小笠原その1(13~17停止目)

一部(眠れぬ夜に)

眠れない夜、外で自動車が音をたてて走っている。
 俺の名前は桜井 喪一、高校一年生だ。そして顔は決してイケメンとはいえない。
 今は、布団にもぐりながら、今日学校であったことを考えている。
 他愛のないことだけれども、こうしているといつのまにか眠れる事が多い。
 しかし、今日は中々眠れなかった。時計はもう深夜三時を指している。
 
 「バレンタインはチョコはなしか、中学までは母さんがくれたけど
 一人暮らしだからしょうがないのかな」

 独り言をつぶやいた。そんな瞬間、
 
      「キイィィィィィィィィッッーーーン!!」
 
「なんだ!? どうしたんだ!?」
 突然、世界が凍りついた。外で深夜にもかかわらず走っていた、自動車の音が聞こえない。
 いや、なくなってしまった。
 俺は、突然の事態に戸惑い、混乱していた。
 「なんだこれ!?どうしちまったんだ、音が聞こえない。
 なんか、一人で取り残された気分だ。」
 この不思議な現象は、15秒くらいでなくなってしまった。
 なんともいえない気味の悪い余韻を体と心に残したまま‥‥‥。

 二部(ごめんね、杉原さん)

 「チリリ、チリリ、チリリリリリリリリリリリリリ!!」
 目覚ましが鳴る、なんだか頭が痛い‥‥。
 学校に行かなきゃ、今日は図書委員の仕事で早く行かなきゃいけないや。
 相方の杉原さん怖いんだよなぁ。
 そんなこと思いながら、俺は起きて時計を見る。
 「げっ!!もうこんな時間かよっ!」
 早く家を出ないと電車に乗れない、走らなきゃ!
 急いで制服を着て、顔を洗い、駅へ向かって走り出す。
 「あっ!!カギ閉めてない!」
 鍵をかけ忘れた、家に戻って鍵をかけたらまた走り出す。
 駅のホームへ入ると、ちょうど電車のドアが閉まるところだった。
 
 「閉まるな!止まれ!!」
 思わず、声に出してしまう。
 
     「キイィィィィィィィィッッーーーン!!」

 なんだ!?変な耳鳴りがする。これは昨夜感じたのと同じ感覚だ。
 すると、どうだろうか周りに静寂がおとずれ、すべてが停止してしまう。
 「なんだこりゃ、みんなが止まっている。どうなってんだ?」
 事態を飲み込めないでいたが、一応電車に乗っておく。
 そして、15秒程度たつと何事もなかったように電車が動き出す。
 まわりの人たちが、俺を驚いてる様子を示している。が、すぐに目をそらす。
 俺は先程の出来事に驚いたが、すんなり結論をつけた。
 時間が止まったのだ、なぜかはわからないが、俺は時間を止めることができるらしい。
 電車の中で俺は、何度も時間を止めてこの能力を検証した。
能力は「止まれ」の言葉に反応して発動する。
 どうやら、時間は15秒程度止められるらしい。
 連続での使用はできるが、強い疲労感におそわれる。
 だいたい、10分程度の間をおけばあまり疲れることもなく能力を使える。
 一日での使える制限はないだろう、ただ能力を使えば少しずつ疲れは溜まるようで
 俺は、電車で寝てしまいその日は学校を休んだ。
 ごめんね、杉原さん。

 三部(罪の味)

 休んだ日は金曜日だったので、土日の連休がある。一応「休んですまない」と
 杉原さんにメールを打っておいた。
 返事は返ってこなかった、少しへこんだ。
 杉原さんは、杉原 詩織といい。けっこう可愛かったりする。
 夏休みの終わりあたりに転校してきた子であまり近づきやすそうな子ではない。
 そんなことより、今は時間を止める能力に夢中だ。
 時間を止めるなんてまるで夢のような話だ、この能力を使えば
 金を盗むなんて楽勝だし、レイプも簡単にできる、そしてDQNがいれば
 三秒とかからずボコボコだ。
 明日は町に出てみよう、そのためにも計画を練らねば。
 まずは、資金調達だ15秒しかないのだから求められることは
 迅速な行動と冷静な判断力だ。残念ながら二つとも俺には備わっていない、
 ならばこの二つを補う確実かつ完璧な計画が必要だ。
 俺がまず考えたのはコンビニ強盗、これなら他人がレジで清算している間に
 時間を止めて金を盗み出すことができる。
 まずは実験としてこれを実行しよう。
 そうして確実かつ完璧(?)な計画をたてた俺は明日の土曜日へむけて
 早めに寝ることにした。
俺は、10時過ぎに起床そして町に出る準備をしはじめた。
 なんともいえない緊張感が俺を包む。
 準備ができた俺は、家をでて町へ繰り出した。
 適当なコンビニを見つけ、隠れる場所を確保しコンビニに中へ。
 適度な混み具合だ、俺は適当な雑誌を手に取る振りをしてレジの
 様子をうかがう。すると客の一人がレジへ向かう。
 時間を止めるタイミングは、清算を終えて店員がレジをしめる時に
 目を離す瞬間。

 「ドクン、ドクン、ドクン、ドクン、ドクン」

 自分の鼓動が妙に大きく感じる‥‥‥。
    「今だ!!!!」
 リミットは15秒、行くぞ!!
 自分を奮い立たせ、「止まれ」という掛け声とともに
 レジへ走りながら時間が止まっていること確認する。
 レジはちょうど半開きで店員はそっぽ向いている。
 俺は、夢中でレジの中の札をつかみ全力で隠れ場所の
 路地裏へ逃げ込む。
 「13、14、15!ミッション・コンプリート!!‥‥あり?」
 時間が戻らない。
 「18、19、20、あ!戻った!」
 20秒して時間が元に戻る。昨日計ったら15秒だったのに、
 計り間違えた?いや、これは能力が強くなったと考えるのが自然かな。
 どうやら、20秒止められるらしい。よく、わかんない能力だな。
 手には7万円くらいの金がある、これを見れば自分が盗みをしたという
 事実がわかる。
 「あははは、楽勝じゃないか、あはははははははは」
 自然と笑い始める、普通の高校生にとって罪の味は
 あまりに甘すぎた。
 
 「あれが、選ばれた人なの!?」

 静寂の世界で驚きの声が上がった。

四部(黒い感情)

 結局、盗んだ7万6千円はなんに使うわけでもなく家に帰った
 帰る途中に出会うスカートの女のパンツを時間をとめて
 10人ほど見た。
 「あーぁ、結局、金盗んだのとパンツ見るだけの一日だったな」
 風呂に入りながら呟く。時間を止めれば段々と止めれる時間は
 長くなっていくようだ。今は23秒程度止めることができる。
 明日も町に出てみるか、いろいろやりたいこともあるしな。
 今日も他愛のないことを考えながら眠りにつく。

 翌日は、八時に起きた。今日も、町へ行くことにする。
 身支度を整え家を出る。隣の部屋には誰か引っ越してきたらしい。
 業者の人たちが出入りしている。
 俺は目が合った、業者のひとに軽く会釈をして足早に駆け出す。
 
