ニー太その9(41停止目)

「くくく、止まれ〜」
ガリガリのメガネの男がそう呟いた。
「きゃあああああ!?」
気が付くと近くにいた女の子が全裸になっていた。
メガネ男はニヤニヤしながらそれを見ている。
変わった趣味があるなと思いつつ俺は会社へ向かった。

「アヒャヒャ、止まれ〜」
電車の中で小太りの男がそう呟いた。
「いやぁぁぁぁぁぁ」
気が付くと傍の女の子がその男に犯されていた。
小太りはフヒーフヒーと言いながら腰を動かしている。
混乱から冷めた辺りの男たちが小太りを取り押さえて駅員に突き出した。
馬鹿だな、電車の中で女の子を襲ってもこうなることは目に見えているのにと思いつつ俺は会社へと急いだ。

「くけけけけ、止まれ〜」
銀行の中から大きな声が聞こえた。
気が付くと銀行から大きな鞄を持った男が大急ぎで走り去っていった。
銀行からは「な、き、金庫の中身がないぞ!?」「そんな馬鹿な!?」といった声が聞こえてくる。
自分には関係のない銀行なので俺は会社へ進路を戻した。

「あ、危ない!と、止まれ〜!!!」
信号無視の車に轢かれそうになったお婆さんがいつの間にか歩道へと移動している。
轢かれなくて良かったと俺は思いつつ俺は会社へと慌てて進んだ。

会社に着くと俺は今日の道中のことを皆に話した。
同僚は「最近はロクな奴がいないな」と呆れた。
俺は相槌は打ったものの内心少し嬉しかった。
自分の欲望以外に時を止める人間がいたことに。
会社の入り口には「時を止める力を授けます」と書かれた看板があるのだった。

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