戦闘機その2(34~39停止目)

 戦争なんかが起こっているとは思えないような、
青い空が広がっている。
実際の戦場の空は、こんなに綺麗なのかなと思う。

まぁ、実際は灰やらなんやらで暗く見えるとは聞くけど、
こんな青空を見るとそんな話が嘘のように聞こえる。
そう感慨に耽っていると後ろから声が聞こえた。

「おいおいおい、滑走路の上で何やってんだ?吉田ぁ。」
と、富岡大尉が声をかけてくる
「いやまぁ、暇だから。」
と俺は返した。

端から見たら唯の電波君にしか見えないと自分の中で思ったが、
その思いは忘れることにした。

ここ、ハテコダ空軍基地は、他の空軍基地と少し違う。
まず、この空軍基地には、テストパイロットしかいない。

それは、ここが戦線から離れた東部にあるかららしい、
それにこの基地では、あまり階級というものが幅を利かさない。
軍隊といえば、強制力であり。上官は絶対。
というものが基本だ。もし強制力がない軍隊が
あるとするならば、戦場での判断力に欠け、
即、死へと繋がる。
よって軍隊では、強制力が必要だ。

しかし、この基地はテストパイロットしかいない。
ここに送られてくる戦闘機に難癖をつけ、あらゆる状況を考え、思考する。
そこに判断力という物は確かに必要だが、戦場のそれとはまた違う。

確かに、軍隊だから強制力はある。しかし、この基地では
階級が一つ、二つ違うからといって敬語をつけるなどの
野暮なことは、しないし。
一々、正式な敬礼もしない。

「お前、アホだろ。というか、そんなことしたいなら他でやってろ。
滑走路の上でやることじゃねえよ」と富岡大尉は言う。
「あー、後。戸田中佐が、俺の部屋に来いとか言ってたぞ。」
「戸田中佐が?ああ、任務の話か。携帯にかけてくれればいいのに。」
「散々かけたが、出ないから呼んで来い。とか言われたぞ。
なんでもいいから早く行け。俺が後で色々言われるからな。」

そう言われ携帯を見てみると、着信が5件。
全部、戸田中佐だった。
俺は、彼の待つ小隊管理室に急いだ。

 小隊管理室のドアに着く。
ドアを三回ノックしてから、相手の返事を待たずに入る。

俺が入ると戸田中佐は、一瞬顔を歪ませ、
「中尉。1500にて、現在、テスト中のFX−19Xの飛行試験を行う。」

時計を見てみると、今の時間は2時過ぎだった。
「え?一時間後ですか?」
「そうだ、お前に最初、連絡したのが12時だったからな。」
そう、俺に嫌味を言ってくる。

「なんでもいい。とりあえず、今回の飛行試験の概略などは、
この資料を見たらわかるだろ。」
と戸田中佐は、俺にバインダーを寄越した。
バインダーの紙には、要約すると電算装置の確認と書いてあった。

「で、前回の報告書に書いたECMの不備はどうなりました?」
「あのA/B時にECMの電波が弱くなるという話か。
それなら、今回は見直された。その指摘があったから今回、
お前に電算回りを調べさせようと思ったわけだ。」

「FX−19が正式に戦線投入されるのはいつごろになるんですかねぇ。」
と場の雰囲気を和ますために少し砕けたように言った。
中佐は、机に置いてあるコップの中にある飲み物を一口、飲んだ。
そしてちょっと、緊張を解き
「今の戦線は、膠着状態にある。
確かに戦闘機はそんなにポンポン変わるものでもないが
この戦況を打破するためには新型が必要だからな。
おそらくこのテストを終えて、問題がなければ最終チェックを
して戦線に投入されるだろう。」

少し、真剣な顔になり
「計画では、半年で38機生産されるらしい。」

吉田は、この事を聞きあることを思った。
「今回の戦争ではそれ以上の機が犠牲になっていますが…。それでは…。」
今度は、砕けた顔になった中佐が
「それ以上言ったら、憲兵のところに連れて行くぞ。」
「じゃあ、後はこれで終わりだ。早く行け。」

時計を見ると長い針が2と3の間にあった。
吉田は、また駆け出して行った。

 バインダーを見ながら走る。
普通の基地なら、誰かとぶつかるかもしれないが、
この基地には人が少ないし、こういうことは、
よくあるので普通に歩く者が注意して歩く。
富岡の横を吉田が走っていく。
アイツも色々と忙しいな、俺も頑張らないとなぁ。と思いながら。
わざわざ来た道を振り返り吉田の後を追った。

 吉田はかなり忙しいことになっていた。
Gスーツに腕を通しながら、資料を読んでいく。
その資料には、特に注意することは書いていなかった。
Gスーツに着替え終わり
FX−19にゆっくりと乗り込む。

そこで、サバイバルキットと自分を左右に繋げ
そして今度は自分をシートベルトで固定し
この時、人工筋肉やらなんやらがついたGスーツを機体とつなげ
パラシュートを自分と連結させる
そして最後に足も固定する
もう、ほとんど身動きが出来ない状態になる。

時計は、長い針が8辺りにあった。
ここで計器類の簡単なチェックをする。
オールグリーン。

エンジンスタート。
「エンジンスタート。」
戦闘機からそういう声が返ってくる。

「こちら、ピグ、T−2。管制塔。滑走路進入許可要請。」
吉田は、管制塔にコンタクトする
「こちら、ピグペン。
T−2。滑走路進入を許可する。」
管制塔からの応答。

しかし管制官は、女性が多い。そういえば戦闘機の計器類も
女性の声が使われている。
そんなつまらないことをふと思い。応答する
「T−2了解。」

そのままゆっくりと滑走路の端まで移動する。
この時、他の機は出ていないか、滑走路に障害物はないか
自分の目で確認する。
そして滑走路の端に着く。
そこでしっかりとブレーキを踏み
ここでも計器を確認する。

そして次にエンジンチェック。
エンジンをふかし、エンジン計器類が正常に動いているかどうかを確認する。
そのチェック中に電気系統やエアコン系統も確認。
どれも正常のようだ。

また滑走路に目をやり障害物をないことを見やる。
「こちらピグペン。T−2、離陸を許可する。」
離陸許可が出た。
ここで、仕様書通りのパワーまで上げ、ブレーキを離す。
ゆっくりとFX−19は動き始める。
この時忘れずにエンジン計器を確認し、
スロットルをアフターバーナ領域へ進めまる。

急激な加速感と、エンジンノズル計器の開きが、
アフターバーナへの正常点火を教えてくれる。
ブレーキを離して約4秒、すでに速度は100?を裕に越えている。
空中まであと少し、ここで吉田は、計器に異常がないと判断し
加速を続ける。

そして、離陸速度が近づいてくる。
ゆっくりと機首を引き上げ、離陸姿勢にする。
すると自然に浮き上がり、浮揚を確認する。
そしてギアを格納。

適当に機首を上げ、速度は音速の一歩手前にする。
ここで管制塔から
「T−2。決められた進路を進め。方位10時方向。」
吉田は機首を10時方向に向ける。
その間に各計器。翼。反応性などに注意する。

 やっぱりいい機体だ。
そう吉田は、思う。

今までのものより、反応性も良いし、
この新型Gスーツのおかげで9Gでの旋回もそう簡単に気絶しない。

でも、このGスーツはコストがかかるらしいので
テスト部隊と限られた部隊にしか行き渡らないらしい。
でもそれがこの戦闘機の恐ろしいところだと思う。

設計段階では、Gスーツとの併用を元に考えられているから
9Gを越える旋回でも空中分解しないように考えられていると言う。
ソフトのスペックが上がったのでハードもスペックを上げたのだった。

よって、敏捷性と反応性も強化された。
もし普通のGスーツでこの戦闘機に乗ったらと思うと恐ろしい。
中佐にこの件の事を話した。
数日後「どうも開発側は、絶対装着しろといっているが
軍側の上層部は大丈夫だ。という考えらしい。」
という言葉を聞き憤怒したものだ。

そんな中ウェイポイントを通過。
航路変更。
右に大きく4G旋回。

Gスーツが膨らむ。そして、このスーツ独特のうねりがやってくる
体がマッサージチェアの上にいるような感覚だ。
下腹にぐっと力をいれなくても
体は、エレベーターに乗ったときのような、
少し下腹部が変な感じになるくらいだ。