 「さて、今日はなにやらかそうかな♪」
 
 意気揚々とスキップでもしたい気分で歩く。
 道で出会うかわいい子には、スキンシップのごとく
 パンツを拝見させてもらう。

 町を歩いていると
 「おいっ!!待てよ、てめー」
 「てめーだよ、聞こえてんだろ!!」
 後ろで声がした。男の声だ。
 振り向くと、案の定呼びかけは俺に対してであった。
 「なんですか?」DQN三人に言う。
 「俺たちさぁ、金がなくて困ってるんだけど。金貸してくれない
  必ず、返すから」
 嘘に決まっている。残りの二人も怪しい笑みを浮かべて俺を見ている。
 「いやです」
 「あぁん!つべこべ言わず、金だせやこらぁ!!」
 こっちが、おとなしく金を差し出すとでも思っているのだろうか。
 「いやですって!」
 「これでもか?」男がナイフを取り出し俺に見せ付ける。
 「止まれ」
 俺は、冷たく言い放つ。

五部(響く声)  

   「キイィィィィィィィィッッーーーン!!」
 
 時が止まる。
 
 まずは正面のDQNのナイフを左後ろのやつに刺す。
 血は出ない、気持ち悪いズブリという感覚が伝わってくる。
 次に、近くの壁に右のやつの頭をたたきつける。
 ゴンという音はするが、痛そうにはしていない。あたりまえか。
 そして、全速力で逃げる。

 少したって悲鳴が聞こえてきたようだが、おれは興奮していて
 聞こえなかった。
 コンビニに入り、前と同じ手段で金を盗む。
 前回のような、感情はおこらなかった。
 むしろ、虚しさが体を包んでいた。
 漫画喫茶で暇をつぶし、家に帰ろうとする。
 DQNたちにからまれた場所には、警察が事情聴取を行っていた。
 ちらっとだけ見て、通り過ぎる。

 「おい、待てよ、そこのガキ!!」
 またか、俺は振り返りDQN二号を睨みつける。
 「なんだてめえ。ケンカ売ってんのか!?」
 ケンカ、売ってんのはお前だ。と言いたいが
 ここは我慢する。
 すると、DQNがナイフを取り出す。
 馬鹿の考えることは、同じなのかと思いつつ。
 「止まれ」と言い放ち、思いっきり殴ろうと拳をふりあげる。
 
 「ガシッ!!!」

 振り上げた拳が、何者かにつかまれる。
 
 「お前が、やっているのはただの暴力だ」

 俺は、驚いて声のするほうへ振り返る。
 
 「やぁ、桜井。この前はよくも、委員の仕事を押し付けてくれたな」

 杉原 詩織の声が静寂の世界に響く。 

 六部(厳しい現実)

 俺は布団にもぐりながら、この数日間に起こった出来事を
 振り返る。
 最初はこんな風に布団にもぐって、眠れないでいたんだよな、
 そしたらいきなり耳鳴りがして、時間が止まって能力が俺に現れた。
 そんでもって、コンビニ強盗して、スカートめくって、DQN三人をボコボコにして。
 杉原さんが目の前に現れた。
 よく考えたら、変なことだらけだよな。
 まず、なんでただの喪の俺がいきなり時間をとめれるんだ?
 でもって、最初は15秒しか止められなかったのに
 なんで、今は30秒止められるんだ?
 何度使っても、30秒より能力が強くなることはなくなったし。
 なんで、杉原さんは時間を止めた世界で動けるんだ? 

 そして最大の疑問は、なんで、となりの部屋に杉原さんが
 引っ越してきてるんだ!?
 
 意味解らん、わけわかんねぇな。
 そんなことを考えながら、今日も眠りに落ちてゆく。

 翌日は、学校があったがサボった。
 杉原さんに今の状況と事情を聞くためだ。当然、杉原さんも一緒にサボる。
 約束は午前10時だ。10時になったら、杉原さんが訪ねてくる。
 
 支度を整え、部屋を掃除しておく。
 考えてみれば、女の子を部屋に招くなんて初めてだ。
 おそらく、短時間でかたづく話ではないだろうから昼食をとるだろう。
 料理好きな俺は、料理を作ってあげようと思っていた。
 綺麗に部屋を掃除し、女の子を部屋に招く準備を思いつく限りした。
 俺は10時に近づくにつれて、だんだんと興奮してきた。
 そんなとき、

 「ピーンポーン!!」

 「来たっ!!」
 玄関まで行き、ドアを開けて客を招き入れる。

 「うわっ、汚い部屋」
 思いもよらぬ言葉に、俺の興奮は一気に冷めた。

 七部(瞳の先に)
 
 「部屋の中は綺麗なんだな」
 「ちゃんと、綺麗に掃除したつもりだからね」
 「でも、玄関は違ったみたいだな」
 「しょうがないだろ、忙しかったんだから」
 玄関を掃除し忘れるとは‥‥‥不覚。
 「あのさ、俺、杉原さんに聞きたいことが、たくさんあるんだけど」
 「私が、いまから説明するからその後でまだ、聞きたいことがあったら聞いてくれ」
 「わかった」
 そういって、俺は杉原さんをテーブルに座るよう促した。
 
 「まず、これから説明しないとな」
 そう言って杉原さんは、首から下げているペンダントを出した。
 そのペンダントは少し大きめの宝石がついたもので、体に合った大きさではなかった。
 宝石は不思議な光を放っていて、見ていると吸い込まれそうになる。

 「なにこれ?ペンダント?宝石?」
 「時間を支配する力の結晶だ」
 「はぁ」
 「納得してないみたいだな」
 「そりゃあ、納得するほうがおかしいだろ」
 「けれど、桜井、お前に力を与えたのもこのペンダントだぞ」
 「力って時間を止める?」
 「そうだ、このペンダントはふさわしい人間に力を与える」
 「俺が、ふさわしいってこと?」
 「そうなんだろうな、こいつ的には」
 「なんだよ、不満なのか」
 「違う。結果的に巻き込む形になってすまないって思ってる。」
 「巻き込む?」
 「私は、命を狙われてるんだ」
 「えっ!!どういうこと!?」
 俺は思わず声を荒げる。
 「落ち着け、桜井。説明するから」
 なだめるように杉原さんが言う。
 「わかった」
 「私は、神と人間のハーフでこの世界の人間じゃあない」
 話がぶっ飛んだことは、いまは突っ込まないほうがいいらしい。
 杉原さんは、続ける。
 「父は時の神、母は人間で一緒に暮らしてこそいなかったが
  父は神の国から、一週間に一度は会いに来てくれたし
  十分、幸せな暮らしだった」
 まだ続ける。
 「そんな中で、やつが現れた」
 杉原さんが声を荒げる。
 クラスメートの瞳には、憎しみの光が宿っていた。

 八部(決断)
 
 「落ち着けって」
 俺は興奮した、杉原さんをなだめる。

 「すまない、私としたことが」
 「それで?」
 「うん、神っていうのは弟子を持つものなんだ。」
 杉原さんは、続ける。

 「弟子は、神から次の神になるべく指導を受ける。
  さまざまな術を学び、教えを受ける。私も何人かの
  弟子には会っていたし、幼い私をかまってくれたりもした。」
 「神様になるのも大変なんだね」
 「そうだな、覚える術も30以上ある。」
 「杉原さんも、術っての使えるの?」
 「少しだけならな。昨日、おまえの腕を止めたのも
  気を使った術だぞ。」
 「へぇー。じゃあ、時間を止めた中で動けるのも?」
 「それは、この結晶の力が大きいな。この結晶を持っていると
  時の力による影響を受けない。」
 「ふーん」
 「話が脱線してしまったな、元に戻すな。」
 「わかった」
 「あの日は満月の日だった。」
 

