小笠原その2(19停止目)

もしも時間を30秒止められたらfor小笠原 二作目

第一話 (銃声)

俺は、仕事が非番なので近所をぶらぶらと散歩していた。

大学生のころまでは、おとなしく社交的ではなかった俺だが、
今では、立派な警察官である。
だが、警察官といっても、刑事ドラマに出てくるようなかっこいい刑事ではなく
ただの交番のおまわりさんなのだが。

俺は不思議な力を持っている。
時間を30秒止めることができる力だ。
この力を使えば、働かなくても暮らしていけるような気がするが
止められる時間が30秒しかないせいか、意外と痕跡が残っていて
犯人がわかってしまう。
証拠不十分で、捕まった事はないけれど、何回か俺の家に
警察官が訪ねて来た。
なぜ、俺がその警察官になったのか、それは、妹が……。

パンッ パンッ 

「!!!!」
俺は今の音に聞き覚えがある、今の音は間違いなく銃声だ。
この前に受けた射撃訓練で聞いた音だ。
場所は――すぐ先の廃工場。
俺は廃工場に向かって走り出した。

第二話 (選択)

パンッ

走っていると、また銃声が聞こえた。
俺は廃工場の扉の近くに隠れ、様子をうかがう。
中からおおきな声が聞こえる。
うまく聞き取れないが叫び声ではなく、
大声でなにか言っているようだ。

俺には三つの選択ができる。
 A.銃声は、聞かなかったことにする

 B.廃工場に突入する

 C.警察に連絡、もしくは助けを呼ぶ

まず、つぶれるのはCだ。
民間人では正解なのだろうが、俺は警察官だ。
拳銃による被害者がでた後で、近くには警官がいて
なにもできなかった、というのはマスコミの格好の標的とされてしまう。

残るのは、AとBの二択。
Aだが、俺は拳銃による被害者というものはもう出したくない。
そして、後で交番勤務のおまわりさんとして死傷者の通報をされて、
再び、この廃工場に来るというのもあまり気持ちのいいものではない。
なにより、俺自身がAの選択を許さない。

よって、残っているBの突入を俺は選択した。

第三話 (突入)

選択肢の

B.廃工場に突入する

だが、ひとつ問題がある。
突入する方法だ。
いきなり突入では状況もわからないので危険だ。
裏に回るのも時間的にあぶない。
そう、時間がないのだ。今すぐにでも突入しなければいけない。

俺は決意を固めた。

「止まれ」
時間を止める。

あたりが静かになると、俺は廃工場の扉を開けて
なかに突入した。

中には男と女が一人ずついた。
もっと、たくさんを予想してた俺は少し安心した。
ひとまず、その辺の物陰に隠れて様子をうかがってみる。

時間が動き出した。

「おまえだけは許せないんだよおぉ!!!」

「死ね!! 死んでしまえ!!」

そして拳銃を持っている男が、銃を女に向ける。

「!! 止まれ!!」
俺は思わず時間を止める。
同時にパンッというかわいた銃声が聞こえた。

俺は全速力で走り、女を押し倒した。
弾は銃から発射された寸前で止まっていた。

そして、時間が動き出した。

「キャアッッ!!」
「なんだよ、お前は!?」
男女がほとんど同時に、驚きの声をあげた。

第四話 (真実)

「大丈夫か!?」
俺は、女のほうに声をかけた。
「は、はい。」
女が返事をする。

「なんなんだよ!? あんたぁぁ!!」
男のほうが叫ぶ。

「ただ通りかかっただけだ。」
「じゃあ、どけよ!! 僕はその女が憎いんだ!!」
「人が殺されそうなのを、見過ごせるわけないだろ!!」
「なら、お前も一緒に死ねぇぇ!!」
男が拳銃を俺に向けてくる。

「クッ!!」
俺は男に向かって走り出す。

パンッ

弾が発射されたが、俺には当たらなかった。
俺は男に体当たりし、持っている拳銃を弾き飛ばした。

「お前はなんでこんなことをするんだ!?」
俺は起き上がり、男に問いただした。

「そこの女が、僕に、人殺しをなすりつけようとしたんだよ!!」
男は起き上がり叫んだ。

「うそよ!! でたらめ言わないで!!」
今度は女が叫んだ。
「うそじゃない!! 証拠だってある!!」
そう言って胸ポケットからレコーダーを取り出す。

「これを聞けば嘘か本当かわかる!!」
男はそれを俺に渡そうとした。
その瞬間、

パンッ

拳銃の音が響く、引き金を引いたのは、さっきの女だった。

第五話 (隠滅)

男は頭を撃ち抜かれて即死の状態だった。
女は持っていた拳銃を捨てて、男のほうに歩み寄った。

「ほんとに、バカな男ね。」
そういうと、男が手に持っていたレコーダーを
ガシャという音と共に踏み潰した。

「証拠隠滅完了♪ あなたも、助けてくれてありがとうね。」
俺は、女の行為に驚いていた。
「この事は、他の人に言っちゃだめよ♪」
「あ、あんたは、ほんとに人殺しをしたのか?」
女に聞いてみた。

「そうよ〜。あの拳銃でズドンってね♪
名前は、たしか新聞には……坂口 ヒロミって書いてあったかな。」
「その子は何歳くらいだった?」
「新聞では16歳って書いてあったかな。」
「なんで殺したんだ?」
「だって、むかついたからね〜♪」

俺は、この言葉を聞くと、ある決断をした。

「止まれ」
俺は時間を止める。
そして、落ちていた拳銃を手に取り、女の頭に突きつけた。

時間が動き出す。

「バイバイ」

パンッ

俺は携帯を取り出し、ボタンを押した。

「もしもし、警察ですか? 
南区の廃工場で死体を二つ見つけたんですが。
はい、そうです。 すぐ来てください。えっ? 俺ですか?
南区の駐在所勤務の坂口 慎也巡査です。」

この場所で、一つの復讐が行われたことは、誰にもわからない。
       
    『もしも時間を30秒止められたらfor小笠原 二作目』
                              THE END

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