 周りを見ると海より青い濃紺が広がり下には雲の海が見える世界。
吉田は、この光景が好きだった。
戦闘機乗りでこの光景が嫌いというヤツは少ない。

誰もがこの光景を見て、空に心を奪われ、
どんなに足の裏やふくろはぎ、二の腕など柔らかい部分が内出血しようと
もう一度、空に上がりたくなるのだ。

戦闘機からの航路を補正せよという警告で
現実に取り戻される。
姿勢を水平に保ち、左ラダーを踏みこむ、
そして進行方向を安定させる。

また、機内はエアコンの音と時々鳴る電子警告音ぐらいしか
聞こえてこない世界に戻っていく。

しかし、やっぱり邪魔が入った。
「こちら、ピグペン。T−2。超高速度試験領域に入った。
超高速度試験を開始せよ。」
ロマンチックな感情をぶち破ったのは、
全く感情を感じられない女オペレーターの声だった。
「了解。」

基地から約230?。
高度4万フィート。

エンジンの調子を上げ、アフターバーナーの状態にする
すると途端に衝撃音が聞こえ
音速を超えたことを教えてくれる。
まだまだ、加速させ続け、
音速の2倍以上の速度になる。
一昔前の戦闘機だと、ここぐらいが限界だったが
さらにスピードを上げる

マッハ2.9
仕様書に書かれている最高速度に近づいていく。
しかし、吉田はこれ以上加速すると機体が危険だと判断し
減速しながら上昇していき高度8万フィートまで上昇させる。

そこは宇宙空間の一歩手前の場所。
上を見上げるとまだ昼なのに星空が見える。

吉田はそこからゆっくりと減速しながら降下していく。
その間基本的な空中機動をして、だいたいの試験は終了。
後は、着陸するだけのみとなる。

ここでもまた、吉田はこの戦闘機はいいと思った。
いつもならここで燃料が危険だ帰投せよと戦闘機がうるさくなるところだが
こいつはまだ、そんな風には言っていなかった。

 基地まで、約2?。
ギアダウン。
着陸態勢に入る。

晴天で、風も弱く、修正操舵はそれほど苦労しなかった。
滑走路と車輪の差が15mと25センチになったのを肌で感じ
さらに降下させ徐々に降下率を下げていく。
すっと車輪が接地する。
「ナイスランディング。」
戦闘機がそう褒めてくれた。

まぁ、どの機体でもドシャンと接地した時でもこう言ってくるが
悪い気はしなかった。
それから、一定の速度まで減速させる
しかしここで一気に加速させる。
そしてまた、空へと出る。
タッチ・アンド・ゴーをして、全ての試験終了。
着陸態勢に入ろうと高度を上げ反転する。

そこで
「こちらピグペン。T−2。アップデートミッション。
そのまま高度5万フィートまで上昇。
超高速巡航でレークを目指せ。
詳細はレーク上空で伝達する。以上。」
いきなりの追加ミッションはよくあることだが、レークまで行くとなると
燃料の面で不安になった。
「了解。」
「こちらT−2。しかし、燃料は持つのか?」
「今回の任務に対しての質問はするな。これは命令だ。
後、燃料は持つ。安心しろ。」
さっきの女オペレーターとは全く違う
感情のこもった、低い声で戸田中佐が言ってきた。

そして、俺は少しの不安を持ちながら、レークまで行くことになった。


序章〜end〜

 

第一章 666


 「ここは、どこだろう?」そう心の中に疑問が浮かんだ。
そして目の前を見てみる光が滲んで見える。
何かの水槽のような物の中にいる事が分かった。
私は魚なのだろうか?そんな風に思えるぐらいに

意識が朦朧としている。
すると外から、何か声が聞こえるけど、私には良く聞こえない。
この水槽のガラスがその人たちの音を消し去っているようだ。

 「で、被検体666はどうなっている?」
体は、見るからに痩せこけていて、顔にはでかい眼鏡をかけている白衣の
男に灰色のスーツを着た男がそう尋ねていた。
「こちらの666は順調です。実にすばらしい値を出しています。
666は、成功例ですね。データを見ますか?」
白衣の男は薄く笑みを浮かべながら
灰色スーツの男に尋ねる。

灰色スーツの男はそんな男の様子を見つめ一つため息をつき
すこし怒気を強めた
「いや、もうすでにデータは見ているし成功例だということは
分かっている。単刀直入に言うと何時、我々の物になるのかだ。」
「いや、今からまだ検査が残っていますし。これからの発展のためにも
もっと多量なデータ採取が必要ですし、まだ正確には…。」
白衣を着た男は、語尾を濁し。渡さないと言ってきている。

 灰色スーツの男はこの言葉に憤慨した。
「私を舐めてもらっては、困る。これは軍の構想ダブルEPにより
発見された物だ。もちろん、私にこれを管理する権利があるだろうに
貴様がそういう態度に出るのなら、私は実行力を持ってここを占拠する。」

男は耳に着いている無線機を作動させ。
「アルファ、ロスト。ただいまよりベータに移行。」と声帯を振動させた。

 すると脇に控えていた二人の黒スーツを着た屈強な男達が
一瞬にしてその場にいた白衣の男の首を掻っ切り、
男は首から噴水のように血を噴出し、周りの物を血の色で染めていき
地面に倒れた。

それから数秒、施設の色々なところに仕掛けられていた爆弾が炸裂する。
建物は大きく振動し、天井から砂のような粉が落ちてくる。
しかし、崩れないようだ。

鮮血を浴びたコンソールを灰色スーツの男が操作し目の前にある
水槽の水を抜く、羊水に近い水らしいが抜けていく様からはわからなかった。
水がなくなると水槽の中身が見えた。
そこには、まだ若い17、8ぐらいの
女の子がいた。

屈強な男たちはそれを見て驚き。一人が、
「意外に若いんですね。もっと歳がいってる人だと。それに美人だ…。」
「ふん。39だぞ。見た目など、どうとでもなる。しかし、
この見た目は能力なのか、それとも何か実験の副産物なのか
よくわからんけどな。」
灰色スーツの男はおどけた表情になり
「しかし、そこの男は色々と知っていたのかもな。
まぁ、色々と調べるし後々分かるだろう。」
と言った。

すると、バタバタと5、6人の都市迷彩を施した制服を着た者たちが入ってきた。
チェンソーを持った者はすぐに分厚い水槽に亀裂を入れていき、
2,3人のライフルを構えていた者は、周辺を警戒している。
男が倒れていることなどには気を留めず、この部屋で動くものに
神経を集中させていた。
チェンソーの音が変わり穴が開いたことが分かる。
そこから四角に切れ目を入れていき
すぐに人が入れるくらいの大きさの穴が開いた。
ぐったりした女が倒れそうになったが、屈強な男が抱きかかえ
担架にのせた。

 何も聞こえない。でも、目の前の一人の首から赤い水の噴水が
出来ていた。それを見て私は、気持ち悪い。と思った。

ん?気持ち悪いって、なんだっけ?

