ニー太その3(32停止目)

ピッ、ピッ。
心電図の音が病室に響く。
この病室にいるのは俺の彼女だ。
去年、交通事故にあって以来意識不明。
俗にいう植物状態になっている。
医者に言わせれば「生きているのが不思議」だそうだ。
つまり「いつ死んでもおかしくない」のである。
俺は彼女を失いたくはなかった。
だが俺に出来ることといえば彼女の身の回りの世話だけである。
[時を止める]という力は今は役に立ちそうにない。
自分の無力さがつくづく嫌になった。

そんなある日、彼女の容体が急変した。
「出来る限りの処置はしますが心の準備をしておいてください」
医者はさらりとお手上げ宣言をした。
注射を何本も打ち、点滴を何種類も刺した。
素人目な見ても無駄なことをしているのが分かった。
だが何とか彼女は平静を取り戻したように見えた。
「今は薬の効果で落ち着いていますが持って後数日でしょう。」
俺は絶望の淵に立たされた。
どうすれば、どうすればいい?
俺は自分自身に問い続けた。
そして一つの答えを見つけた。

翌日病室にやってきた医者は俺を見て驚いた。
「…あなたは一体誰でしょうか?」
そう、俺の姿は酷くかわってしまっていた。
彼女と少しでも長く一緒にいるために時を止め続けた。
その結果、時の止まった世界で俺は一人年を重ねた。
今の俺は80を過ぎたお爺さんとなっていた。
50歳を過ぎたあたりから体力も精神力も落ち、時を止めるということが難しくなっていた。
しかし俺はそれでも時を止め続けた。
彼女と一緒にいるために…。

医者に返答をしようとした時俺の生命は終わった。
それとともに彼女の生命も終わった。

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