小笠原その3(19~28停止目)

もしも時間を30秒とめられたらfor小笠原 三作目

第一話 (始まりの砲火)

私は猫だ。
名前は――「よし、A班とB班は裏へまわれ、後は私についてこい。」―
――失礼、自己紹介の途中だったな、名前は、アラン=ウィズ
といっても、今は詳しく自己紹介してる暇はない。
なんせ、戦争中で、しかも作戦中だ。

敵は強大だ、空を飛ぶことができる。
漆黒の翼をもち、狡猾に光る目で狙い、鋼のような嘴を使って、
一撃離脱の戦法を得意とする。

いつからだろう、こんな戦争が始まったのは。
人間たちが、地球にはもう住めないと言って、宇宙へ旅立って行った後だろうか。
でも、今になって、人間も地球の一部だったのだなと痛感する。
悔しいことだが、人間のおかげで私たち「猫」と「カラス」は均衡を保ってきたのだ。

そして、私たちも知恵を身に着けた。
始まりの人は、知恵の実を食べたがために、楽園を追放されたという。
私たちも知恵を身につけたがために、楽園を追放されて戦争という場所に
追い出されてしまったのかもしれない。

でも、残された者たちも必死で生きている。
そのためには、楽園などと言うあまい考えは、捨てなければならない。
もともと、動物というものは厳しい世界で生きてきたのだ。
精一杯に生きることこそが、本来の生きる道なのだから。

第二話(作戦)

さて、どうしたものか。

「アラン=ウィズ隊長、A班、B班は裏に回ることに成功しました。どうします?」
「アランでいい。」
「では、アラン隊長。どうします?」
「……相手はカラス三羽だ、飛び立たれたら勝ち目がない。A班とB班に連絡は取れるか?」
「わかりました。やってみます。」
そうして、部下の、シティ=マーションは通信機をいじりだした。

作戦内容は敵補給部隊の排除。
だが、敵といえど補給の重たい荷物を運んでいるために、
休んでいるところを狙う、というのはあまり気が進まない。

先程の自己紹介では言い忘れたが、私には時間を30秒止める力がある。
戦闘では無敵を誇る力だが、使いどころが難しい。
この力は一日に一回までしか使えない。
できれば、逃げるときに残しておきたいところだ。

「繋がりました。まずはA班との通信です。」
「わかった、通信機を。」
そう言って、通信機ををシティからもらう。

『A班、爆弾の用意は?』
『完了しています。合図があればいけます。』
『わかった、威力は低めのだ、絶対に当てるなよ。』
『わかってますって。隊長。』
『今から、五分後に投げてくれ。』
『了解』

「シティ、B班に繋いでくれ。」
「わかりました。」

『B班、作戦内容はわかっているな?』
『はい、隊長。』
『A班が爆弾を投げたら、行くんだわかったな?』
『了解しました。』
通信を終えた。そして、爆弾が投げられるのを静かに待った。

第三話(戦闘)


「アラン隊長、あと20秒です。」
「わかった。カウントしてくれ。」
「14、12、10、8、」
静かにシティの声が聞こえる。
口にくわえたをナイフを強くかみしめる。

「5、4、3、2、1、0 !!」
「いくぞ!!」

カラスたちの方に爆弾が投げられる。

ダァッ―ン

爆弾の音とともにB班が飛び出してくる。
カラスたちは荷物をもって飛び立とうとするが、重くてすぐには飛び立てない。
一羽が荷物を置いてにげると、もう二羽もそれに続いた。

B班が補給物資を確保した。
「隊長!! 物資を確保しました!!」

私は一気に助走をつけてジャンプする。
「止まれ!!」
時間を止める。

敵は三羽。
「ひとつ!!」
ナイフを口から手に移し真ん中のカラスを切り裂く。

「ふたつ!!」
右にいたカラスの羽から頭にかけて切りつける。

「みっつめ!! クッ!!」
三羽目のカラスには届かない。
時間が動き出す。

「クカアァァ!!!」
カラスは悲痛な叫び声をあげて逃げていった。

猫背のおかげで無事着地できた。
「作戦終了だな。」
「やりましたね、アラン隊長!!」
仲間たちが歓喜の声をかけてくれた。

第四話(楽園帰還計画)

「補給物資の中にはなにが入ってたんだ?」
B班のナゴに問いかける。
「はい、食糧が少しと銃と銃弾と書類が入ってました。」
「書類?」
「これです。見てみてください。」
「これは作戦の指令書?」
「少し違います。中身を見てください。」

第一級機密と書かれている指令書のようなものを開けてみた。
中には『Paradise return project』と書かれた計画書が入っていた。

「Paradise return project?」
「つまりは、楽園帰還計画。内容は、楽園とは名ばかりで、この戦争を終結させるというものです。」
ナゴが説明する。
「……そのためには、核兵器の使用もありえる。と書いてあるな。」
私がつけたした。
隊員たちが、いっせいにざわめきの声を上げる。

核兵器、人類の残した最強最悪の兵器。
これにより大地は、幾度となく汚染され続けた。

「バカな!! 核兵器の使用は禁止されているんじゃないんですか!?」
シティが嘆くように言う。
「私も信じられない。 だが、実際に使用される直前まできているんだ!」
すこし怒り気味にシティに言った。

「そうすると、はやくここを離れた方がいいんじゃないですか?隊長。」
A班のミークが口をはさむ。
「そうだな、明日にも部隊を送り込んでくるぞ。カラスたちは。」
「クソッ!! あいつらめ!!」
隊員が口々に怒りの声を上げる。

