた・・・
  だから使えなくなるのもいきなりだと思う」
 「すごいですね」
 「まあ、この力があるうちはすごい人に入るんじゃないかな」
 「そうですね・・・」
それからしばらく俺と彼女は海にいた

翌日、俺は彼女とデートをしようとしたが
 「ためだ、だめだ」
と、お父さんの妨害にあった
俺も抵抗したが残念ながら結果は駄目だった
今、彼女の部屋にいる
 「どうして、お父さんに何も言わないの」
 「お父さん、私のこと心配してくれてしてることですから」
 「言わなかったら、ずっと家から出られないかも知れないじゃないか」
 「でも・・・心配してくれてるから」
 「ちょっと出かけてくる」
そういって出かけることにした
俺は海にいた
海の潮風に揺られながら深く考える
多分あれは彼女のいいところなのだろう
でも素直に言いたいことを言えないのは、幸せなのだろうか?
何で俺こんなに悩んでいるのだろうか?
彼女と会って数日しかたってないのに・・・
彼女が心配だったからか?いや、そんなんじゃない
帰ろうと思ったらすぐに帰れたはずだ
なのに、俺はこんなにも彼女のことで悩んでいる
俺は深く考える、やがて俺は一つの結論に辿りつく
俺は彼女を見たとき見とれていた、ただ単に綺麗だったとか
そういうのも含めて、俺は彼女に惹かれてしまっていたのだろう
だけど今の気持ちは惹かれているとか、そんなもんじゃない
俺は彼女のことが好きなんだ
俺はとりあえず、さっき言い過ぎたと思い、謝りに行くことにした

家に着くと彼女はいなかった
 「山のほうに行ってしまったよ」
 「どうしてついていかなかったんです?」
 「山は詳しくないから、迷ってしまう」
俺は走ろうとするが止められる
 「山は危険だからな、これをもっていけ」
手渡されたのは鉈だった、俺はそれを受け取り、全速力で走る
この前熊に襲われたばかりなのに、何をやってるんだ?
多分、俺たちが始めてあった場所にいるはずだ、なぜかそんな気がした
俺の考えは的中した、彼女はやはりそこにいた
しかし、残念なことに自体は最悪だ
彼女は今にも熊に襲われそうだった
 「はやく、こっちに」
俺は叫んだ
彼女は俺に気づき俺のほうに走ってくる
 「さあ、はやく山を降りるんだ」
 「でも明人さんが」
 「心配するな、俺には時間を止める力がある」
 「・・・・・わかりました、すぐに追いついてきてくださいね」
彼女は走る
俺は熊と睨み合っている
さて、もう十分かな、彼女も結構走っているだろう
熊が襲い掛かってきた
それと同時に俺は止まれと強く念じた
あれっ?止まらない、なぜだ
俺の左肩に熊の一撃が入り、吹き飛ばされた
くそっ何でこんな時に・・・
やばい、足にきている、これじゃぁ走ることも出来ない
左肩の骨もやられたな
俺は木に背を掛ける、絶体絶命だ
右手を見ると鉈がある、しかし何の役にも立たなかったな
熊が一歩一歩近づいてくる
他に何かないかとポケットを探る
そうすると、彼女から貰ったお守りが出てきた
・・・しかたない、最後の悪足掻きでもするか
俺は思いっきり力を込め鉈を熊にむかって投げた
するとそれが右手にあたり、熊の手から血が出た
これで逃げてくれれば助かるのだが・・・
熊は逆上して俺に走ってくる
死んだな・・・と思ったとき銃声が聞こえた
どうやら熊に当たったみたいだ、熊は倒れていた
俺は安心した、そうしたら段々と意識が遠のいていった
意識が途絶える間際、俺は彼女の姿を見た

俺が意識を取り戻した時
俺は病室にいた、もちろん左肩は動かなかった
あれっ?足にもギブスが・・・もしかして折れていたのか
まあ、生きてるって事はお守りが効いたんだな・・・
横を見ると彼女が泣いていた
 「その、元気出して」
どうやら彼女は俺が意識を取り戻したことに気づいたようだ
 「どうして、止めなかったんですか」
 「いや、力が使えなくなってて、これで俺も一般市民だな」
 「すぐに追いついてきてって言ったじゃないですか」
彼女は泣きながら言う
 「ごめん・・・走れる状況じゃなかったから」
 「謝っても許しませんから」
 「だって花嫁さんを傷つけさせるわけにはいかないだろ」
 「えっ?」
 「でもこんなぼろぼろの人とは結婚してもらえないかな?
  これじゃぁ責任取れないな・・・」
すると次の瞬間、俺の時間は止まった、実際には止まっていないが
俺にとっては止まっていた、今まで止めた30秒よりも長く感じた
彼女の唇と俺の唇が重なっていた、彼女の唇がはなれていく
 「責任とってくださいね」
 「俺でよければ・・・」
それから数ヵ月後、俺の怪我が治ってから結婚式を挙げることになった

式場では
とても幸せそうな顔した
俺と彼女の姿がそこにはあった・・・

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