よくわからない。まぁ、どうでもいい。
けど吐きそうになった。いや、少し吐いた。
そして、酸素ホースが詰まったようだ。
息が出来なくなり、意識が少し飛んだ。

でも、すぐに酸素ホースは自動で洗浄され。新鮮な酸素を送ってくる。
再び意識が戻った時、うっとおしい水はなくなっていた。

自分が二本の足で立っているのが分かった。
このとき、ああ、私は人間なんだな、いやだな。と思った。
水がなくなると今度はうるさい音が聞こえてきた。
さっきまで何も聞こえなかったけど、私にはちゃんと耳が
あるんだなと思った。

すぐに穴が開く。穴から見える外ははっきりと見えた。
私と違うゴツゴツした腕の人が抱きかかえてくれた。
お父さんみたい。そんな風に思った。
ぬれた服ごと白い布を張ったよくわからないものに乗せられた。
そのまま私は、そのよくわからないものに縛られた。
そして、それに乗せられ階段を上っていく

一人の男が
「気分は、どうだ?
まぁ、モルヒネとステアロイドを大量に摂取させられたようだな
正直、俺の言ってることがよく分からないと思うが。
お前は、合格だ。
今から、他の施設に移送するが、
何か要望はあるか?お嬢様。」

男はおどけながらそんな事を言ってきたようだった
私は、よくわからない。
とりあえず、この縛られるのが嫌だったから
「外して。」
とだけ言った。
すると男は、私を階段の途中で止めてくれて
この縛りを外してくれた。
すると男は、
「おやすみ。」
と言ってきた。

その瞬間、私は何かを点眼されて
途端に眠くなって、まぶたを閉じた。

 女を眠らせて、研究所の屋上まで来た。
屋上にはヘリがホバリングしている。
女と黒スーツの一人がヘリに乗り込み。
そして、ヘリは上昇し夜の闇に消えていった。

灰色スーツが
「作戦終了。部隊は、これより撤収。」
残った黒スーツが復唱する。
そしてすぐに、爆音が聞こえてくる。
黒いカラーリングをしたVTOL機が
雲の合間から現れ、屋上に着陸する。
灰色スーツは後席に乗り込み、後席に置いてあったGスーツを着る。
VTOL機は、すばやく上昇し
少し上昇するとアフターバーナーで上昇。
機首が一気に下を向く
しかしそのまま加速し
地面すれすれで上昇に転じる、
そして雲の上まで一気に上昇していった。

 雲の上で前席のパイロットが
「小西少将。どちらまで?」
灰色スーツの男が答える
「分かってるだろ、カバワ町だ」
超高級タクシーは小西の言うカバワ町まで飛んでいった。

 カバワ町上空に到着する。
カバワ町とは、小さい飛行場と少しの民家しかない島の事だ。
近くには、大昔に世界最大の戦艦が泊まっていた海軍の基地がある。
そんな所にある小さな島に轟音を轟かせて
VTOL機が着陸する。

目の前には、すぐに牽引車が現れ。エレベーターまで運んでいった。
そんなエレベーターに乗ってる機上
「で、例のヤツはどうなんだ?」
パイロットが即答する
「あれは、なかなかの逸材かと思われます。」

小西は狭い後部座席でゴソゴソとGスーツを脱ぐ。
ジッパーを下ろし、上半身だけスーツ姿になると
胸ポケットから、ラッキーストライクを取り出した。
パイロットはその動作に気付きキャノピーを開ける。
コクピット内に地下独特の強い風が入ってきた。
小西はその風が強すぎるのでタバコを吸う事をやめることにした。
地下50m近くまで潜ると
エレベーターは止まった。

「まぁ、いい。サブジェクトデルタは貴様に一任している。
俺は、お姫様のお世話でも、しに行くか。」
そう言うと小西は近づいてきたタラップに手をかけ降りていった。

 バラバラとうるさい騒音が聞こえてくる。
666はそんな喧騒の中、目を覚ました。
体を起こすと視界には、いかにもボディガードという感じの
若くて体の強そうな暑苦しい男と
地上との無線の交信に大忙しの操縦士たちの姿しか見えない。
操縦士らは、地上からの無線に怒鳴り散らしている。
彼女は彼らを数秒見ると飽きてきた。

そしてすぐさまに空腹と強烈な喉の渇きを感じた。
近くにおいしそうなものがなかったので屈強な男に
なんかある?と聞いたが、屈強な男は何も返事をしてくれなかった。
そして666が、君はつまらない人だな。と言うと
男は何も答えず、ただ少し小さくなったように見えた。

つまらないので彼女は窓を覗き空を見る。
空は雲が広がっていて暗かった地面の方もここは都市部では
ないのだろう、ぽつぽつと明かりが見えるくらいでしかなかった。

空にまた目を戻すと、50mぐらいだかろうかそれぐらいの近くを
金属製の流れ星が下から上に昇って行ったのが見えた。
すごく綺麗で、それでいて乱暴

そんな印象を彼女は持った。今までの憂鬱な気持ちから、
ちょっと晴れた気持ちになった。
また外を見ると漆黒の闇が広がっていたので
彼女は興味を失い。
少しまた、寝てしまおうと思った。
しかし、前の操縦席あたりがうるさい。
そんなため、彼女は熟睡とまでいえない浅い眠りに着くことになった。

ヘリが下降する時
彼女は、また目を覚ました。
下には、地面らしきものがあるがそこは、ヘリが止まるために
作られたような場所ではなく、明かりのついていない小さな飛行場だった。

ヘリが接地すると格納庫らしきところから数人の男が近寄ってくる。
タラップが開きヘリの外へ出てくれと数人の男が言う
彼女がヘリを降りる時、上を見るとヘリの羽はまだ回っていた
操縦士達はというと、少し力が抜けたような感じになっていた

男にこちらですと促され、彼女はそのまま着いていく。

近くに見える軍港は光を放っていたが
その反面、島の明かりはほとんど消えていて、それが不気味に感じた。

男たちは、彼女をエレベーターまで案内する。
そして、エレベーターが動き始める。
体に微かなGがかかり少し下腹部が気持ち悪い。
30秒ぐらいの後、エレベーターは止まった。
止まるまでの間、中では無言の空間が続いており
彼女は少し息苦しかったが、そんな雰囲気が嫌いなわけでも
なかった。

エレベーターから降りて廊下を少し歩くと、
質素な応接セットのある部屋に通された。
見たことがあるような、ないような男が
「お嬢様、今回の旅はどうでしたか?」
と聞いてくる。
彼女は率直に
「いきなり、こういうことをする
あなたの事は、嫌いだ。でも、とりあえず話は聞こう。
私はこの身の上だし、それにここから脱走したとしても頼るところもない。
それと…。」
彼女は言葉を区切る。

「私は39だ。お嬢様は流石に冗談でも笑えない。」
と見た目ではどうみても17、8の小娘がそんなことを言っている。

「あはは、、分かった。君にはとりあえず、仕事をして欲しい。
私は軍人だ。そこら辺の兵士と同じ仕事をしなくちゃいかん。
この国を戦争に勝利へ導かないといけない。
その目的を達するには君を使う必要がある。
とりあえず、そのためにここで訓練とかサンプル採取などをさせてくれ。」

彼女は、これまでの生活とあまり変わりはないのでは、と思っていた。

第一章 終わり

 

第二章 槍

 「目標、D(デルタ)上空に到着しました。」
オペレーターがそんな言葉を発していた。
珍しくコマンドルームに来ていた小西が
「届け物が届いたみたいだな。」と答える。
あれから、1〜2年ぐらい経ったころだろうか彼女はもう
そんなことどうでも良かった。そんなことより
前々から見せられていた、このデータが来ることに心が
踊っていた。それにやっと、これで完成すると思うと彼女は
安堵もした。


 超音速巡航をして40分ぐらいで、目的地のレークへ着く。
燃料は、かなりやばかった。増槽はもう海に捨て、
機体に残っている燃料もあとわずかとなっていた。
機体から燃料がない帰投せよというアラートが忙しなく危険を
知らせてくる。

俺はもう一杯一杯だった。こうなれば、レークじゃなく
少し離れたといっても50kもしないとこだが
にある民間空港に緊急着陸でも試みようかと思っていた。
そんな矢先、下から暗号が送られてくる。機体のコンピューターが動き出す
それは、無線周波数を変えろという指示だったということが分かった。
周波数を変える。

すると、珍しく男の声が入ってきた
「ピグ、貴機の着陸を許可する。8000フィートまで降下せよ。」
急に着陸許可が出た。まず自分は何処に着陸するのかさえもわからない。
「足元のレーダーディスプレイを注視せよ。着陸場所、着陸コースは
そこに記載されている通りだ。」
普段はIFF信号波を視覚化してくれる装置が、今はただ3Dの映像で
着陸場所の位置と方角それとアプローチするコースが記載されていた。
突然の出来事で理解が出来なかったが指示に従ってみることにした。

高度を下げていく、高度1万フィート近くから見ると
軍港には、大きな道路が見える。どうもあそこを臨時に滑走路にして
そこに着陸するらしい。
高度を8000フィートまで落とす。
すると違う暗号コードの暗号が送られてきた。
また解析するとそれはまた周波数を変えろということだった。
周波数を変える。
「よし、良い調子だな。着陸場所の変更だ。近くに島が見えるだろう
その島の飛行場に着陸せよ、以上だ。」
どうも今回のテストは、めんどくさかった。
こんな風に着陸場所が変更になることは、今までなかった。
吉田は、どう見ても軽飛行機が止まるような軽飛行場にアプローチする。

