真性ペニス伯爵

電柱

何気ない日常
いつものように車は行き交い多くの歩行者が目的地を目指している
空は真っ青で雲すらない、いつもとかわらない本当の日常・・・・
いつの間にか時代は流れ文明はどんどん発展していく
置いていかれるのは俺だけ、俺はポツンとたたずんでいる
俺は今から何十年も前に立てられた電柱だ
今は珍しい木製の電柱で回りはどんどん新しい素材の電柱になっていく
この間作業員みたいなのが来て俺を撤去して新しい電柱を立てるって言ってたな
確かに俺ももう限界かもな・・・体中が腐ってる気がするし水もしみこんで体が重く感じる
毎日毎日町や人の流れ見てきたけど
今日は俺が生まれてから今までのことでも考えてみることにする・・・・
俺が生まれたのは日本じゃなかったな南米の片田舎だった気がする
これからもっと成長して森一番の巨木になってやろうと思ってたのにさ
あっさり切られて倒れたときはさすがに自信を失ったな、俺ってこんなに脆いんだって
気がついたら船に乗ってた、周りには俺と同じくらいの木がいっぱいあったけど誰も話さなかった
あの海の匂いは今でも忘れないカモメの声も心地よかったないい思い出だよ
あの頃は自分が何になるかなんて全く想像がつかなかったな
日本についたらいろいろ加工されてさ、俺何になっちゃうんだよ!?って心配だった
工場を出て周り見てみたら同じような格好した奴らがいっぱいいて
なんだ俺の仕事ってこれかって気づいた

今までと変わらないじゃん立ってればいいんだろ?楽でよかったって思ってたよ
でもさ実際に立てられると結構辛いんだよ、穴ほってそこに突き刺される
今はもう慣れたけど、あの時は根っこはれないから気が気じゃなかったよ
正直電柱やってて思うよ、すごい暇なんだ最初は何か面白いことあるかな?って思ってたけど
ただ線を引かれて突っ立ってるだけ、楽だと思ったのは大間違い
どう時間を潰せばいいかまったくわからなかった、暇で暇でもう誰か燃やしてくれーって心の底からねがったこともあった
でも俺はきっと幸せなほうだったと思う、最初は回りはほとんど空き地で通る人もまばらだったけど
時代が進んでくと共に周りがどんどん開拓されてってさ、どんどん住宅とか建って賑やかになってきたのよ
街灯とか設置されてやる気がどんどん上がってきた
その頃から子供がイタズラで名前彫ったり、チラシとか貼られたり
しまいには犬にションベンかけられたりしたんだぜ?
正直ショックだったな俺が頑張ろうと思った時期だったからさ
俺は頑張ってるのにお前らなんだー!!って感じ
でも、いいこともいっぱいあったよ
子供たちが無邪気に遊んでる時の笑顔とかちょっと和まされたし
俺の所で告白した中学生もいたな、はにかんだ笑顔が幸せそうで聞こえない声で一生懸命「がんばれー」って叫んでたのを覚えてる
おばちゃん達の井戸端会議とかもこっそり盗み聞きしてて笑いをこらえるのに必死だった
今考えるとほんとあの頃は幸せだった、皆が活気にあふれて笑顔が耐えてなくてさ

でもね、最近はつまらないよ通るのは車ばっかだし犯罪かなんかで皆が皆疑いあってさ
笑顔なんてほとんど見なくなったよ本当につまらない
だから実際のところ撤去されるのは嬉しいんだよな
新しい素材としてどっか違う場所へ行けるんじゃないかって
俺の子供を残すことはできなかったけど正直電柱やれて幸せだった
もう、思い残すことはないよ
お、作業員が来たなそろそろ俺も新しい場所へ移動する時か
作業員は機械で俺を抜いてトラックに乗せてくれた
車がどんどん進んでいく・・俺が見てない間に俺が見えなかったとこはビルばっかになってる
途中新しい電柱を乗せたトラックが俺の横を通った
とっさに俺は「新しい電柱だな、俺の変わりにがんばれよー」って言ってやったよ
でも、無表情なやつで挨拶一つしてくれなかった
でも、もう俺とは関係ないなんたって新しいところに行けるんだからな
ワクワクしているとトラックが止まった
俺は止まった場所を見て愕然としたよ
似たような木が積まれててどんどん燃やされている

本当にガックリきた・・・俺の人生って立ってるだけだったんだなって
トラックからおろされて同じような木の山の中へ突っ込まれた
もう、ショックで何も考えられなかったよ
数日たっていよいよ俺が燃やされる番が来たみたいだ
ノコギリで切られてどんどんちっちゃくなっていく俺の体
そして焼却炉の前に運ばれ入れられる瞬間だった・・・・
なんでだろうな・・この時一瞬時が止まったんだ
止まったっていうかさかのぼってるって言ったほうがいいのかな
切られるところとか全部くっついてトラックもバックでずっと走ってる
動きが全部逆再生だった、すると今度はまた俺をあの場所にさしていった
どんどん時間が戻っていく・・大きなマンションとか一軒家がどんどんどんどんなくなっていく
そしてあの頃の風景に戻った・・・
俺が幸せだと感じてたあの風景に・・・・・
ここまでくると急に時間は戻るのを辞めた
たぶん俺は死んだんだろう
でも神様が俺を幸せな時間に戻してくれたんだと思う
夕方になり近所のおばちゃんの井戸端会議が俺の麓で行われてる
遠くでは子供たちの笑い声も聞こえる・・・・
この懐かしい感情・・・すごい幸せだ・・・・
またこの時代でずっと電柱をやり続けることができるんだとわかった
神様本当にありがとう

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