ニー太その7(38停止目)

 

「ねぇ?喪川の花火って綺麗らしいよ。一緒に見に行かない?」
ひょんな会話から花火を見に行くことになった俺。
しかも相手は女の子だ。
万年引き籠もりの俺には外に花火を見に行くという感覚が分からない。
花火ならテレビ中継で十分じゃないのか?
最近はアニメやFLASHの画質も上がって本物と大差がない。
それではいけないのか?
そんなことばかり思ってしまう。
だが、せっかく女の子が誘ってくれたのだ。
無下に断るのも悪い。
というわけで俺は今喪川の河川敷に女の子と一緒にいる。
さっき買ってきたたこ焼きを頬張る女の子を横目に俺は花火が始まるのを待っていた。
「あれ?あんまり楽しそうじゃないよね?もしかして嫌だった?」
「別にそういうわけじゃないけど・・・ただ花火なんて久しぶりなんで緊張しているだけだよ。」
とりあえず無難に答えておく。
だが、この言葉に嘘はなかった。
せっかく花火を見に来たのだ。どうせなら楽しんでおきたい。
「あ、始まるみたいよ。」
ごちゃごちゃ考えているうちに一発目の花火が上がる。
赤、青、黄と様々な火花が四方に飛び廻り、目を引く。
続けて二発目、三発目と次々に打ち出され大きな爆音とともに文字通り火の花が咲き乱れる。
「線香花火みたいな小さいものもいいけど、こういうのもいいな。」
「・・・うん。凄い綺麗。」
大規模な空の美術作品を見ているうちに俺は自分の引き籠もり人生に疑問を抱き始めた。
(このままでいいのか!?俺はこのまま花火を見る機会もなく一生を過ごすのか!?)
自問自答しているうちに花火が終わってしまった。
花火大会の帰り道俺は彼女と並んで歩いていた。
「今日は誘ってくれてありがとな。おかげで何か色々吹っ切れた気がするよ。」
「うん、悩みがあったかどうかは知らなかったけどいい結果になったみたいで良かった。」
「…でも、なんで俺なんか誘ったんだ?君ならいくらでもいい男釣れるだろう?」
「…それはね」
ヒュ〜ドーン
背後から終わったはずの大きな花火の音が鳴り響き俺の意識を奪っていった。


気がつくといつもの俺の部屋だった。
「…夢か?…そういえばあの女の子に会ったことは一度もなかったな。」
ふと枕元を見ると
(あなたの-時-をより良いものに)
と書かれた札があった。
「これは…あ〜確かどっかの宗教が勧誘しに来たときにおいてったものだっけ?-時-をより良いものにって…どういうことだ?」
俺は少し考えた。
そして一つの答えに辿り着く。
-時-とは俺の人生。
この札の効果は自分の人生を考えさせること。
あの花火はより良いものへの第一歩。
女の子は俺の夢へとつながるもの。

この体験を気に俺は引きこもりを脱却し仕事を始めた。
いつか、女の子と一緒に花火を見に行くために。

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