そんな中、さっき自分がアプローチしようとしたところに目を配ると
自分と同じ機体がアプローチしていた。

富岡大尉のT−1。
一番機がさっきの大きな滑走路へアプローチしていった。
そんな不思議な光景を見ていると、急にアラートが鳴る。

今まであまり聞いたことのない、電子音。
ミサイルが着弾した時に鳴るものだった。
吉田は、故障かと思い前方のパネルを確認する。

「歯を食いしばれよ。中尉。」
そんな声が無線から聞こえてきた。
次の瞬間、吉田の座席は空中へと射出されていた。
吉田は唖然とした。

次の瞬間は騒然となる、眼前には何の不調もない機が
飛行場に向かって突進している。
パラシュートが開く。吉田はさらに上へと押し上げられる。
下に見える戦闘機はそのまま飛行場に激突し

爆散した。

吉田はそんな光景を横目で見ながら着水する。
わけが分からないまま。シートが沈むと危ないので
まず、シートとの固定具を外すことにした。
まず足の固定を外すと少し楽になる。
次にパラシュート。こいつは着水時に引っかかって取り難かったので
胸元のサバイバルナイフで連結部を切り離した。
後はシートと吉田を強く縛り付けていた
シートベルトを外す。
体にはくっきりとシートベルトの痕が残っていた。
機体を壊して、更にあんなことまで…。どうなるかな…。
そんなちょっと生易しい考えでいると

60mぐらい近くをレジャーボートが通っている。
どうも助けてくれるらしくレジャーボートが近づいてきた。
吉田はシートの上に立ち、手を思いっきり振り続けた。

 吉田が目を凝らすとレジャーボートの上に乗ってる人間は二人
格好は、遊びに来たという感じだが、眼光があまりにも鋭い。
吉田は身の危険を感じサバイバルキットの中にある自動拳銃を手に取り
チャンバーに初弾を送り込む。
そして銃をすぐ抜き出せるように腰のホルスターに入れ
再びレジャーボートを見た。

ボートは20mぐらいに近づいており、
それに乗ってる人間は二人とも男だった。
そして、すぐにシートと接岸する

男たちは急に寸分狂わずに気をつけをし、同時に敬礼した。
吉田は、久しぶりに正式な敬礼を見て少々驚いた。
男たちは何食わぬ顔で「お乗りください。」と言ってきた。
吉田は、レジャーボートに恐る恐る乗り込んだ。
すぐにレジャーボートは動き出していく
「で、これはどういうことなんだ?」と吉田が
近くで見るとかなり屈強な男に尋ねる。
「この任務においてあなたに質問する権利はありません。ご了承ください。」
すぐにそんなふうに返され、吉田は言葉を失いあせりの色を見せる。
そんな様子のを見た男は、吉田の口にハンカチを当て眠らせた。

 吉田は、二日酔いの朝のような感覚で起きる。
疲れは全然とれてなく、体が重く感じる。
少し二日酔いの朝と違うのはパイロットスーツを着たままで
周りは剥き出しのコンクリートと窓も無くただパイプベッドと小さな机が
置かれた無機質な部屋ということだけだ。

よく近くを見ると背もたれに体を預けて俺のことを不思議そうに
見てる女の子がいた。

女の子は俺が起きたことに気付いたのか、顔を少し変え
「私のベットなんだけど……。」と小さな声で言う
俺はまだ寝ぼけ眼のまま上半身を起こし
「ああ、悪い。」と当たり障りの無い返答を返す。

「いや、まだ寝てていい。そっちの方が襲いやすいし。」
自分と歳が10以上は違う見た目の小娘が俺にとんでもないことを言い放った。
俺は倫理的に間違いを起こさないように、そそくさとベットを出、
ドアへと歩み寄り部屋を出ようとした。
しかし、ドアノブを何度まわそうとしても途中で止まってしまう、
――ロックされていたのだ。

そんな俺の必死な様子を見た彼女は少し笑って
「君は、やっぱおもしろいな。」と言い、表情から少し緊張を解いたのが分かった

そんな中、ドアが開いて一人の上官風の男ともう一人屈強な男が入ってくる
「お前が笑うのは珍しいな。まぁ、そんなことはどうでもいい
吉田中尉。君は、今日付けでこの基地の所属となる。」
いきなり、移転を申し付けられ戸惑った。
でも俺は凛とした態度で心に決めていることを言う事にする
「いや、しかし荷物もありますし。それに私は実戦部隊に戻るのなら
依願退職します。」
そして、いつも尻のポケットに入れてあるクシャクシャの退職願いを
上官風の男に渡した。上官風の男は封筒を受け取る。

「確かにこの基地に駐留してる部隊は実戦部隊だ。
君が辞めるというなら仕方ない。しかしだ。」
男は意味深な顔になる
「辞めるのなら、君をここで射殺する。拒否は認められない。」

屈強な男は、明らかにオーバーキルな でかい自動拳銃を俺に向ける。
「話が違う。」
少女が俺を狙うマスターキーの射線上に姿を晒し、俺を庇ってくれた。
「それにその銃は、はったりだろう?」
彼女は口の端に笑みを浮かべ、そう上官風の男に言った。
「全てはお見通しか。流石だな。いや、私がそのように育てたというべきか。
しかし、中尉が辞退するなら殺すしかない。それは分かるだろ?」
屈強な男は銃を下ろす。

「分かっている。少し時間をくれ。すぐに説得してみせる。」
俺を通さない俺の会話が二人の間で行われる。
俺を説得する?……小娘に俺の何が分かるんだ?
殺されるなら殺されたっていい。俺はそんな人間だ……。
小娘は俺に向き直る
「君が実戦部隊に行かない理由は知っている。君は最低な人間だ。
しかしだ、君はここに来て欲しい。」

――俺の過去を知っている?

「ブラボー1よりホークスアイ
目標の位置座標を知りたい」
「目標物は方位010距離300マイルだ」

AWACSの指示に従いブラボー各機は機種を方位010方向に向ける
しかし、今日は新人のお守りとはやってられない。
航空優勢空域のすぐ近くだからと言って列機の半数が新人とは……
これだから戦争はめんどくさい。

「ブラボー1よりブラボー各機、フォーメーション、ストライク。」

そう無線に声を入れた矢先にAWACSから急な無線が入った。

「ブラボー各機。高速熱源接近。
方位070 距離250マイル 高度1万フィート 速度は……
マッハ2.1 会敵予想時間 500秒。 数は…3機。」

ブラボー1に乗っている如月大尉は敵が来たことで思考する
こちらは、3番機と4番機がいくら新人だとは言え4機。
奴さん、新人の初任務だからと言って3機できたのか?
まぁいいこっちの三番機はいくら新人とはいえシュミレーションで
エリート殺しの戸田教官を落とした強者だ、お手並み拝見といくか

「ブラボー1よりブラボー各機。
フォーメーション、ファイアストーム。敵は三機だ。各個撃破していくぞ。」
一区切りさせ、もう一度無線を開く
「ブラボー1よりブラボー3.お手並み拝見といきたいところだが
列を乱すなよ、以上。」
「ブラボー3了解。」

無線はオープンにされているのでブラボー4の仙石少尉にもこの無線は
聞こえた
どうも天才と同期でこの編隊に組まれたのは快くない。
自分が足かせにならないだろうか、そんな不安な気持ちになる。
今の無線も天才に送ったものだ。
やはり俺とは、住む世界が違うのだなと思う。
まぁでも、俺にはあいつとは違って地上で待ってくれてる人がいるし贅沢は
言えないか……。
胸ポケットに入ってある恋人の写真を心に思い、いつ結婚を申し込むべきか
などと悩みながら機体をバンクさせていった。

敵がAAM−N?の射程に入る
ブラボー各機はほぼ同時に
「FOX1」と叫び
各機から一本の白い線が出て行く。
その白い線は、目の前の青い空に向かって飛んでいった

「ブラボー各機。敵は散開していく……


??