  数年前……
 

 「詩織、このペンダントを渡しておくよ。」

 やさしそうな男がそう言って、少女の体には合わない
 ペンダントを首にかけてあげている。
 男の瞳には、悲しげな光が宿っている。
 
 「お父さん、これお父さんの大切にしてるものじゃないの?」
 「詩織に持っていてほしいんだ。」
 「‥‥‥わかった。大切にするね。」
 少女は、ペンダントを嬉しそうに受け取る。

 「さぁ、詩織。カナミちゃんと潮干狩りに行くんでしょ、準備はできたの?」
 母親が声をかける。

 「うん、じゃあ行ってくるね♪」
 「いってらっしゃい、気をつけるのよ。」
 「詩織!」
 男が呼び止める。

 「なに!?お父さん。」
 「‥‥‥、楽しんでこいよ。」
 「はーい」
 少女は家を出て行った。

 「俺も行くよ、あいつが待ってる。お前も逃げてくれよ。」
 「妻は、家で待つものですよ。それに、義文、あなたは負けません。」
 「ありがとう。じゃあ、行ってくる。」
 「いってらっしゃい。」

 九部(決闘)
 
 「!!!」

 義文の目に飛び込んできた光景は、悲惨なものだった。

 「遅かったですね、義文さん。」
 黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いサングラスの男が言う。

 「貴様ぁ、弟子は関係ないだろう!!」
 「ありますよ。この方たちも、力はかなりのものですから。」
 「ひと時のことでも、ともに学んだ仲間じゃないのか!!」
 
 こいつは、本当にいかれてるんじゃないか?
 あまりの行いにそんな疑問も沸いてくる。

 「私は、結果だけを見ることにしているんです。彼らは過程ですよ。」
 「なに!?」
 「そして、あなたもね」
 義文との距離を一気に詰めてくる。

 ドンッ!!!
 
 強い衝撃に義文は吹き飛ぶ。

 「さすがは、時の神様だ。受け身も上手い。」
 「師と仰ぐのなら、もう少し手加減してもらいたいな」
 「時を止める力を持つものにそれはないでしょう?」
 「今度は、俺の番だ。止まれ!!」
 
 「キイィィィィィィィィッッーーーン!!」
 
 時間が止まる。時間は15秒しかない。
 足に気を集め、一瞬で近づく。
 今度は、拳に気を集める。
 トラックがぶつかるくらいの衝撃を、腹にぶち込む。
 そして、足に再び気を集めて距離をとる。

 「アハハハハハハッ、こんなものですか?神様の力は!!」
 「なに!?なぜ、この世界で動ける!?」
 「動けるっていっても、しゃべるくらいですがね。そろそろ、
  時が動き出すかな?」

 ドグンッ!!!
 
 鈍い音がする。時が止まったときに蓄積された衝撃が、黒スーツの男を襲う。
 「ふんっ!!!」
 男は中腰の姿勢になり、気合を入れる。男は、後ろに3メートルほど音を立て
 後退するが、あまりダメージはないらしい。
 その刹那、義文のふところが光に包まれる。

 ドグンッ!!!

 まったく、予期していなかった衝撃に、義文は50メートル以上、
吹き飛ばされる。

 「ぐがぁっ!!!」
 
 義文の、痛々しいうめき声が響き渡る。

 十部(決意)
 
 「終わりだなぁ、時任 義文ぃ!!」
 
 ここぞ、とばかりに距離を詰めてくる、黒スーツの男。

 「はぁっ、はぁっ、調子に乗るなよっ!!!」

 小刀を取り出し、せまってくる黒スーツの男を切りつける。

 「刃物まで、取り出してくるとはね。情けないですね、師匠。」
  そういいながら、刃物をかわす。
 「‥確かに、情けないな‥俺は。おまえが、時間を止めた世界で動けること
  を見抜けず。与えられた衝撃と同じ衝撃を、相手に与える、おまえの術の印が
  ふところで結ばれたことにも、気づかなかったしな‥‥ゴフッ!!」
 口から大量の血をふきだす。

 「アハハハッ、わかってるじゃないですか。どうします、降伏でもしますか?」

 「はぁっ、はぁっ、お前に降伏するくらいなら、死んだほうがましだ」

 「なら、死ねばいいさ、師匠!!」

 「止まれ!!」
 義文は、時を止める、言葉を叫ぶ。
 「最後のあがきか、見苦しいなぁ、師匠ぉ!!」
 黒スーツの男が叫ぶ。
 義文は、黒スーツの男に近づき、手首をつかみ、上にあげ身動きが取れないようにする。

 「なにをするつもりだ!?」

 「俺は、どうあがいても、お前には勝てないらしい。」

 「だから、なんだ!?」

 「ならば、俺の死を持ってでも、けりをつける!!!」

 「はっ!今のお前に、何ができる!!」
 
 「後ろを見てみろ。」

 「なに!?」
 後ろを見ると、義文の刀が空中で、切っ先をこちらに向けて静止している。

 「あれには、俺の残りの気をすべて込めてある。」

 「き、きさまぁぁ!!!」
 
 「さぁ、時が動き出すぞぉ!!!」 
 刀は、義文の決意を表すかごとく、異常な勢いで迫ってくる。
  
 「じゃあな、詩織。お前の父親になれて、よかったよ。」
義文は心の中で思った。

 十一部(決死)
  
 時が動き出し、義文の後ろから刀が迫る。

 「はあぁぁっ!!」
 黒スーツの男は、ありったけの力を義文につかまれている手首に集める。

 「ぐぅ!!」
 大きな力の流れに、手の力を緩めてしまう。
 
 ドスッ!!

 刀は義文に突き刺さり、そのまま貫通する。

 ズバッ!!

 「くっ!!」
 黒スーツの男はあわててさけるも、わき腹を切り裂かれる。

 ‥‥ドサッ

 義文は、静かに倒れた。
 「‥‥‥‥‥‥師匠、あなたは立派な方だ。」
 わき腹から流れる血を押さえながら、男がつぶやく。
 「だが、もっと世界を見るべきだった。それだけが、残念です。」
 そういい、真っ赤に染まった、義文の体を探る。
 「ペンダントがない!?どこだ!?」
 男の脳裏に、義文が以前に会っていた女性が浮かぶ。
 「あの女か!?それ以外、考えられない。肉親は、全て消したし
  子どもは、いないはずだ!」
 
 ‥‥‥それから数時間後。
 
 「私、いや、俺からのせめてもの、たむけですよ、師匠。」
 
 男の前には、綺麗に整った、十字架の墓があった。
 しばらく墓を見つめ、男は去る。その背中はどこか悲しそうだった。

 潮干狩りに疲れたのだろうか、詩織はカナミの両親の車で
 眠っていた。
 「詩織、詩織、」
 誰かに呼ばれる。
 「‥う‥ん?お父さん?」
 「詩織、ペンダントに触れてくれ。メッセージを残してある。」
 詩織はペンダントに触れる。触れたとたんに、詩織の意識が遠のく。

