ニー太その2(32停止目)

 

僅かな灯りだけを頼りに指定された道を進む。
辺りには人工物らしき木々が生い茂っていた。
そして、木々の間を縫うように、死体や生首が散らばっている。
実際のところ恐怖はあったが、彼女の前ということで俺は平気な振りをしていた。
「ねぇ、やっぱりお化け屋敷に入ったのは失敗じゃないかしら?」
入る前はあれだけはしゃいでいた彼女も流石に弱音を吐いている。
「大丈夫だろ、ほら、これだって作りものだし。」
近くにあった死体を指指して虚勢をはる。
事実、その死体もよく見れば拙い作りになっていた。
もっと精巧にできていたならば俺も恐怖は隠せなかったであろう。
「う、うん…大丈夫よね。あくまでアトラクションなんだし。」
「そうそう。だからさっさと進もうぜ。」
そう言って安心をさせ、彼女の手を引いて奥へと進んでいった。

「きゃあ!!??」
彼女の悲鳴が響き渡る。
「大丈夫だ、ただのびっくり箱みたいなものさ」
急に井戸から出てきた生首に驚く俺達。
彼女の恐怖は最高潮に達していた。
だが、俺はただ単純にびっくりしただけで恐怖は感じていなかった。
おそらくはこの空間に慣れてきたのであろう。
改めて辺りを見渡せば小学生でも作れそうな拙いセットだ。
最初怯えていた自分が恥ずかしくなりつつある。
今では彼女の大きなリアクションを見て楽しむ余裕すら生まれてきた。
そう、彼女のリアクションはとても大きいのだ。
今の井戸を始め、生首を見ては悲鳴を上げ、ろくろ首を見ては大きく後ずさりをする。
普段は強気な彼女の弱いところを見れるというだけでもお化け屋敷に入った甲斐があったというものだ。
そんなことを考えているとまたも彼女が大きな悲鳴を上げた。
「ったく、今度は何があったんだ?」
彼女の方に目をやった俺は驚愕した。
彼女は必死になって胸と大事なところを隠している。
そう、なんと彼女が一糸纏わぬ姿になっているではないか。
「な、何がどうなっているんだ?」
「わ、分かんないよ…き、気が付いたら服が無くなっていたの…」
「これもアトラクション…なわけないよな…?」
そう言いながら俺は彼女の体に目を奪われている。
「と、とにかく服を探してよ…このままじゃ帰れないわ…」
彼女は半泣き状態になっている。
俺は辺りを見回し服を探し始めた。
すると少し離れた位置に落ちていたので回収し彼女に手渡した。
彼女は訳が分からないといった様子で手早く服を着始めた。
服を着終ったあと、二人で出口に向かって駆け出した。

お化け屋敷の外に出たところで俺は受付のお姉さんに聞いてみた。
「このお化け屋敷って実際に怪奇現象が起きるんですか?」
「…もしかしてあなた達も体験したの?」
「ってことはあるんですね…」
「ええ、若い女性客の服がいきなりなくなったり、気が付くと卑猥なポーズをとらされていたりするらしわ。」
「それならそうと先に言ってくださいよ!俺の彼女が被害にあったんですよ!?閉鎖するなりなんなり考えてください!」
俺は苦情を言うと彼女のところに戻り、お化け屋敷を後にした。


お化け屋敷の中で微笑を浮かべている男性従業員がいた。
「今日の女の子は胸はもの足りなかったが、下の方はなかなかだったな。」
この従業員が何をしたのかは誰も知らない。

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