どういうことだ……?
ふ……増えた!!
か…数が……6機になった!!」

「バカ野郎!!なんで見誤った!!」
如月大尉は、このとき動揺した。
相手の数は6機、こちらは4機。今から増援を要請しても10分は掛かる
AWACSのオペレーターはいきなり嗚咽し始めたのが無線で聞こえた
どうも、AWACSも新人研修中だったらしい
如月は、もうこいつに頼ってもしょうがないと思い部下に指示をする

「ブラボー各機、散開しろ。最大速力で戦域を脱出する。」

さっきまでの勇ましいヘッドオン状態から
全機高度を上げながら8G旋回をして逃げ回る
敵の6機はそれを待っていたと言わんばかりに追いすがってきた
その動きは一糸乱れぬという感じで歴戦の編隊だと分かる。

その編隊に一番後ろ
――4番機が敵の網に掛かってしまった
4番機の横っ腹に向けて敵の中距離ミサイルが襲い掛かる。
「ブラボー4回避しろ!!クソッ!!」

死神が近寄ってくるそんな感覚。
電子音の断続的な音がだんだんと感覚を狭めていく
体は反射的に機体を動かしているが
頭の中は、恋人との思い出で一杯だった。
ダメだもう何も考えられない。でも、生きたい。ただそれだけ、

生きたい。

距離20マイル、
電子音がもう断続的どころかビーといった音に変わっているのが分かる。
一秒が一時間ぐらいに思えてくる
コンマ単位に時間を知覚していく

もうダメだ。

そう思っていたが急に電子音がなくなり体中から汗が今頃になって
噴出してくる。
その感覚で自分は、まだ生きてると分かった。何が起こった……?

「バカ野郎!!列を乱すなと言ったろう、お前は俺までも殺す気か!?」
急に怒声を浴びせられ、仙石は萎縮した。
「少し黙っててくれませんか?――敵機1機撃墜。」
仙石は自分と違う声の主、同期の天才、

――吉田の声 がヘッドセットの中で反響するのを確認した。

吉田は、アドレナリンの高まりを感じながら
仙石を狙うミサイルの目標を自分に変えさせそれを悠々と
9G旋回とチャフの散布で振り切った。
今度は、その旋回の最中で見つけた獲物に向かって
中距離ミサイル、AAM−N?を安心しきっている相手の
後ろに放った。

敵は、反応に一歩遅れてしまいそれが致命傷となる
そして、回避できずに敵の片羽の近くでミサイルは爆発。
そのまま燃料に引火し機体は跡形もなくなる。
ベイルアウトする暇もなかった。

敵の足並みが乱れる。
吉田は、遅れている一機に目をつけフクロウの如く襲い掛かっていく
それに習い仙石は、わけも分からないまま吉田とフォーメーションを組む

「クソ!!  バカ野郎どもめ!!」
「こちらブラボー1.ブラボー2、ブラボー3の援護に回るぞ。」
2機は7G旋回で方向転換
吉田を先頭においた即席のフォーメーションを作る

そんな中AWACSから無線が入る、さっきとは違う場慣れした声だ
「アルファチームがやられ、ワナキオ空軍基地に向かう敵爆撃機部隊
を捕捉した。現在、そちらに手が回ってるため、増援が遅れる
20分だ、20分もってくれ」

今回の任務は失敗に終わった。
爆撃任務のアルファチームがすでにやられた。
航空優勢外付近及び帰路の警護が今回の任務だったが
警護する対象が落とされてしまった。

相手のほうが数枚、上手だったようだ……。

距離70マイル
レーダー警戒受信機が小さな音を立て始める
仙石はさっきの事もあり、ビクビクしていた
しかし、すぐに鳴り止む。
「ブラボー1よりブラボー4、落ち着いていけよ」

距離50マイル
レーダージャミングはバーンスルーになった
それだけお互いが接近してきたということだ。

もう一度戦闘が始まる

ブラボー3はさっき遅れていた一機に目をつけ
高度を取るため機首を上に向ける
それに各機もついていく
あいつの内臓はどうなってるんだ?
などと如月は思っていた。

ミサイルアラートが激しく鳴り始める
ついで無線から無機質に

「ミサイル接近。数10 回避しろ」

10本ものミサイルが飛んでくる
一筋縄でいかないと思いつつも
一気に高度を下げ速度を稼ぐ
吉田は800フィートあたりで水平飛行に移す
そしてまたも9G旋回、機体の一部が
マッハ3を越え、急激な熱を持ち始める
そして機内の吉田は全く息など出来なく、気を抜いたら
すぐに気絶しそうだ。
しかし、吉田はそれに耐えていく。ハイテクの塊、戦闘機でも最後は
根性が物を言うとはアホみたいな話だ

ミサイルはそんな挙動に煽られ三本が地面に突き刺さる

そして吉田はミサイル発射
長距離ミサイルが敵の遅れていた一機に近づく
遅れていた一機は回避しようとするが
間に合わず、爆散

残り7本
しかし、動きに惑わされ3本はもう戻ってこれない距離まで飛んでいく
実質4本
如月が低空で右にフックをかけ、ありったけのチャフを散布
エースのエースたる由縁の機動で、二本を地上に向かわせる
残り2本
仙石は、吉田のすばやい機動に感動する。
敵の数は4機。これで五分五分だ、そう安心しきっていた
そこに敵の中距離ミサイルが2本が襲い掛かってくる
仙石は吉田の動きを真似しながら機体を動かして回避しようとする。

しかし、そこで仙石は軽く意識を失う
――ブラックアウト

俺、睡眠障害かもしれないなwwww
さらに続き

機体が地面に向けて加速していく
それをかばいにブラボー1,2は仙石を追う
気がつくとミサイルは、ブラボー2をロックしていた
ブラボー2は回避行動をとるがその行動も空しく
ミサイル着弾、一瞬にしてパイロットの体は粉々になった

仙石は、意識を取り戻してきた。戦闘機からの警告音どおり
機首を上に向ける。地面が接近しているという警告音が鳴り止んだ

レーダーを見ると列機の一機が消えている
また数的に不利に持ち込まれる。
というか、先輩が落とされた……?
仙石はここであっけに取られ感情をほとんど失った

仙石はさきほど稼いだ速度で
高度と距離をとる。
吉田もそのように動いていた。

如月が遅れる、
親友の2番機が落とされて遅れたのか
いや違う、吉田の異常な機動に振り回された挙句、新人の援護をしていると
二手ほど遅くなっていた
敵は、如月に向かって短距離ミサイルを2本を発射する
赤外線誘導ミサイルは通常警告を発しない。この時も例外ではなかった。
しかし、如月はアイボールでそれが近づいてくるのを確認する
もう打つ手はない。いくらエースでもミサイルを確認できる
距離で回避するのは不可能。
如月は、部下を守ってやれなかったことを後悔し
そしてそのまま、体を空と一体化させた。

吉田は大尉の機体を盾にして敵に接近していた
大尉の機体が爆発したところで
敵に向けて短距離ミサイルを2本発射する
敵は突如現れた機体にミサイルを発射しようとするが
その前に2機が短距離ミサイルの餌食になる

他の2機は吉田は危険と判断し
的を仙石の機に移す
仙石は、その二機の動きに戸惑いながらも敵に向けて
AAM-N?を発射

しかし敵は、ミサイルにミサイルを使い相殺する

そして距離は有視界距離まで縮められ
仙石はガトリングの掃射を真上から受けてしまう
尾翼と主翼の一部を失い、バランスがとりづらくなった。

敵が仙石の機体を通過した時
吉田は仙石の機の下に隠していた自分の姿をぬっと現し
ありったけのミサイルを発射した。
そのミサイルは敵を全てなぎ倒す

そして同時に仙石の機にも着弾してしまった。
仙石は、恋人との思い出など語るまでもなく散っていく。

会敵から666秒の出来事だった

 

「俺の過去知っているなら、なおさらだ
また味方を全て犠牲にするかもしれない……。
俺はもう仲間と飛びたくないんだ。」

「確かに君は単独行動を起こし、死神みたいな機動で味方と敵を全滅さした。
でも、君がエースであることに代わりはない。
それに乗ることになる機体は、基本、単独行動だし。」