 十二部(決別)

 「このメッセージが再生されているということは、おれは
  もう、この世にいないだろう。そして、おそらく母さんも。」

 「詩織に渡したペンダントは、時の力の結晶だ。術を覚えた力あるものが使えば、
  使い方によっては世界を壊すこともできる。それを、守ってくれ詩織。」

 「ペンダントには、ふさわしいものに俺の力を与える能力がある。
  時を止める能力だ、選ばれたものはきっと、お前の力になってくれる。」

 「時を止める能力を持てるのは一人だからな、協力せざるえないだろう。」

 「俺の弟子の一人が裏切った。あいつは、きっとそのペンダントを
  狙う、強い力を得るために。あいつを止めてくれ。」 

 「詩織の持っている、かばんの内側に詩織が大人になるまでに
  必要なくらいの金額が入った、預金通帳とはんこと地図が縫い付けてある。」

 「家には帰らず、地図に書いてある家に住んでくれ。そして
  ふさわしいものが見つかるまで、住む場所を変え続けてくれ。」 

 「ふさわしいものが見つかったら、能力を使うなと言ってくれ。
  どうやら、あいつは時が止まった世界でも意識があるらしい。」

 「こんなことを娘にさせるなんて、ひどい父親だな、俺は。
  けれどお前の父親でよかったよ。」
 そう言い残して、詩織の意識に断片的に流れてきたメッセージは途切れた。
 詩織は、眠りながら涙を流した。

 
 「‥‥というわけだ。」
 杉原詩織は、話し終えた。
 瞳は、涙にぬれ、赤く染まっている。

 十三部(笑顔)

 時計を見ると、十二時半になっていた。
 
 「昼食、たべてくだろ?」
 俺は、少し下を向いている杉原さんに声をかける。
 
 「いや、悪いよ」
 彼女が答える。
 
 「そんなことないって、食べてってくれよ。」
 「でも‥‥」
 「ご飯は一人で食べるより、たくさんで食べるほうがおいしいからさ
  たべようぜ。」
 「わかった。ありがとう」
 「んじゃ、作るわ。パスタでいい?」
 「あっ、うん。なんか手伝うぞ。」
 「いいって。俺、けっこう料理は得意なんだぜ。そのへんで、くつろいでて。」
 
 そういって、水を沸かし始める。杉原さんはソファに座って待ってる。
 十五分くらいでパスタはできた。

 できたパスタを杉原さんに持っていく。

 「おまたせ。トマトソースだよ」
 「ありがと‥‥、いただきます。」
 「いただきまーす」
 「おいしいな、ほんとに料理できるんだな。」
 「信じてなかったの?」
 「だって、あの、いつも寝てる桜井が、料理がうまいなんてな。」
 「ひっでえなぁ、これでも飯屋での、バイト経験もあるんだぜ。」
 「それ、校則違反だぞ。」
 「えぇ!!マジで!? ‥‥先生には言うなよ、平松こわいから。」
 「どうしよっかな〜♪」
 「たのむよ〜」
 「あははははっ」
  杉原さんが初めて笑ってくれた。
 その笑顔が、俺には嬉しかった。

 「ほんとに、一人で食べるより二人で食べるほうがおいしいな。」
 「だろ、俺も一人暮らしになってから気づいたんだ。」
 「私は‥‥ずっと一人暮らしだったから、気づかなかったな。」
 
 俺は、自分をせめた。せっかく、杉原さんが笑ってくれたのに
 無神経なことを言ってしまった。
 
 「ごめんっ。変なこと言っちゃって。」
 「いいんだ‥。ご飯、ありがとう。そろそろ、私は家に帰るよ。」

 このままじゃ、いけない。俺はそうおもった。
 「ま、待ってくれ。」
 「なんだ?」
 
 「あ、あのさ今晩、夕食、一緒に食べないか!?」
 あ〜なに言ってんだ、俺。
 
 「‥‥かまわないぞ。じゃあ‥‥七時に行くな」
  俺は嬉しかった。

 十四部(お買い物)

 俺は、杉原さんがいったん家に帰った後、一人で考えていた。
 
 杉原さんの過去にそんなことが有ったなんて、考えたこともなかった。
 俺みたいに、てきとうに生きてきたんじゃなくて、
 両親が殺される悲しみを乗り越えて、命まで狙われてるんだもんな。
 
 杉原さんの話じゃ、俺が力を使えば杉原さんのペンダントが
 反応して光るんだっけ、そして、その光は敵を惹き付ける‥‥。
 俺は、なんにも知らないで力を使ってたな。
 これからは力は使えないな。

 俺は、夕飯の材料を買いにスーパーへ出かけた。
 夕飯は豪華にパエリアかな、サフランと貝を少し買うか。
 夕飯の材料を決める。

 俺は杉原さんが、おいしいと言ってくれることを
 思い浮かべて買い物をする。
 今日は平日なのにスーパーは混んでいる。

 俺は、夕飯の材料を持ってレジへ並んだ。
 「全部で、1576円になります。」
 「!!、‥‥‥‥。」
 財布の中を見て俺は絶句する。
全部で千円札が一枚しかない。

 あわてて、ポケットを探る。もちろん何も入っていない。
 「あの、おきゃくさま?」
 「‥‥‥‥‥」
 俺、ピーンチ。

 「これ使いなよ。」
 後ろの客が俺に千円札を差し出してくれた。
 「あ、ありがとうございます!」
 
 俺は会計をして、千円札を差し出してくれた男に礼を言う。
 「さっきは、ありがとうございました。」 
 「ああ、べつにいいよ。」
 「このお返しは、必ずします。」
 「お返しなんていらないよ。」
 「いや、でも‥」
 「別にいらないって。それじゃあ、俺は行くから。」
 「ありがとうございました。」
 「どうも。」
 そうして、男は去っていった。
 
 いい人だけど、変わった人だな。
 俺は、黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いサングラスの男の
 後ろ姿を見ながら思った。

 十五部(ありがとうの後に)

 「俺も敵から命、狙われてんだな。」
 夕食を作りながらそんなことをつぶやく。
 
 杉原さんの話では、能力が発動できるのは世界で一人のみ。
 ‥‥‥つまりは俺。敵は、能力をほしがっている。
 
 「ピーンポーン」

 俺は、杉原さんを招き入れる。
 「おじゃまします。」
 杉原さんが言う。

 「ちょっと待ってて、もうすぐできるから。」
 「わかった。」
 考えてみたら、すごいことだな。俺が一日に二度も
 女の子を家に呼ぶなんて。

 「できたよ。パエリアだけどいいかな?」
 「あぁ、十分だよ。すごいな桜井は。」
 「まあ料理は趣味だからね。さぁ、食べて食べて。」
 「いただきます。」
 「いただきまーす。」
 
 そうして、俺たちは楽しい夕食を過ごした。
 杉原さんも最初に会った時とは違い、笑顔も多くなってきた。

 食事も終わり、ひと段落ついたところで杉原さんが口を開いた。
 
「すまないな、桜井。こんなことに巻き込んでしまって。」
 「‥‥‥‥‥。」
 「時の神が勝てなかった敵に、桜井、お前は狙われているんだ。」
 「‥‥俺は‥。」
 「能力を使わなければ、見つかることはない。私のことは…いいからさ。」
 「‥俺は‥‥。」
 「逃げてくれていいんだ、もう私は‥‥じゅうぶんだから‥。」

