奈々氏(46停止目)

 

「はーいみんな席についてくださーい。」
朝から先生の威勢のいい声が響きわたり、騒いでいた生徒たちがみな着席する。
僕の名前は・・・まぁクラスのみんなは僕のことを「教授」とか「博士」と呼ぶ。
なぜかメガネをかけているだけでそう呼ばれることになった。
他にもメガネかけてる奴なんて五万といるのに不思議なことだ。
とはいえ僕は別段変わったことは何もないどこにでもあるような平凡なクラスの平凡な一生徒だ。
今日もまた何も変わらない日常が始まる。
「今日はビッグニュースがあるぞ。」
先生の言葉に教室がざわめく。
「え〜、今日は転校生を紹介します。」
周囲がさらにざわつく。
正直僕にとってはどうでもいいことだ。
それに教室の机が一つ増えてたんだ。勘のいい奴ならとっくに気づいてる。
「では入ってください。」
先生がそう言うと、教室前の扉をゆっくり開けて女の子が入ってきた。
「では自己紹かぃ〜・・・
すでに僕の耳に先生の言葉は入ってこなかった。
もうすぐ夏休みだというのにこんな時期に転校生か。
ちょっと興味あるけど今の僕を襲っている睡魔に転校生じゃ勝てないよ。

「〜・・・。〜田!」
先生が俺の名前を呼んでいるが聞こえ、ハッと現実に戻る。
「じゃあ小宮さんは今起きたあいつの隣に座ってください。」
そうか・・・転校生は小宮というのか・・・下の名前は・・・ま・・いいか・・・。
そこで朝の俺の記憶は途切れた。


寝ているうちに「あっ」と言う間に一日の授業が終わった。
僕は放課後が好きだ。特に学校から家に帰るまでの時間が大好きだ。
学校では嫌が応にも他人と接さなくてはならないし、家は家で家族とだけはあまり距離は取れない。
そんなわけで下校中の完全に自由な時間が俺にとっての至福のひとときなのだ。

HRが滅茶苦茶短い僕のクラスはいつも一番に放課になる。
僕は一応部活には所属しているが、幽霊部員なので毎日はなうた混じりに一番乗りで学校をあとにするのだ。

「〜田くん!・・・・だよね?」
校門を出たところでいきなり背後から声をかけられた。
神聖なる下校中の時間を侵害されて、僕はかなり気分を害したが、平静を装って振り向いた。
「・・・・こみや・・・さん・・・だっけ?」
そう、そこには転校生の小宮が立っていた。
「よかった!名前あってたっぽいね。」
無駄にハイテンションで馴れ馴れしい彼女が喋れば喋るほど俺の不快指数が指数関数的に上がっていく。
「何か用?僕・・・早く帰りたいんだけど」
「うん、別に用ってわけじゃないんだけどアナタ今日一日中寝てたでしょ?隣の席だし挨拶くらいしておこうかと思って。」
「あ、そう、じゃあヨロシク、サヨウナラ」
「うんよろしくぅ!」
あからさまな態度で追い返そうとしたが小宮は全く気にする様子がない。
だがそんなことはどうでもいい。
僕は早々に帰途につきかったのでそれだけ言うと小宮に背を向けて再び歩き始めた。

〜五分後〜
「アナタ教授ってよばれてるの?」
「うん・・・。」
「私もそう呼んでもいい?いやじゃない?」
「別に・・・。」
「じゃあこれからは教授って呼ぶね。」
「うん・・・。」
「教授って何か趣味とかはまってることってある?」
「別に・・・。」
「私ね、結構スポーツ得意なんだ。」
「ふぅん・・・。」
「でも転向してきたばかりで右も左もわからないからどんな部活があるのか教えてよ。」
「また今度・・・。」
「うん、ヨロシクね。で、教授は何部に入ってるの?」
「別に・・・。」
「帰宅部?まぁそうっぽいもんねー。色白だし。もうちょっと焼けなきゃ」
「別に・・・。」
「アハッ!怒った?ごめんねー。」

なんなんだこいつは。
一体全体何の恨みがあって僕の神の与えしフリータイムを蝕むんだ。
しかも僕が教授と呼ばれていると誰に聞いたんだ。
そんなことはどうでもいい、どうせ僕が寝てる間にクラス中の奴と話したんだろう。
だが・・・
「小宮・・・さん。」
「ナニナニ!?質問?」
「何で僕についてくるの?」
「え〜!だって
 私 の 家 も こ っ ち の 方 向 な ん だ も ん。
今日はまだ引越しが完全に終わってないから早く帰らなきゃいけなくて
急いで出たら前に教授がいたのよ。
折角だし喋ろうと思って。学校じゃ滅多に起きないって聞いたしさ〜。
でさ、そんな生活なのに学年トップの成績ってすごいよねー。
塾も行ってないらしいじゃない?」

「・・・え?」

      〜続く〜

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