ニー太その8(40~43停止目)

 

時を止まったらいいのに。誰もが一度は考えたことがあることだ。
だが時を止めるということは大していいことではない。
最初は悪戯や完全犯罪などを楽しめるがすぐに飽きてくる。
人は楽しみを共有してこそ楽しいのだ。
一人では全く意味がない
あの時まではそう思っていたし、実際にそうだった。

午前二時
ふと物音に気が付き目が覚めた。
音は玄関の方から聞こえてくる。
こんな時間に騒ぐとは良識がないな・・・。
そう思いながら無視をした。
・・・音は一向に止む気配がない。
俺はイライラしてきた。
玄関に向かい耳を澄ましてみる。
よく聞くと泣き声のようだ。
何事だろうか?
扉を開き外の様子を伺ってみた。
女・・・いや少女が一人泣きじゃくっている。
彼氏にでも振られたのだろうか?
いや、そういう様子とはまた違う。
俺は気になり声をかけた。
少女はわずかに反応したものの泣き続けている。
一体何があったのだろうか?
興味が涌き始めた。
しばらくその場で様子を見ることにする。

しばらくすると少女は落ち着きを取り戻したようだ。
俺は再び声をかけた。
少女は俺の方を向き笑顔を向けた。
一体何なんだ?
何故俺の家の前で泣いている?
何が悲しくて泣いている?
何故俺に笑顔を向ける?
疑問は疑問を呼ぶ。
とにかくこのままにしておくのも忍びなかった。
俺は少女を部屋に招きいれコーヒーを淹れる。
そして少女に色々尋ねてみた。
少女は戸惑いながらもはっきりと俺の質問に答えていく。
要約すると両親と喧嘩して家出をしてきたそうだ。
俺の家の前にいたのはたまたまらしい。
そして自分を認めてくれた存在・・・つまり俺を嬉しく思い笑顔を向けた。
そんなことらしい・・・。
俺は面倒ごとを抱えてしまったと思いつつも彼女を保護することにした。

翌朝目が覚めると香ばしい香りが鼻をくすぐった。
匂いの出所へ目を向ける。
どうやら朝食の準備がされているようだ。
少女は俺が起きてきたのを確認するとにっこりと微笑み食卓へ座るように促した。
俺は朝食を取らない主義なのだが折角作ってくれたのだ、ここは素直に食べることにしよう。
食事を取る傍ら俺は彼女に今後のことを尋ねてみた。
少女は少し迷った後出来ることならここにいたいと行った。
流石にこれには俺も悩んだ。
一晩くらいならと思い保護したのだ。
それがいつまでもわからない期間に延長するという。
とにかく、しばらく悩んだが答えが出なかった。
ふと時計を見ると仕事の時間だった。
とりあえず仕事から帰ってきてから考えることにし、俺は少女の見送りを受けながら家を出た。

仕事に向かいながらも少女のことを考えてしまう。
いくらなんでも保護し続けるのは辛い。
しかし、少女を追い出すのも忍びない。
葛藤を続けているうちに仕事場についた。
そこは古びた雑居ビルだ。
俺はエレベーターのボタン「↑」ボタンを押し待機する。
しばらくすると音が鳴り扉が開いた。
エレベーターに乗り5階のボタンを押す。
無機質な音と共にエレベータが上昇し目的の5階で扉が開く。
そのまま目的の部屋の前まで歩く。
扉には「○○探偵事務所」と書かれている。
そう、俺は"表向きには"探偵業で生計を立てている。
ドラマや小説の探偵業とは違い現実ではせいぜい浮気調査や素性調査くらいだ。
はっきり言って退屈な仕事である。
普通の大抵なら調査は困難を極めることもあると思うが、時を止められる俺にはどれも簡単な仕事だ。
浮気調査なら尾行を行い、ホテルにでも忍び込んで時を止めて証拠写真を撮れば終わりである。
素性調査なんて、役所で時間を止めて資料を漁れば終わりだ。
所詮は表向きの仕事だ。
退屈とはいえ、楽なほうがいい。
だが、今日は楽を出来そうにはない。
“本業”が待っているからである。
俺は資料を取り出し、仕事を開始した。
この仕事は危険も多く、難しいが、退屈だけはしないで済む。
そのため、この仕事を始めたのだ。
資料に目を通していると、“本業”の依頼をしてきた者がやってきた。

inserted by FC2 system