 俺は最低だ。杉原さんにこんなことを言わせても、答えを出せないでいる。
 ここで、答えを出さないと、杉原さんは……いや、俺は一生後悔する。


 「……俺は……俺は逃げたくない。ここからも、君からも、そして、自分からも。」
 
俺は自分の思いを言葉にした。

 「それでいいのか?」
 「いいんだ。じゃないと、俺は一生後悔する。」
 「………ありがとう。」
 「こちらこそ。」
 俺は小さく笑った。杉原さんもほほ笑んで返してくれた。

 十六部(屋上にて)

 今日は学校がある。杉原さんは先に学校へ行ったようだ。
 俺は、朝ごはんにトーストを食べて学校へ行く。


 キーンコーンカーンコーン
 
 あっというまに昼休み。
 俺は購買で買ったパンを持って屋上へ行く。
 屋上には誰もいない。
 俺は適当なところに座り込み、飯を食べ始める。

 「桜井、こんなとこでなにしてるんだ?」
 「!!!、‥ゴホッ、ゴホッ!」
 「大丈夫か?」
 「だ、大丈夫。びっくりさせないでよ〜、杉原さん。」
 「ははは、ごめんごめん。」
 「どうしたの?こんなところに。」
 「桜井が教室から出て行くから気になって。」
 「あぁ、そうなの」
 「桜井こそ、何でこんなところにいるんだ?」
 「え?」
 「ご飯は、大人数で食べたほうが、おいしいんじゃなかったのか?」
 「それは、気の合う人同士でのはなしだよ。」
 「どうして?」

 「だって、クラスのやつら、表から見たら仲よさそうに見えるかも
  しれないけど、裏じゃクラスの仲間の、悪口ばっか言ってるんだぜ。」

 「そうなのか?」

 「そうさ、どこ行ってもそうだったよ。あいつがウザイだ、
  こいつがキモイ。そんなのばっかだ。
  そんなやつらとメシなんかたべたくないな。」
 俺は、冷ややかに言った。

 「ふ〜ん。」
 「ごめんな、変なこと言っちゃって。俺も、悪口言ってるな。」
 「桜井が言ってる事も解らなくもない。」
 「ご飯、一緒に食べない?杉原さん。」
 「えっ。あ、うん」

 ご飯を食べ終わって、杉原さんと雑談していると予鈴が鳴った。
 
 「そろそろ、戻ろっか。」
 「うん。‥‥‥なぁ、桜井。」
 「なに?」
 「私は、桜井が、私を気の合う人って言ってくれて嬉しかったな。」
 「えっ」
 「じゃ、じゃあ、私は先に教室に行ってるから。」

 杉原さんは、足早に屋上を出て行った。

 十七部(あきらめ)

 午後の授業は二つある。そのうちひとつを終えて、俺がトイレへ行くと
 同じクラスの男どもと違うクラスのやつらが数人いた。

 「あいつが一番キメェって。」
 「ハハハ、だな。おれもそう思ってた。」
 とても楽しそうに談笑している。

 こんなことでしか笑えないのか。
 話題にあがってるのはおそらく、こいつらといつも
 つるんでいるやつだろう。

 ふと、考えてしまう。

 こいつらは、何をすれば満足するのだろう?
 誰かを、きずつければ満足するのだろうか?
 それとも、自分がきずつけられれば痛みがわかるのだろうか?
 または、極限まで追い込んで自殺でもさせるのだろうか?
 その場の、話題作りのための気軽な話題なだけなのだろうか?
 俺や杉原さんもこういう部分があるのだろうか?

 どれも、答えはYesだろう。
 俺は、あきらめにも似た感情を抱いてトイレを出た。

 十八部(綺麗なものと汚いもの)

 学校が終わり、帰り道を歩いていると杉原さんが声をかけてきてくれた。
 「桜井、どうした?なんか機嫌悪そうだな。」
 「いや、ちょっとね。」
 「なんだよ、言えよ。」
 「う〜ん。杉原さん、今日の昼休みに話したこと覚えてる?」
 「クラスのやつらのことか?」
 「そうそう、あいつらのことでさ、ちょっと考えちゃって。」
 
 俺はトイレでのことや、俺の思ったことなんかを杉原さんに話した。
 自分でも、なんで杉原さんの前だと自分のことをいろいろと話せる
 のか不思議に思う。
 
 少し考えてから杉原さんが口を開いた。

 「そういうことか。まぁ、いい気分にはなれないな」
 「うん、杉原さんはどう思う?」

 帰ってくる答えはわかっている。おそらく、しょうがないことだ、とか
 別にいい、だとか、わからないという感じだろう。

 「う〜ん、………難しいな、少し待て。」
 「うん」

 「あのさ、桜井。人ってさ、そんな綺麗で、完璧なものじゃ
  ないんだと思う。だから、汚いところを見せられると
  汚い存在と思ってしまう。
  けれど、綺麗じゃないからこそ、直視できるんだと思うんだ。
  う〜ん、答えになってない気がするけど。」

 俺はいい意味で期待を裏切られた、そして素直に答えてくれた
 ことをうれしく思った。

 「…………そうか、そういう考え方もあるんだな。」
 「私は、そう考えるな。」
 「………ありがとう、杉原さん。少し楽になった気がするよ。」
 「どういたしまして。」
 
 「そうだ。ねぇ、杉原さん。今度の土日って空いてる?
  どこかに、遊びに行かない?」

 十九部(過程)

 「別に空いてるけど、どこかってどこだ?」
 「今、港に世界一周旅行のための大きな船が来てるし港にしない?」
 「わかった、土日は空けとくよ。」

 俺は、今日あったことを布団にもぐりながら考えているうちに
 眠りに落ちていった。

 数日が過ぎて……………

 俺は、杉原さんとの待ち合わせ場所で杉原さんを待っている。
 しばらくして杉原さんがやって来た。

 「ごめんな、待たせちゃって。」
 「いや、別にいいよ。誘ったの俺だし。」

 適当な会話をして俺たちは、港へ向かう。

 「港に着てるのはセラフィムっていう名前の船なんだって。
  イギリスからアメリカをまわって、日本に来てるらしい。」
 「へぇ〜、やっぱり大きいのかな?」
 「100メートル以上あるみたいだよ。」
 「でかいな、そんなの見たことないぞ。」
 「杉原さんは、海にはよく行くの?」
 「小さいときによくいったな」
 「海、好きなんだ。」
 「桜井は、嫌いなのか?」
 「いや、好きだよ。海って…無くした物を 見つけられる、気がするしさ。」
 「あはは、面白いこというな桜井は。」
 「まじめなつもりなんだけど……」 

 すると、目の前の交差点の信号が赤になる。俺と杉原さんは足を止めた。
 なにを思ったか、急に隣にいた幼い女の子が走りだす。
 車がかなりのスピードで迫っている。

 「おい!!」
 おれは幼女めがけて声を張り上げる。だめだ、届いてない。
 「桜井!!力を使ってくれ!!!」
 「でも、そうしたら杉原さんが!」
 「いいから使え!!はやく!!」
 「わ、わかった!!」