「いいか、みんな、よく聞いてくれ!! 今から私たちは、このことを本国に伝えることを
 最優先とする。シティ、一番近くの前線基地はどこにある?」
「北へ120キロ行ったところにあります。」
「よし、そこなら休みを入れても二日以内に着けるな。」
「補給物資はどうするのですか?」
「できる限り、もって行く。」
ミークの質問に答えた。

「では、すぐに作戦を開始しよう。A班の二匹は上を警戒、B班の二匹は後ろを
 私とシティは前方を警戒する。敵を見つけたらすぐに教えてくれ。」
「わかりました。別々に行動するのですか?」
ナゴが聞いてきた。
「いや、私とシティを先頭に右にA、左にBと隊列を組んで行く。」
「了解しました。」

「では、作戦開始!!」
私たちは北へ進路をとり、走り出した。

第五話(特務部隊ヤタガラス)

アランたちがカラスの補給部隊と争った場所から
南へ20キロほど行ったところにはカラスの基地がある。
そこで、三羽のカラスが会話をしている。

「ふん、つまりはミスした。補給部隊の後始末ってやつですかい。」
一羽のカラスがくだらなそうに言う。
「まあ、そういうことだろう。」
リーダー格のカラスが答える。
「なんで、僕たちが動かなきゃならないんですか?」
丁寧な言葉で別のカラスが聞く。

「核に関する計画書が入っていたらしい。」
「ハッ!! なるほど。そういうわけかい。俺たちに命令が来るわけだ。」
「納得しました。でも、気が乗りませんね。」
「そうだろうな、核は禁止されてる。」

「蹴っちまおうぜ、そんな命令。」
「そうはいかん、計画書が向こうに渡れば、それを口実に核の打ち合いが始まる。」

「自分たちが打たれるのは怖いってわけかよ。上の考えそうなことだ。」
やれやれと肩をすくめる。

「さて、でるぞ。準備をしとけよ、クー。」
「わかりました。」

「お前もだぞ、ロウ。」
「ヘイヘイ、あんたもな、カークさんよ。」
「ああ、わかってる。」

「人間の残した核で戦争を終わらせる計画か…
 ……俺たちは、いつまで人間に振り回されればいいのかな…。」
カークがさびしげにつぶやく。

そして、先程のカラスたちが準備を整えてカークの周りに集まってきた。
カークは二羽に一瞬目をあわせる。

「いくぞ!!」
カークの力強い声とともに三羽のカラスが飛び立っていった。

第六話(カラスの影)

アランたちは、時々休みながらも、北へ向かって走っていた。
通常以上の速さで移動していることは、隊員たちからもはっきりとわかっていた。

だが、それほどのスピードを出しているアランたちに着々と迫る影があった。
それが、特務部隊ヤタガラスである。

「クー、相手部隊の情報は?」
「補給部隊によると数は4〜6。隊長クラスに、とても強いのがいると。」
「とても強いだぁ!? そりゃ楽しみだ。久々にワクワクしてきたぜ。」
「不謹慎だぞ、ロウ。俺たちは戦争に来ているんだ。」
「へいへい、カーク隊長。」
「カーク隊長、そろそろ敵部隊と接触します。」
「わかった。クー、ロウ、準備はいいな?」
クーとロウは無言で頷く。

「アラン隊長!! 後方にカラスの影です!!」
B班のナゴが知らせる。
「数は!?」
「三羽です!かなりのスピードで接近中!!」
「もう、追いついてきやがったのか!?」
「速過ぎる!!」
隊員の声が飛び交う。

「落ち着け!! 各チームは分かれて作戦開始だ。いいな!?」
「「はっ!!」」

隊員たち六匹はミークのA班、ナゴのB班、私のC班に分かれて散っていった。

「ばらばらになっちまったぜ、猫ども。 どうするよ?カーク隊長。」
ロウがたずねる。

「ロウ。あいつらが有利な点がわかるか?」
「数が六匹なところかい?」
「違うな。クーはわかるか?」

「……情報ですか?」

「そう。やつらの最大の有利な点は、一匹でも生き残れば基地に情報が伝わり、勝利できる
というところにある。よって、あいつらが取ってくるであろう作戦は絞られる。
クー、その中で最も効果的な作戦が何かわかるか?」

「………おとり?」

第七話(おとり作戦)

「そうだ。やつらはかなりの確立でおとり作戦を使ってくる。
おそらく、チーム全体を使ってな。本命は一匹か二匹だろう。」
「なら、俺たちはどうすればいいんですかい?」
ロウが口をはさむ。

「簡単なことだ。まず、ロウが、司令塔つまり先頭のチームを
威嚇する。そうすれば左右のどちらかの班(もしくは三匹)と先頭の班が速度をあげるだろう、
おとりになるために。」

「次に、僕が残った二匹か一匹をしとめればいいわけですね。」
クーが言う。

「そう。そうすれば確実に数を減らしてゆける。」
「つまりだ。俺が切り込むとあいつらは一匹か二匹を残して
速度を上げておとりになるから、待機していたクーがその一匹か二匹をしとめるっていうわけだな!?」
ロウがまとめる。

「そうだ。クーはロウが行ったら高度を下げて待機しろ。」
「わかりました。」
「OK。で、あんたはなにをすんだ?」
「俺は、もしこれがおとり作戦でなかった時と本命が三匹以上だった
時のために上空で待機している。」
「あんたは司令塔なんだ、そこんとこを自覚しといてくれよ。」
「わかっている。」
「なら、殲滅作戦開始とするか。」
ロウがカークに視線を合わせる。
カークは無言でうなずいた。

「作戦開始!!」

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