吉田は、耳を疑った。
戦闘機で単独行動?
俺の勝手な単独行動で味方を全て犠牲にしてしまったが
戦闘機を単機で使うのは、ほとんどありえないことだ。

「まぁ、一度見てみる? どうせ殺すかどっちかなんだから
見せてもいいよな?」
少女は、屈強な男を従えている灰色のスーツを着た男に質問する。
「ああ、構わない。 通せ。」

屈強な男は道を開ける
少女は吉田の手を引き、行こうと言って部屋を出た。


 暗くてそれでいて、長い通路を彼女はぐんぐん突き進んでいく
俺は彼女の手に引かれるがまま、進んでいく
何度も何度も同じような通路を歩き、彼女がいなければ俺はここで
遭難してしまうんじゃないかと思うぐらいにここは広かった。
そうした中、かなりでかく開けた場所に出た。

そこには、上に頭を向けて起立する黒くて変な宇宙船見たいなものがあった
結構でかい。30mはあるんじゃないんだろうか
そんな様子の俺に彼女は「もうちょっと見てみる?私の力不足で時間は
ちょっとしかないんだけどね。」と気恥ずかしそうに手をつないだまま言った。
俺は手を振り放そうとしたが、彼女は放してくれなかった

俺が少し、と言っても彼女に3分30秒経ったよと言われたので
正確には、3分30秒間だが この宇宙船。まぁ、彼女が言うには戦闘機
というものをじっくり見た。

 さっき俺たちが入ってきたドアからさっきの男たちが入ってくる
「もう最後まで話そうか……。」

男は観念したという様子で俺を見、話し始めた。

「まぁ、これが君に乗ってもらうことになるかもしれない

XX-001 パーソナルネーム、ウルル

現存する戦闘機で最も素早く最もトリッキーそれでいて静かな機体
それに面白い能力もいろいろとついている。
まず、第一に副座だということ
前席にはお前が寝そべって
後席にはこいつが寝そべる。」

男は俺の隣にいる女の子をあごで杓った。

「それに電算装置が普通の戦闘機のそれではない
まぁ、このでかい図体は電算装置関係のせいとも言える。」
そういって男は、宇宙船を垂直に立てていた発射台の下にあるコンソールを
操作して、この宇宙船を水平状態にした。

俺は、このとき初めてこれが本当に戦闘機だと分かった
それにしても綺麗だ。こんな曲線美の美人を俺はまだ見たことがない・・・・・・。
心が吸い寄せられて恋に落ちるような感覚
こいつには魔力でもがあるのだろうか
吉田は、この戦闘機に心を奪われ、戦闘機乗りとしての血が騒ぎ
アドレナリンがガンガン分泌されていく

――こいつと飛んでみたい・・・・・・。

吉田は気付くと、もう口に出していた
「申し訳ありませんでした。この移転の件、了解しました。」
そして吉田は久しぶりに正式で整った敬礼をする。

666は、小西が少しにやついていたのを見逃さなかった。

<第二章 槍 > 終了

第三章

あれから正確には分からないけど一週間ぐらいたった。
とりあえず、ハンガー、自分の部屋それにブリーフィングルームの位置だけは
なんとなく分かるようになってきた。
しかしまだ、食堂に行くには隣の小娘に案内してもらわないと遭難してしまう。

ここ数日、体力測定やら健康診断などを受けていたが、それにしても
健康診断で全身麻酔をされ、手術まで受けたのは初めてだった。
終わってみると別段何かが変わったという印象もなく、麻酔が切れると
普通に歩くことも出来た。
手術が終わり興味本位で腹を見てみたけど腹にメスの跡は見当たらず
よほどの腕前だったのかなどと、不思議に思ったが気にしないことにした。

そんなことより一番驚いたのは麻酔が切れて目覚めると
目前に西田と名乗った小娘がいた事だ。
彼女は、寝ぼけ眼の俺を叩き起こし、ふらふらしてる俺を
負ぶってハンガーまで連れて行きウルルに関する操縦法、特性などなどを
まだ麻酔の余韻が残る体に叩き込んでくれた。
華奢な体の何処にあの力があるのか・・・・・・

まぁ、次から次へとやる事があり、充実感とはまた違う脅迫感みたいなもので
仕事をしていた俺は気付くと来た時からずっとこの穴ぐらに潜っていて
空を見ていなかった。

そして今日、やっと少しだけ暇が出来た。
俺は、空を見ないと勘が戻らないのではとかいう意味不明な危惧が浮かび
西田の部屋へ行き、外へ出るのを誘ってみる。いや、外まで案内してもらおうと思った。
意外なことに二言返事で了解してくれて、今までの子供っぽい言葉だけど
秘密兵器を隠匿するような、そんな怪しい空気はなくなった。

彼女が前を歩き、この穴ぐらから出してくれるよう水先案内人のように
ずんずんと進んでいった。
その姿を見ると、この国が目指した強い国という思想が急に体によぎってきた。

 それは一人の男の体言壮語から始まった。
この国の人々が、十年続いた不況というトンネルに光が差し込み
もうすぐ出口かと思われたときだった。
この国に堆積していた、不平不満を公然と言い続け
その払拭にはこの国を自立させ、同盟国に頼りきらない政策が必要
即ち旧大戦の連合国が押し付けた埃臭い憲法を変え、軍備の拡張というものが
必要だと訴え続けていた。
しかし、この国が旧大戦で受けた傷は予想以上に深くその言葉は反戦、平和
というフェミニスト達の好きな言葉に揉み消されようとしていた。
でも、ここで国を揺るがす事態に発展する。

隣国がこの国に向けてミサイルをぶっ放してきたのだ。
その事態をメディアは面白おかしく伝えたが、同盟国はそうではなかった。
二隻の空母と十数隻にも渡る巡洋艦を従え隣国との海洋上に鎮座した。
隣国は怪しい独裁政権下の社会主義国であり、経済活動はほとんど風前の灯
というもので国民は飢餓に苦しんでいた。そこで他国に援助を求めたが
まともに援助を出したのは、アホみたい国民性のこの国だけで
他国は一切我関せずという面持ちだったが、同盟国の政権が変わり
何か歯車が回り始めた。同盟国はテロの恐怖などという前代未聞、旧大戦でも
味わったことのない本土攻撃というものに晒され、煮え湯を飲まされたようだった同盟国の大統領は、
今までの鳩的な雰囲気を一掃し、怪しい国々に戦争を仕掛けた。
その為、体裁上 隣国に物資を送れなくなくなり、ますます隣国はやせ衰えて
いった。そういったことでの最後の断末魔だったのかもしれない

利権を貪り尽くすという開拓民の意識の彼等は、無駄を嫌う。
この国のタクシーが自動で開くのを見るとこれを手動にして運賃のコストを
下げろという彼等だ。
確かにテロの恐怖もあるが中東の怪しい国に喧嘩しかけたのは油が目的であった。
では、隣国になんの利権があるか?
希少鉱石だった。
レアメタルといわれるそれらが採れる場所は少ない。
それにこのやせ衰えた国だ、採掘のコストは子供が見ても低いと分かるだろう。
そして、彼等は艦隊を差し向けた。

メディアは面白いもので、この行動に対し何故この行動を起こしたか?
という疑問に怪しい軍事評論家を呼んで、意見を求めていた。
強い言葉を言えば様々なところから色々と言えわれるこの国、
テレビ局は軍事評論家に釘をさして当たり障りのないことを言えといい
本人は、金さえ貰えれば後はどうとでもいいのでそれに応じる。
国民はというと、専門家が言うからそうなんだと何でも信じていた。
風邪を引いて医者の意見を聞き、安心しているようなものだ。
まだこの世界の医学は風邪というものが何なのか分からず
それに対しての特効薬があるというわけではないのに……。
専門家というのが一番怪しいと考える意識はこの国にはなかった。