 「止まれ!!」

 「キイィィィィィィィィッッーーーン!!」
 時が止まる。

 二十部(結果)
 
 時が止まると同時に、杉原さんの胸にかかっているペンダントが光りだす。
 俺は、静寂の世界の中で幼女を抱え戻ってくる。

 車が幼女の近くまで迫っていた、時を止めなければ
 間違いなく轢かれていただろう。  

 「桜井、よくやった!!」
 女の子を、歩道に戻すと時が動き出した
 幼女が走り出したと思ったら、目の前にいることに周りは驚いた表情をしている。
 俺たちは、幼女に「危ないからだめだよ。」と言い聞かしその場を後にする。

 「桜井、よくやってくれたな。」
 「でも、……力を使うと敵に見つかっちゃうんじゃないの?」
 俺は、不安を胸に杉原さんに質問する。

 「その通り。現にこうして私に見つかってしまった、君たちは。」

 「「!!!!!」」

 俺たちは後ろを振り向く。そこには黒いスーツ、黒いネクタイ、黒いサングラスの
 男が不適な笑みを浮かべて立っていた。


 ――――俺はこの事態を飲み込めずにいる。

 「どうしたんだい?混乱しているのか、無理もない。」
 杉原さんと俺は、驚愕の表情で声を出せないでいる。
 「君たちは先程、幼い女の子を助けただろう?その場に私もいたんだよ。」
 「なに!?]
 [いきなり時間が止まったんで、さすがに驚いたよ。」
 男は笑い話の様に話す。

 「……お、お前が父さんたちを殺したのか!?」
 「父さん?」
 「時任義文の娘だ、私は!!」
 「あぁ、娘さんがいたんですか、義文さんには。」
 「なんだと!?」
 「どうりで、結晶が見つからないわけだ。子供がいたなんてねぇ。」
 「じゃ、じゃあやっぱりお前が、お前が殺したのか!!」
 「そうなりますね。」
 「きさまぁぁあああ!!!」
 杉原さんが男に飛びかかる。

 「落ち着けって!!冷静になれ!!」
 俺は杉原さんを力ずくで押さえ込む。
 「いい判断だ。」
 男がさらりと言った。

 二十一部(作戦)

 「離してくれ桜井!! あいつだけは!!」
 「それは、俺も同じだ。けど、つっこんでも返り討ちにあうだけだ!!」
 「じゃあどうするんだ!? 尻尾を巻いて逃げるのか!?」
 「正解!! じゃ、逃げるぞ!!」
 「え?えっ??」
 俺は時を止め、杉原さんを無理やり引っ張って走りだす。
 「ほんと、いい判断をするなぁ。彼は。」
 黒スーツの男が呟いた。

 俺は時間の止まった世界のなかで、杉原さんを引っ張って必死で逃げている。
 寂れた倉庫のようなところを見つけたので、そこに逃げ込む。

 「はぁ、はぁ、大丈夫か杉原さん。」
 「あぁ、だいぶ落ち着いた。」
 「ここも、じきに見つかるな、状況を整理しよう。」
 「わかった。」
 
 「まず、俺たちは俺たちを狙う敵に見つかってしまった。
そして、この倉庫に逃げ込んだ。」
 上を見ると、屋根がかなり壊れていて光が差し込んでいる。
 「視界は良好。」
 所持品は、喫茶店でもらったマッチ、財布、ケータイだけしかない。
 周りには鉄パイプ一つと、FLOURと書かれた袋が二つ。
 倉庫はかなり広いがほとんどなにもなく、ドラム缶がちらほらと置いてある。
 いま、隠れている場所はちょっとした事務室のような場所。
 戦力は、気を使った術の使える杉原さんと時間を止める能力を
 持った俺。

 そして、俺は作戦を考える。

 杉原さんが口を開いた。
 「桜井…あいつのことを私は許せない。復讐したいとも思っている。
  けれど、お前は私に付き合う必要なんかないんだぞ。」
 「な〜に言ってんの、あいつは俺も狙ってるんだ。
  だったら、力をあわせてあいつを倒そうよ。」
 「……わかった。二人であいつを倒そう!!」
 「おう!んじゃ、作戦を説明するから耳を貸して。」

 「…………了解した。でも、本当にそんなことができるのか?」
 「大丈夫、俺を信じて。」

 ガチャ、コツ、コツ、コツ

 「……来たな」

 二十二部(久条 静夜)

 「どこにいるんだい?出てきなよ。」
 男が叫んでいる。
 
 「ここにいるぞ!!」
 俺が男の前にでる。

 「君が、時を止める力をもっているのかい?」
 「そうだ。だから、なんだ。」
 「欲しいなぁ、その力。」
 「あんたなんかには、死んでもいやだね。」

 「そのセリフ、私の師匠も言ってましたよ。そして…死んでしまった。」
 「なにが、言いたい?」
 「君の名前を教えてくれますか?できれば、彼女の名前も。」
 「まずは、自分から名乗るのが礼儀だろ。」
 
 「アハハハハ、これは失礼。私の名前は久条 静夜と言います。」
 「俺の名前は……桜井 喪一だ。」
 「義文さんの、娘さんは?」
 「お前なんかに教える義理はないな。」
 「義理ならありますよ。」
 「なに?」

 「私は報告しなければならない。
  娘さんは死にましたよ と義文さんの墓にねぇ。」

 「きさまぁぁぁ!!! その口、ふさいでやる!!!」
 「アハハハハハハ、できますかねぇ君に。」
 「やってやるさ!! 杉原さん、今だ!!」

 「わかった!!」
 杉原詩織は手に気を込めてFLOURと書かれている袋を
 先程隠れていた場所から、俺と久条のいる空間へ投げ入れる。
 
 袋からは粉があふれだし、俺と久条のいる空間に充満していく。

 「止まれ!!」
 俺は時を止める。
 
 「ゲホッ、ゲホッ な、なにをするつもりだ!?」
 粉を吸い込んだのか、むせながら久条が叫ぶ。
 やはり、時間の止まった世界でも少しなら動けるようだ。

 「こうするのさ。」
 俺は、マッチに火をつけた。

 二十三部(久条の恐怖)

 マッチを投げると、時が止まっているので空中で停止する。
 俺は全力で走り、杉原さんのいるところに逃げ込む。

 「伏せて!!!」

 その瞬間、時が動き出す。

 ドゴォォォォッッッ!!!!!!!

