ニー太その1(32停止目)

俺は30秒間だけ時を止められる。


キュッキュッ バッシュの音が体育館に響き渡る。
そう、今はバスケの試合の真っ最中だ。
後半戦が始まったところでスコアは46対36。
俺の所属するチームは負けていた。
(このままじゃ負けが濃厚だな…。)
誰もが考えることをこの俺も考えていた。
しかし俺にはどうすることもできなかった。
そう、この俺は補欠なのだ。
身長は165cmしかない上足も遅い。
今まで一度も試合にでたことがないのだ。
この日もこのまま傍観することになると思っていた。
だが、残り時間1分、スコア67対44というところで監督が指示をだした。
話の流れから分かると思うが、指示内容は[俺を出す]である。
俺はその指示を聞き胸を踊らせた。
高校3年間1度も出番がなかったこの俺が試合に出ることができる。
曲がりなりにも3年間毎日練習してきたのだ。
その成果を今見せてやる。
ましてや俺には時を止める能力があるのだ。
相手が強豪校だろうと恐れるわけがない。

2年生のレギュラー選手と交代に俺はフィールドに立った。
周囲の様子を見回し大きく深呼吸をする。
戦闘準備は整った。
ついに、運命のホイッスルが響き渡る。

敵と味方が入り乱れてボールを巡って走りだす。
激しいボールの奪い合いが始まった。
しかし 万年補欠の俺には成す術がなく、ただただボールを追いかけ回すだけであった。
(クッ、やはり俺には無理なのだろうか?)
見せ場のないまま時間だけが無情にも過ぎて行く。
残り時間が10秒を切ったその瞬間、俺は時を止めた。

時が止まり周りすべてが停止する。
俺はドリブルしている男からボールを奪った。
そのまま上手いとは言えないドリブルで一気に3Pラインまで移動する。
シュート体勢に入り、ゴールに向かってボールを投げる。
シュートだけは得意な俺は見事ゴールを決めた。
俺は誇らしげにさらにシュートを繰り返す。
逆転となる5本目のシュートを決めたとき、時が動きだした。

先ほどまでボールを持っていた相手チームの男はボールが消えたことに唖然とし、味方も何が起こったのか把握できないという顔をしていた。
そして試合終了のホイッスルが鳴った。
俺はとても嬉しかった。
俺の活躍で逆転できたのだ。
万年補欠のこの俺がチームの役に立ったのだ!

そして勝利のスコアボードを確認する。
しかし、得点は67対44。
……え?
うわぁぁぁぁ、しまったぁ、時を止めてる間は審判も止まっているんだった。
どおりでゴールのホイッスルが鳴らないと思ったよ!!!!
誰も俺の見せ場みてねぅよ!?


俺の最初で最後のバスケの試合が終わった。

inserted by FC2 system