ムスカ少佐(40停止目)

 

僕が時間を止められる事に気付いたのはつい最近だった。
時間が止まった世界では僕以外の生物は全て動けない。

僕はいじめられっこで、いつものように殴られていた。
「このやろう、いつか殺してやる」
と、思いつつも、四面楚歌なので敵うはずがない。

しかし、顔面を殴られたとき、全ては止まった。
「僕が時間を止めたんだ」と気付いてから、
僕の手は真っ赤に染まった。

近くにあったパイプを手にとり、殴りつけた。
動けないこいつらは、死を待つのみだ。

30秒経過。
ここに生きて立っている人間は僕1人であり、
ここに生きて立っていた人間は僕が殺したのだ。
時間を止めて。

家に帰る途中、僕のシャツについていた返り血を見た警官が
「ちょっと待て」
と言って近づいてけれど、時間を止めて殺してやる。

殺人をしてしまった僕は気が狂い、
「僕以外の人間全部殺せば捕まらない」
という、結論に至った。

こうして、僕の連続殺人は始まった。

まず僕は時間を止める練習をする事にした。
近所の人で済まそうと思ったけど、ちょっと数が多い。
「これら」を30秒で殺すのは無理だ。不可能。
仕方なく、家に上がりこんで1人ずつ殺す事にする。
泣く暇も与えず殺す。無論、時間を止めてから。

手ごたえのないこいつらに飽きた僕は、警官を相手にしたくなった。
「捕まっても時間止めて脱走だな。
 どうせ捕まえる事すら出来ないだろうけどなぁ」
むん、最近僕は独り言が多い。本格的に発狂したのかな?

警官を呼ぶため、大きな騒動を起こす事にする。
殺した死体を、路上に投げ捨てた。
その数、3体。
「これだけあれば十分だろ」
早速どこからか悲鳴があがった。そろそろかな。

カップ麺ができる時間位待ったかな。
パトカーのサイレン音が聞こえてきた。・・・来た来た。
パトカーの数は2台。多いのか少ないのかさっぱりだ。
でも、そんなことどうでもいい。
警官は4人。これは物足りない。
まぁいいさ。せいぜい楽しませてください。

時間停止。
警官の1人の顔面に右ストレート。
さらにどっかの家からガメてきた殺虫スプレー噴射。いい気味だ。
あと15秒くらい残っているが、待ってやろう。

5,4,3,2,1,・・・
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
五月蝿い悲鳴だな。
警官はそのまま倒れこんだ。
「何が起こった!?」
時を止めたんですよ、30秒ほど。
言ったって解らないだろうから、言わない。
警官の1人が、僕の手にあるスプレーに気付く。遅いよ。
「貴様!」
警官が1人、殴りかかってきた。馬鹿だ。
顔にスプレーを噴射してやる。害虫駆除だ。
「ぐぁっ!」
しかしこいつは倒れなかった。いい根性だ。
時間停止。

今度は腹に蹴りを1発。
僕はいい筋肉など持っていないので、そう重傷でもないはずだ。
時を止めているのでどんなに蹴っても吹っ飛ばないのを思い出し、
腹を殴りつけた。何度も何度も。
気が付くと30秒経っていた。
殴られた警官は、ゆっくりと膝を地面につけた。

次の瞬間、僕の左足に激痛が走る。
!?
何が起こった!

無傷の警官の手には、黒く光る、銃が握られている。
その銃口は僕の左足に向いていた。
どうやら、殴るのに夢中になりすぎた。
時間を止める暇は、与えられなかった。
次に撃たれたのは、右手。

「ぐっ!」

流石に僕も膝を地面につけた。
まずい。本格的に危ない。
逃亡を試みるも、一人目に地にひれ伏した警官が立ち塞がった。
時間てい・・・
殴られた。しかも顔面。
眩暈がする。この馬鹿野郎。何するんだ。
手錠をされた。やめろ。
時間は、止められなかった。

何故だ。なんでこんなときに限って・・・
僕はパトカーに乗せられる。やめろ。
抵抗する僕を見て、この馬鹿はもう1発、僕を殴った。
瞼が重くなる。くそう、目が覚めたら覚えておけ。