 ものすごい爆発音がして、あたりに煙が舞い上がる。
 
 「やったか!?」
 俺は、久条を確認する。やがて、煙が晴れてきた。

 「!!!!」
 男は確かにそこにいた。
 黒のスーツとネクタイは焼け焦げてボロボロになり、
 サングラスにはひびが入っていた、が…………立っていた。

 …いや、性格には両手を膝に添えて、中腰の姿勢だったが立っていた。

 「ふぅ、驚きましたよ。まさか、FLOURつまりは小麦粉で
粉塵爆発を起こすなんて考えましたね。」
 俺は言葉をだせない。
 「だが、このとおり気を集中させれば、そんな衝撃には耐えれてしまう。」
 そう言うと久条は割れたサングラスをはずす。
 視線はこちらに向いている。

 目の色が変わった……気がした。

 ヒュッ――風を切る音

 「ぐぁっ!!」
 俺は反応できず、久条にふっ飛ばされる。

 「桜井!!」
 杉原さんが駆け寄ってきた。
 「大丈夫か、桜井!?」
 「あぁ、だ、大丈夫だよ。」
 
 「おや?拳に気をうまく入れられなかったか。命拾いしましたね。」
 
 俺は、久条静夜という人間から底知れぬ恐怖を感じていた。

 二十四部(状況)

「君の名前はなんと言うのですか?」
 久条は、そばにある穴の空いたドラム缶に手をつきながら
 杉原さんに話しかけた。

 「杉原、杉原 詩織だ。」
 「そうですか、いい名前だ。」
 「なんで、お前は父さんたちを殺したんだ!?」
 「義文さんたちは、過程なんですよ。私の出す、結果のね。」
 「ふざけるな!!そんな理由で人を殺すのか!?」
 「君たちには、わからないでしょうね。」
 「なんだと!?」
 「さぁ、おしゃべりはここまでにしてペンダントをいただきましょうか。」
 
 「…そうは……させるか。」
 俺は立ち上がる。

 「桜井君、逃げればいいのに。よくやりますね。」
 「俺は決めたんだ、自分から逃げないって。」
 「そういう人を、世の中ではバカと言うんですよ。」
 「そうらしいな。」

 久条は、身をかがめて攻撃の姿勢に入る。
 「ヒュッ」という音に合わせて俺は右に体を反らせ、よける。
 
 「なかなか、やりますね。」
 
 俺はそばにあった鉄パイプを持つ。
 
 「止まれ」
 動きが止まった久条にむけて、鉄パイプを振り下ろす。

 「桜井、だめだ!!」
 
 「えっ?」
 久条に当てる寸前で振り下ろすのをやめる。
 「いい判断ですよ、詩織さん。」
 「だめってどういうこと?」
 俺は杉原さんに聞き返した。 

 「高等な術の中には、与えられた衝撃を相手に返す術がある。
そのための、印を結ぶのが見えた気がした。」
 「その通りです、詩織さん。」
 「やっぱり。」
 「じゃあ、どうすればいいんだよ。」
 「間接的に攻撃するか、鋭利なもので攻撃するしかないな。」
 
 俺たちには、どちらの選択もできない。
 俺は改めて自分の置かれている、絶望的な状況を理解した。

 二十五部(起死回生)
 
 冷静に、冷静になるんだ。
 俺は自分に言い聞かせる。

 あたりを見渡す。周囲には小麦粉の袋が一つ落ちている。
 久条を倒すには間接的な攻撃をするしかない。
 もう一度、爆発をおこしても防がれるか、見破られてしまうだろう、
 時間を止めればなおさらだ。

 久条を倒すには、見破られず、防がれず、時間を止めずに
 爆発を起こすしかない。

 「どうしました?もう、終わりですか?」
 「くそっ!!!」
 「今の状況がわかったでしょう。もう、君たちに選択できる答えは
  残されていないんですよ。」
 「だまれ!!」
 俺は、久条の横にドラム缶が置いてあることにきずいた。

 「……なぁ、杉原さん。衝撃を返す術って空中に使えるの?」
 「いや、人か物にしか使えない。」
 「………わかった。」
 俺は浮かんだ作戦を杉原さんに伝える。
 
 「杉原さん、ちょっと聞いて。……………わかった?」
 「OK、了解した。」
 俺は、杉原さんに鉄パイプを渡す。

 「作戦タイムは終わりましたか?」
 久条が口をはさんでくる。
 「なにをしても無駄だというのに、わからない人たちだ。」
 「うるさい!!やってみなきゃわかんないだろう。」
 
 そして、久条は攻撃姿勢に移り、攻撃をしかけてきた。  
 俺たちは二手に別れて攻撃をかわす。

 ドゴッ!!!
 そばにあったドラム缶にパンチが炸裂し吹き飛ぶ。
 
 「二手に別れれば、どちらかが逃げれるとでも。」
 そう言うと久条は俺に向かって迫る。

 ヒュッ

 「ぐぁ!!」
 俺に久条の体当たりが当たり、再び吹き飛ばされる。
 
 「私が狙ってるのは、初めから一人ですよ。」
 「知ってるさ。だから、二手に別れたんだ。…後ろを見てみろよ。」

 二十六部(願い)

 「なにっ!?」
 久条はあわてて後ろを振り向く。
 
 「クソッ!?」
 
 後ろには鉄パイプを気の力で飛ばしてくる杉原さんがいた。
 
 ビュオッ
 鉄パイプが勢いよく飛んでくる。

 「こんなものぉ!!」
 ギリギリで鉄パイプをかわす。
 
 だが、その鉄パイプを、俺はつかみ久条を殴りつける。

 ドグゥ!!
 鈍い音と共に久条は倒れる。

 「さっきのお返しだ。」
 俺は、その場を急いで離れる。

 「杉原さん、今だ!!!」
 小麦粉の袋が粉を撒き散らしながら投げ込まれる。
 俺はマッチを投げる。

 ドゴオォォォォッ!!!!!!

 鼓膜がしびれるくらいの爆音が響き渡り、周囲に煙が巻き上がる。
 すると、俺のもとに杉原さんが駆け寄ってきた。

 「やったのか、桜井?」
 「わからない。けど、あの爆発をまともにくらったんだ
  立てるはずがない。」
 
 だんだん煙が晴れてきた。
 
 俺たちは勝ったと思った、勝っていて欲しかった、そう願っていた。
 …………だが、久条は立っていた、爆発の中で。

 「アハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハ」
 久条の笑い声が虚空に響く。

 二十七部(人の世界)

 煙の中から姿を現した久条は立っていた、ボロボロになりながらも。
 
 「おもしろい…おもしろいよぉ。アハハハハ」
 久条の笑い声が響く。

 ヒュッ

 久条は足に気をためて俺に一瞬で近づき、
 拳に気をためてきつい一発を俺の腹にぶち込む。

 「グゥッ!!」
 俺は近くの壁まで吹き飛ばされる。
 
 だが、久条は攻撃をやめない。
 続いて近くにあったドラム缶を俺の方に蹴り飛ばす。
 
 「ッ!!」
 ドラム缶の、直撃を受けた俺は声にならない叫び声をあげる。
 
 「桜井!!」
 杉原さんが俺に駆け寄る。
 「だ、大丈夫だから杉原さん。」
 俺はかすれ声で言う。

 「おや?まだ、生きてるなんておかしいなぁ。
  どうやら、受け継がれたのは能力だけじゃなく義文さんの体力なども
  少しは受け継がれたらしい。」
 「ハァッ、ハァッ」
 「だが、次で終わり。もう、限界でしょう?」
 「……それは、あんたも同じなんじゃないか。」
 「…そうですね、私も、力はほとんど残っていません。」
 「なんで、あんたは、そこまでしてまで、時を支配する力が欲しいんだ?」
 「天界ってところは見晴らしが良くてね。」
 「なに?」
 「いろんなものが見れましたよ。」
 「なにが見えたんだ?」