でも、その国民性が変わり始めた。
あの馬鹿な男は、性懲りもなく声を出し続けていたのだ。
それが肥大化しきって学者たちだけのものじゃなくなった
インターネットというものが、拡声器となった。
この情報網の中は、極端に左傾化した国民感情の揺り戻しと言える
右傾化した概念が漂っていて、その男はそんな概念に後押しされ
何処からか作った仲間と衆議院選に立候補した。
その結果は圧勝。集まった仲間は、40人だったが
その中の38人が見事当選し、一大野党となった。
そこから数年後その勢いを借りようと仲間がまた集まっていき
参議院選にその政党は121人と、どこかの社会主義を訴える政党でありながらも
資本主義を容認する怪しい政党と同じように全選挙区に候補者を立てた。
その怪しい政党と違うところといえば、
政権与党を下し90の議席を確保したところだった。
彼の力がそれから強くなったのは言うまでもない。

国民は欲していたのだ。この暗い道を照らし明るい光を差し込んでくれるものを
その光は太陽を模した原爆の灯火だろうといい、もう疲れたという思考を
ほとんど諦めた国民が望んだのは、大きな声で嘘を平然と言ってのける者だった。
それから後の衆議院選は言うまでもない。
彼は今まであったこの国の平和憲法というものを変えた。
反対の声もあったが圧倒的な議席と彼のカリスマ的な大きな声に酔いしれた国民の声の前には無力だった。
自衛隊から自衛軍への格上げ、国際法で認められている交戦権の容認
軍需産業の市場解禁など色々なものが行われた。
この国の変容は、世界中に知れ渡り 軍国主義の復興かと囁かれた
しかし、この男は予想以上に狡猾で主要国に気を使った外交を推し進め
未曾有の危機は回避された。
近所の国は、色々と騒いでいたが どうでもいいことだった。
ここ数年、隣国がそれ以上ミサイルを飛ばすということはなく
同盟国は、この国に敷設した基地上で足止めを食らっていた。
そうして、半年が過ぎ隣国と隣近所の国同士が協議を開こうとした時
同盟国は我が物顔でこの協議に参加し顔をきかした。

そして同盟国の憮然とした態度に隣国は、最後の抵抗といえる行動をした
俺は、怪しいんだぞ、来たら核撃っちゃうよ 政権が転覆すると暴走しちゃうよ  
と言うかのようにミサイル発射させた。

同盟国は、本土に届かない攻撃だと知ると
待っていましたといわんばかりになだれ込んでいく
このときこの国は、戦後初めて戦争に突入していった。
あっけないものだった、二日で首都は陥落し脅しをかけた政権もその日のうちに解体された。
そして両国が利権を貪ったわけだが、
歴史上何度も眠れる獅子といわれ、獅子だった試しがない。
多くの弱い民族を侵略してきたことで人口と国土を大きくした華中は面白くないようで、
いずれは自分たちの国土となりそうな物を盗られたという面持ちだった。
華中はその中ロケットを発射した。
宇宙開発だといっていたが、それは失敗に終わり地上に着弾した。
着弾地点は、ハテコダから約30?のダム建設現場。
ダムの下はミサイル基地として作る予定であったが、幸いなことにミサイルは
まだ運び込まれていなかった。
こちらが何故こんなことをしたというと
「大国の宇宙開発事業の事だから仕方がない」と言い、悪びれた様子はなかった。
これが沸点だった。 散々の領海侵犯に中立線を跨っての油田開発
そして多くの懸案事項が温度を上げさせ、この一件で一気に沸騰した。
この戦争が始まったのだ。
同盟国も一応は戦闘に参加したが、利権が少ないということで
消極的だった。
それから、2年。まだ戦闘は続いている。
軍事境界線を阻んで両軍がにらみ合う状態となった。

 ふと気付くと俺は、海と空、そしてすぐ近くに見える
陸が見える場所に来ていた。
そこは、小さな漁村の港という感じで小さな倉庫がある他は
コンクリートが塗り固められている地面とアスファルトの道路ぐらいしか
人工物はなく、すぐ近くの陸が人工物しか見ないと言う感じが妙に対比的で
ここは、何か忘れ去られた島のように思えた。

俺もあの頃は、若かった。
変な男の言う言葉は正しいと思っていた・・・・・・。
「俺も歳をとったのかなぁ・・・・・・。」
俺は、そんな言葉をつい出してしまっていた。
何を思ってか、彼女はいきなり俺の頬つねってくる。

「あんた、まだ若いのに何言ってんの?
私なんか、もう30過ぎ。おばさんなわけ
あんたまだ20代なのに、爺さんみたいなこと言わないでよ。
そんな爺さんと一緒にいると私まで歳取っちゃうじゃない。
これから私と一緒にいるときは、そういう言葉は禁止。」

と、どう見ても精神的にも肉体的にも30代には見えない"小娘"がそう言ってきた。
ここ数日の訓練や飯の時などの会話で
彼女とはなんとなく、わだかまりがなくなってきたけど、
この性格の変わりようは、なんなんだと思ったが二回ほど顔を見た
灰色のスーツばかり着る小西と名乗る男の前では、またあの固い顔になる。
素直に喜んでいいのだろうか?

と心に疑問を投げかけている時も、まだ彼女は頬から手を離さない。
「痛いんだけど・・・・・・。」
と言うと、彼女は口の端を吊り上げ子供がいたずらをするときの顔になり
更に強くつねってくる。

本気で痛い。
そう思ったとき彼女は飽きたという表情になり解放してくれた。
そして今度は真面目な面を俺に向けて
「で、なんで上に上がりたかったの?」と聞いてきた
俺は、ちょっと困らせてやろうかと思ったが流石にこの生活に疲れていたので
そんな余裕はなく、彼女に素直に話した。

「いや、なんかさ。あれから全然空見てないからさ。勘が鈍るかもしれないだろ。
まぁ、変人と思うならそう思ってもいいけど、なんか体が命令してきたんだよ。」
「ホントに評価通りなんだ……。冗談だと思ってた。」
とわざとらしく呆気に取られたような表情になってから、少し苦笑して
「そんなに空が好きなの?」
と聞いてきた。

「まぁな。」と言い俺はこの話を終わらすことにした。
 ――仲間を殺した空は薄暗く曇っていた。

評価とか言う怪しい俺の資料を事前に見ていた彼女は、俺の色々なことを知っていた。
食堂にいるときも俺のこの世界で一番嫌いな食べ物マヨネーズを手に取り、
いたずら顔で「かけてあげようか?」と言ってきたこともあった。

 ふいに倉庫の方から声がする。
「666。時間だ。早く中に入れ。」
その男からは、面倒なことを起こすな。という言葉が染み出していた。
彼女は急に冷たい目になって振り返り
「わかった。手数をかけて悪かったな。行くぞ、大尉。」
俺は彼女に着いて、この港から立ち去った。

 彼女はこの基地の人間からは666と呼ばれている。
それが何を示す番号かは、知らないが子供の頃に家で見た映画で悪魔の数字
などと言われていた。
普段、二人でいる時666と言うと明らかに嫌そうな顔するので聞けないで
いたが、思い切って聞いてみた。
「あのさ……。」
「どうした?」
明らかに怒気を強め、歩調を止めないで彼女が答える。
「いやさ、なんで666って言われてるんだ?」
彼女は歩みを止め少し考えた表情になり押し黙った。
それから2,3秒して重い口を開く
「これを見てみろ。」
彼女は肩まで伸びた髪の毛を掻き揚げ、そして首筋にある刺青を露出させる
そこには"1237−666"と書かれてあった。
彼女は髪を戻し、再び歩き始めた。
「この666。ただの登録番号。」
彼女はそれだけを言い。後は何も返事をしてくれなかった。
そのまま、足早に部屋へ戻ろうとした矢先に無線で呼び出しが掛かる。
彼女が小走りにブリーフィングルームに行くようなので
俺も遭難しないように必死についていった。

