ニー太その4(33停止目)

「鷹斗、待ちなさいよ!」
帰りのHRが終わり帰ろうとした矢先に呼び止められた。
「何だよ、亜稀。俺は早く帰りたいんだが」
「何か用事でもあるの?」
「帰って寝るという大事な用がある、じゃあな」
帰ろうとする俺に対し亜稀は怒った口調で
「ふざけないでよ!そんなの用事でもなんでもないじゃない!いいから話を聞きなさい!」
「どうせいつものように買い物に付き合えとかそんな話だろ?」
「今日は違うわよ。いいから今から生物室まで付き合いなさい」
「…生物部の手伝いか?」
「大別すればそうなるけど…でもあんたにとっても大事なことよ。」
「大事なこと?俺が大事にしているのは睡眠なんだが」
「あ〜もう!本気で怒るわよ!」
拳を握り怒りを表す。
「わーったよ。行けばいいんだろ。」
「分かればいいのよ。分かれば。」
やれやれと肩をすくめる俺と対照的に一転して笑顔になった亜稀と共に生物室に向かっていった。

この学校の生物部はかなり変わっている。
普通の高校の生物部は動植物の体の構造を教科書や文献などの資料を読み意見を交換したり、解剖や観察といった実習を行ったりする。
しかし、この学校では顧問の先生がその筋の専門家ということが原因なのか変わった研究を生徒がしている。
例えば超能力の研究やサイボーグ、人体強化などである。
「人体実験のサンプルならお断りだぜ?」
「違うわよ。鷹斗の例の能力についていくつか考察してみたからそれの確認をして欲しいの」
例の能力というのは時を30秒止められる能力である。
理由は分からないが俺はいつからかその能力を使えるようになっていた。
能力のことを知っているのは四人。
俺と両親と亜稀だけである。
亜稀が生物部に入ったのは俺の能力について調べるためである。
「なぁ…能力のこと調べて何になるんだ?」「もし何かの病気だちたら嫌じゃない。それに単純に超能力としても調べる価値はあるわよ。じゃあとりあえずこれ読んで。」
そう言うとレポートの束を俺に手渡した。

ため息をつきつつレポートに目を通していた時、大きな音が隣の部屋から響き渡った。
「な、なんだ?」
「きゃっ!?な、何?」
ほとんど同時に声を出す。
「隣のからだよな?」
「う、うん。先生の研究室からみたい…」
とにかく何があったのか確かようということになり生物準備室―つまり先生の研究室―の扉を開いた。
部屋の中は荒れ果てていた。
散らかっているのとはまた違う。
机や椅子、棚などが壊れ散乱しており、薬瓶は砕け散ってまきびしのような状態になっていた。
「せ、先生?いるんですか?」
亜稀がビクビクしながら声をかけるが返事はない。
「…亜稀、……あれ」俺が指差した先には鮮血に染まった白衣を身につけた人が倒れていた。
「先生!!??」 声をかけるまでもなく事切れているのは明らかだったがそれでも声をかける亜稀。
そんな亜稀の肩を叩き首を横に振った。
「い、イヤよ…こんなの、…何?何があったのよ!?」
亜稀が悲痛な叫びを上げた。
この出来事はカーニバル―殺戮―の始まりの合図であった。

何とか落ち着きを取り戻した後、とにかくこの事を報告するために職員室に行くことにした。
「ね、ねぇ…あれって何が原因なのかしら…」
「…普通の殺人とかじゃないよな。強盗目的だとしてもあんなに部屋を破壊する必要ねーし」
「…実験の失敗かもしれないわよ」
「ん?そういやあの先生はなんの研究していたんだ?」
「確か今は合成獣の生産についてよ。」
「合成獣?」
「ほらマンガとかで複数の生き物を合わせた動物いるでしょ?キメラとか呼ばれたりする」
「俺、あんまマンガ読まねーから分からないな」
「有名かつ分かりやすいのだと馬の体と鳥の羽を合わせたペガサスとかメジャーリーガーじゃない方のゴ〇ラとか。」
「ペガサスが合成獣なのは何となく理解できるがゴジ〇もか?」
「あれはね、ティラノサウルスの頭とイグアナドンの胴体、ステゴサウルスの背びれにワニの皮膚が合わさっているのよ。」
「…感心よりも亜稀の異常な詳しさに呆れるぜ」
「な、何よ!聞かれたから答えただけじゃない!生物部なんだから知ってて当然なの!」
「いや生物部でも知らない奴が大半だと思うぞ」
「…と、とにかく先生はそういうキメラの研究をしていたのよ。」
「なら実験の失敗てのはないんじゃないか?キメラなんて作れるもんざゃないだろ?実験ったってせいぜい移植手術くらいしかできねーだろうし」
「でも先生は…」
「ほら職員室ついたぞ」
「え?あ、うん。」
恐怖を紛らわすために話をしていたのが功をそうし普通に職員室までやってこれた。

「失礼します」
こんな状況でも律儀にノックと挨拶をする亜稀に半ば呆れる鷹斗。職員室にくるまで〇ジラについて一緒に話をしていた鷹斗が呆れるというのもおかしな話ではあるが。
職員室の扉を開き手近な先生に話かける。
「あの生物部の四津保亜稀ですがお話が…」
「ん?生物部関係の話なら顧問にした方がいいぞ」
「いえ…顧問の陸奥先生が…その…死んでいるんです」
「そういうことは冗談でも言うんじゃない。」
「本当ですよ。さっき生物準備室で倒れているのを俺も見ました。直接確かめたわけじゃないですがおそらく死んでると思います。」
「…倒れていた?分かった確認してみよう。」
そう言うと先生は生物室の方へ向かって行った。

「何か信じて貰えてないみたいね…鷹斗はともかく私まで信じて貰えてないのはショックだわ…」
「そりゃそうさ。俺だって未だに信じられない。亜稀が一緒じゃなきゃ幻覚だと思うさ。って俺が信じて貰えないのはデフォなのか?」
「そりゃそうよ…あんたみたいなサボり魔が信じて貰えるわけないじゃない。」
「あのなぁ…。俺は先生からの人気ナンバー1なんだぜ?」
「…先生と生徒指導室でよくデートしてるだけじゃない」
「うっ…先にオチを言うなよ…」
「あんたの考えることなんてすべてお見通しなのよ。」
くだらないやり取りをしていると生物室に向かった日立先生が帰ってきた。
全身血まみれになって。
「…バケモノが…」
と言った瞬間後ろから現れた黒い影に切り裂かれ肉の塊となった。
「え…?」
「…キャアァァァ!!」
亜稀の悲鳴に職員室内の視線こちらへ向く。
「なんだ?」
「ど、どうした!?」
「え?」
先生達が声をあげる。
状況を理解した順に混乱が広まっていく。
職員室は騒然となった。
黒い影はそのまま鷹斗に襲いかかる。
「な…」
鷹斗はかろうじてそれを避ける。
黒い影はそのまま職員室の中に入り込み慌てふためく先生達を切り裂き、噛みつき、食い殺していく。
「…な、何なの?」
「チッ…亜稀!とにかく逃げるぞ!」
呆然となった亜稀の手を引き鷹斗は職員室から飛び出した。
職員室の中からは悲鳴と肉を切り裂く音が引き続き聞こえる。
鷹斗はとにかく安全な場所へと亜稀と共に走り続けた。

inserted by FC2 system