 「人、そのものですよ。
  …戦争、殺人、騙し合い、差別、憎しみ、嫉妬、まだまだあります。」

 「だから、おまえがこの世界を支配するのか?」
 「支配?違いますね、私はこの世界に失望しているんです。
だから、壊すんですよ。人の世界をね。」
 
 俺は杉原さんの言った言葉を思い出していた。
   
  【綺麗じゃないからこそ、直視できると思う】

 「……人間そんな捨てたモンじゃないさ。」
 俺はゆっくり立ち上がった。

 二十八部(決着)

 「まだ、やるんですか?」
 「当たり前だ。俺は、杉原さんを守る。」
 そう、俺は杉原さんを守るんだ。

 「杉原さん、俺に力を貸してくれない?」
 「どういうことだ?」
 「たぶん、次が……最後だから。」
 「…わかった。」
 そう言うと、杉原さんは俺の腰あたりをつかんだ。
 つまりは、杉原さんの気を集中させた足で飛び出して、
 俺が久条を殴るというわけだ。

 「そう、次が最後ですよ。」
 久条も最後の攻撃のために足に気を集中させる。

 「じゃあ、行こうか、杉原さん。」
 「あぁ!!」
 
 俺たちも久条も同時に地面を蹴り上げる。

 ヒュウッッッ
 あたりに風が巻き起こる。

 殴りあう音が聞こえた。そして、人が倒れる音がする。
 倒れたのは久条であった。

 俺たちは立っていた。

 二十九部(戦いの後に)

 「……負けてしまいましたね。」
 地面に倒れながら、久条が言う。

 「……………」
 俺たちはなにもいえない。

 すると、久条がゆっくり立ち上がった。
 「クッ!! まだ、やるのか!?」
 「やりませんよ。もう、やめです。」
 「なに!?」
 「もう、君たちを狙うのは止めだと言ったんです。」
 「本当なのか?」
 「本当ですよ。」
 久条は歩き出した。

 「どこへ行くんだ?」
 「天界に行って、もう一度、世界を見つめなおしてきますよ。」
 「……そうか。」
 「あぁ、そうだ。詩織さん、これを渡しておきます。」
 久条は腕輪のような物を、杉原さんになげて渡した

 「使い方は、宝石のところをさわって念じればいいですよ。」
 「どうなるんだ?」
 「ある場所にワープできます。明日あたりに行くといい。」
 そういい残して、久条は消えていった。

 俺は安心からか、そこで気を失ってしまった。

 きがついた時、俺は布団の上で寝ていた。
 体中に包帯がまかれている。

 「桜井、きがついたか。」
 「ここはどこなの?」
 「桜井の家だよ。」
 「…そうか。この包帯は杉原さんが?」
 「うん。ついでに、傷もある程度、術で直しておいた。」
 「ありがとう。」
 俺は起き上がり杉原さんに礼を言う。
 
 「大丈夫か?」
 「大丈夫、大丈夫。それより久条にもらった腕輪は?」
 「ここにある。まだ使ってないけどな。」
 「じゃあ、使ってみようか。ちょっと待ってて着替えてくるから。」

 俺は自分の部屋へ着替えを取りに行った。

 三十部(お墓)

 俺と杉原さんは腕輪の宝石に触れた。
 「どんなことを念じればいいの?」
 「う〜ん、ワープすることかな。」
 「よく、わかんないや。」
 「まぁ、腕輪に意識を集中させればいいよ。」
 「わかった、やってみる。」

 俺は宝石に触れ、目をつむり、意識を宝石に集中させてみた。

 「桜井、もう目を開けていいぞ。」
 杉原さんの声がした。
 俺は、目をおそるおそる開けた。
 視界にはまぶしいほどの光が入る。

 そして、俺たちはとても美しい場所に立っていた。

 そこは草原が広がり、ところどころに腰くらいまでの木が生えている。
 木は奥に行くにつれて、だんだん大きくなっていた。
 「……綺麗な場所だな。」
 俺は自然とつぶやく。
 杉原さんも、この光景に感動しているようだった。
 「杉原さん、奥の方に行ってみようか。」
 「うん。」
 俺たちは、だんだん大きくなる木に沿いながら奥に向かって歩き出した。

 生えている木は、全て月桂樹で木によっては花を咲かしているものもある。
 この場所に季節は関係ないようだ。
 奥には、なにか立派な建物が建っていた。
 建物といっても高さは2mくらいであったが。

 建物に近づくと、名前が二つ刻まれていた。
 そして、それが杉原さんの両親のお墓であることにきがついた。

 杉原さんを見ると涙を流していた。
 俺は、かけてあげる言葉がわからなかった。

 「……これ、使って。」
 俺はハンカチを差し出す。
 「ありがとう。」

 三十一部(月桂樹)

 俺たちは、2、3時間この場所で過ごした。
 杉原さんも少し元気になってくれた。

 「……ねぇ、杉原さん。久条ってさ、そこまで悪いやつじゃないと思うんだ。」
 「どうしてだ?」
 「あの人は純粋すぎたんだよ。だから、極論に走ってしまっんだと思う。」
 「…………。」
 「それに、この墓のこともあるし。」
 「……でも、あいつを許すことはできない。」
 「………あのさ、ここに生えてる木、月桂樹って言うんだけどさ。
これの花言葉って知ってる?」
 「いや、知らない。」

 「月桂樹の花言葉は勝利、名誉、そして裏切り。
もしかしたら、この場所はあいつの罪滅ぼしなのかなって思ってさ。」

 「………。」
 「意味の取り方は、人それぞれだけどね。」
 杉原さんは黙ってお墓を見つめる。

 「わからない、この立派なお墓を作ってくれた久条と人の世界を壊すと言った
久条と、どっちが本当の久条なのか。」
 杉原さんが言う。

 「どっちも本当の久条なんだと思う。
それに、わからなくてもいいんじゃないかな。」
 「どうして?」
 「だってさ、杉原さんにはたっぷり時間が残ってるから。」
 「あはは、そうだな♪ 久条から桜井が守ってくれたしな。」
 …俺はちょっと照れた。

最終部(二人の世界で)

 「さて、そろそろ帰ろうか。桜井。」
 「うん。でも、ちょっと待って。」
 「どうした?」
 「この、二週間いろんなことがあったよね。」
 俺は続ける。

 「時間を止める力を手に入れたのに始まって、杉原さんが現れて、
  久条が現れて、久条と戦って二週間とは思えないほどの
  時間を過ごした。」
 「………そうだな。」
 「杉原さんは俺の考え方を変えてくれたし、俺を導いてくれた。」
 「桜井だって、私にいろんなことを学ばせてくれたぞ。」
 「そうかな?」
 「そうだよ。」
 「ハハハ。 まあ、それは置いといて。」

 俺は真剣な表情をする。
 「俺はこの二週間を杉原さんと過ごせてよかった。
  そして、杉原さんのことをとても大切に思っている。」
 「………。」
 「止まれ。」
 俺は時間を止める
 
 「この、時間の止まった世界で――」
 「………。」
 「――俺は…杉原さん、君に伝えたいことがある。」
 「…うん。」

 「……俺は、杉原さん、君のことが好きだ。」 
 俺は自分の思いを精一杯話した。

 「私もだ。」
 杉原さんも応えてくれた。
 
 ――お墓から帰るとき、
      俺たちは手をつないで笑いあっていた。
                      
      「もしも時間を30秒止められたら」For小笠原
                            THE END

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