着くとそこには、見知った顔があった。
ここ数日で度々説明してくれる田口少佐がまた、説明してくれた。
「顔見知りだと思うが、この方は大尉ではなくて正式な階級は中佐だ。
それに名前も……。」
俺の知ってる富岡が手で制する。そして、
「まぁ、階級とかそこらは悪かったな。とりあえず、俺はこの基地でお前等の指揮をすることになった。よろしく。」
そう言って二人に手を差し出す。
俺と西田は、その手を見るだけで手は出さなかった。
「まぁいい。とりあえず、申し送りともう一つ明日0100に敵空母及び
敵艦隊に攻撃任務だ。」
西田が怪訝な顔になり気にする「敵艦隊?」
「そうだ。奴らも重い腰上げたみたいで、キュウシュウ北部に奇襲攻撃を仕掛けるらしいが、
厄介なことにこの艦隊の中に蘭州級防空駆逐艦が4隻含まれる。
ああ、悪い。分かりにくかったか。日本で言う、イージスだ。
それにJS−8も数を出してくるようで、何回にも渡る敵の反抗作戦に疲弊しきってる
キュウシュウ方面部隊は今、弱体化しててな。そこで今回ウルルの
実地試験も兼ねてこの作戦が行われるわけだ。とりあえず、そんなところだ。
じゃあ、作戦まではウルル機上で待機。詳細は追って伝える。以上。」
西田は、そのまま小走りで退室して行ったが、俺は一応挙手敬礼をして部屋から出て行った。

 船の水密扉のような扉を開け、ハンガーに入ると 
もう既に彼女は耐Gスーツに着替えていた。
このスーツは、前使っていたスーツの改良版らしく
このスーツの着用者を見ると少女でも
筋骨隆々のボディビルダーがラバースーツを
着込んでいるのではないかと思えるように見える。

俺も隣の部屋に行って、このスーツを着込む。
しかし、そんなスーツでも意外と軽く、そこまで重い足取りでなく
ハンガー内を歩いていきタラップに手をかけウルルに乗り込む。

前、後席ある操縦席は意外に広い。
後席では既に色々なパネルを操作してる西田の姿がある。
俺はその姿少し見て、座席に身を沈めた。
彼女が操作したのだろう、すぐさまキャノピーが閉まる。

そうすると中から外の様子は分からない様になり、圧迫感と言う文字が浮かんでくる。
ほかの戦闘機では味わえない感覚だ。
キャノピーが不透明って言うのは訓練で散々体感したが
やっぱりこれは慣れない。

H.M.D(ヘッドマウントディスプレイ)をメガネをかける要領でかける。
すると周りはさっきまでと打って変わり必要な情報類が
半透明の緑で表され、360度全方位全視野の視界が手に入る
これをかけると本当によくハンガーの様子が分かる。
さっきまでの閉塞感はなく、あまりにも開放的で逆に寂しく感じる。

するといきなり視界に3Dのマップが出てくる
そして、機上でブリーフィングが始まる
「作戦名は、0001X。
目標は敵のスパイ衛星と今回キュウシュウに向かっている
敵艦隊だ。
概要だが、横のサイロから対衛星用弾道ミサイルが射出される
そのドサクサに紛れてウルルを射出する
まずできるだけ高度を上げて欲しい
その機体は一応絶対高度で20万フィートまでは上がれるから
せめて15万フィートまで上げて欲しい
後は、666の指示通りにしてくれればいいだけだ。以上だ。検討を祈る。」
富岡はそれだけ言い終わると通信を切った。
3Dマップが概要を視覚にも訴えてくる。

 発射まで、まだ結構ある。
俺は暇なのでH.M.Dを外し西田に振り返った。
「作戦が始まるみたいだけど。知ってたのか?」
後席で無数の画面を見てコンソールを操作していた彼女は手を止め
俺に向き直った。
「一応。概要は伝えられてたから。
ああ、そうだ。この資料見といて。」
彼女がコンソールを操作したので俺は、またH.M.D.をかけた
一応前席にも簡易のコンソール。まぁ、いわゆるキーボードが付いているので
下方向押して資料を読み始めることにした。

――作戦兵装――

HAAM−N?             ×2
HAAM−N?             ×4
07式空対艦誘導弾         ×2

B.O.P.B                 ×1

(B.O.P.B?初耳だな…。ん?まだ続きがある。)

――特殊兵装 B.O.P.B.――

全長         5m
直径    最大直径1,5m
重量        1,5t

コア重量      1,5kg
有効射程      200km
P.B(推論値) 直径5000m


――B.O.P.B.概論――     E.P.Eプロジェクト 
                         プロジェクト研究員H

B.O.P.Bは、P.Bを使える兵器として始めて実現化したものだ。
P.B兵器はその効力から次代の使える核兵器になるのでは
と言われてきた物である。
まず現在の大量虐殺兵器は非人道的と言われている
放射能を出したり、疫病を蔓延さしたりと倫理的に問題なものが多い
そして、こいつらを使えば世界的な非難を受ける。
現在使える最大の破壊力のあるものの例を挙げよう
それは、ただ単に爆発して二次被害の少ないものだ
しかし、世界で一番爆弾を積む飛行機でも24.5トンの爆弾しか詰めなく
弾道ミサイルは、散弾という発想から危険性を高めたが
効果範囲は約800mと狭い。
そう効力が薄いのである。
ここでP.Bについて説明しよう。
P.BとはE.P.Eプロジェクト通称ダブルEP(宇宙探査という説もある)の
際に発見された
新素材が臨界点を突破した時に発生する巨大な火球のようなものである。
この火球の中に入ったものは全てプラズマ化した後に消滅する。
火球は約2秒間発生し、その後完全に消滅する。
臨界点に突破させるために必要なものは
ダブルEPの実験対象が素材に接触するということである。
最新の実験では接触後、約3分でP.Bが発生する。
実験対象の耐久性などの問題から弾道弾にすることは事実的に
不可能だ。
ということで輸送機での輸送が最適かと思われる。


という文面だった。
俺は感情を隠して彼女に聞いてみることにした
「え?で、これがウルルに搭載されるの?」
本気だと目で返される。
「ダブルE.Pって何よ?
というか実験対象って何?この戦闘機に乗ってるってことだよな?」
それから発射まで彼女は、俺のほうを見向きもしなかった。

"……………"
"機体チェックOK"
"射出装置オールグリーン"
"管制装置オールグリーン"
"電気系統オールグリーン"
"飛行担当はまだか?"
"…………飛行担当もOKです。"
矢継ぎ早に通信が入ってくる。
まるで、今から宇宙船でも飛ばすかのような念の入れようだ
ハンガーはさっきまで色々な人が行き来してたが
今は人っ子一人いない。発射が近いようだ。
さっきまでは水平だったが
今、ウルルは垂直に立っている。
ウルル直下の地面が開いてエンジンの排熱を逃がすための装置が敷かれている
ここから見る穴は、底が見えなく、暗闇になっている。
ただその部分だけが世界から切り取られたようなそんな印象を持った。
後席から西田の声が聞こえる。
「…らウルル。とりあえず機内に以上はない。いつでも発射できる。」
"全システムオールグリーン"
"ミサイル発射までカウントは?"
"43秒です。"
"ギリギリだな…。まぁ、いい。ハッチオープン。"
心持ちウルルが出るにはちょっと小さいんじゃないだろうかと思えるぐらい
の四角い穴が開く
"エンジンスタート。"
俺はスロットルをアイドルからアフターバーナー領域へと持っていった。
するとエンジンが元気よく動き出す。
ハンガーの様子を見ると少し重い工作台まで動き出しそうな勢いで風が吹き荒れている。
"それじゃあ、後は自動的に射出されるからな。Good luck "
最後に通信ケーブルが外された。

すると横から轟音が聞こえ、 それと同じぐらいのテンポで
機体が動き始める。
地中から空中までコンマいくらの速さで射出された。
俺はそのまま垂直で機体を上昇させ
目標高度より5万フィート低い10万フィートで
一気に水平近くにまで、機首を下げた。
さっきまでの密閉空間よりもさらに広い空が広がり
孤独感で押しつぶされるように感じるが
H.M.D.を外して後ろを見れば西田がいる。
それだけで何か心に大きな支えでももらったように感じた。

この機体、無線装置は付いてても使うことは一切ない。
基本的に有線通信を行う、そう簡単にこの機の存在を露呈さしてはいけないかららしい。
だから、下からのバックアップも表面上はない。
衛星とのデータリンクだけ 単独行動とはこういうことらしい。
列機も持ってない戦闘機はただの的だと思ったがある意味この機体では
列機を連れた方が的になるということか。
俺がこの機体について色々と考えると
後ろから
「それじゃあ、ここまで来たし話そうか。目標上空まであんまり時間はないけどね。」

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