目が覚めたら・・・・・・

僕が目を覚ましたのは、普通の部屋だった。
いや、普通じゃあないな。扉がない。窓もない。
つまり、僕は監禁されているのだろうか。

「目を覚ましたようですね。」
部屋の隅から声が聞こえてきた。スピーカーのようだ。

「ここはどこだ」
「言ったって解らないでしょう?」
「出せ」
「君は不思議な力を持っていると、我々は推測しています。
 瞬間移動及び、それに準ずる何かね。
 よって、君を出す事は危険と考えているので出しません。」
「話が長い」
「誉め言葉として、受け取っておきましょう。」

今のどこが誉め言葉だ。
話を終え、僕は部屋を見てみる。
殺風景な部屋だ。壁は白く、染みも見当たらない。
あるのはスピーカーと、エアコンと・・・何だ?

「其処に在るのは冷蔵庫です。
 貴方の約1ヶ月の食料が入っています。」
「1ヶ月したら出してくれるのか?」
「・・・チャンスを差し上げます。」

チャンス?なんの?
まぁいいさ。どうせあの馬鹿達に捕まったのは地獄自答だ。
・・・自業自得、だな。
何故か僕は傷の応急処置もされているし、
手足は縛られていない。軟禁か。
冷蔵庫から携帯食料を取り出して食べてみる。
・・・不味い。

どうやら僕はこの部屋から出られないらしい。
抜け道なんてないし、扉も窓もない。スピーカに向かって話し掛けてみる。

「僕をここにどうやって運び入れた?」
「扉から入れました。
 その扉はしっかりと溶接しておきましたよ。」
「何故僕を生かしておくんだ?」
「殺して、欲しいのですか?」
「まさか」
「ならばいいでしょう?1ヶ月、お待ちください。」

こいつの声には、寒気がするから嫌いだ。
とりあえず僕は、1ヶ月、待つことにする。
しかし、何もない部屋で何もしないのは退屈なので、
スピーカーに向かって話し掛けてみる。

「お前は誰だ?」
「名乗らないでおきましょう。覚えられても困るのでね。」
「歳は?」
「貴方より、僅かに年上、と言っておきましょう。」
「言っておく?」
「貴方は私と仲良くしたいのですか?」
「まさか」
「ならば関係ないでしょう。それよりも
「五月蝿いぞ」

本当にこいつの話は長い。
そういえば、この部屋も長い。
と、いうより”高い”。
僕が上から脱出するとでも思っているのか?
残念だが僕に飛ぶ能力などない。時間停止ならあるがね。
・・・使ってみるか。時間停止。
おお、今度は上手くいった。
なんで大事なときには成功しないんだよ。
こうして僕は、時間停止を特訓したり、使い方を考えていた。

もうすぐ1ヶ月、チャンスが来るな。
チャンスということは、外に出られるのだろうか。
外、外に出してくれ!
ここ最近、これほど外が愛しくなったことはない。
すると、上から何か落ちてきた。
上を見ると、なるほどね。引き戸がついている。
でも僕がどう足掻こうと届かないので放っておく。
上から落ちてきたのは、僕の顔が一面を飾る、新聞。
「警官、地域住民虐殺犯、今日死刑執行」
なんだって?どういうことだ!?

「チャンスですよ。
 貴方を死刑にするには貴方を外に出さなくては。」
「そういうことか」
「出なくても、餓死で死ねますけどね。」
「出せ。今直ぐだ」
「・・・明日の朝、解放します。」
馬鹿め。外に出ればこっちのものだ。
時間を止めて脱走してやろう。

今日は高鳴る心臓を抑えて、早く寝ることにした。
明日の朝が、楽しみだ。

僕が目を覚ますと、周りはまだ暗かった。
いや、夜じゃあない。何もない。
僕は袋のようなものを被せられていた。
必死に体を揺するが固定されているようだ。

「おはようございます。」
部屋の隅から、またスピーカーの音だ。
僕は必死に、状況を把握しようとした。

「───!」

声が出なかった。器具で塞がれているのか?
いや、声だけではなく、首から下の感覚がない。
そもそも声の主のチャンスとは何だったのだろう。
本当にチャンスを与えるつもりだとは考えられない。
覚えられたら困る連中の狙いとは?

今のどこかで音がした。
鉄をこすり合わせたような、風だろうか?
もしかしたら、既にあの監禁室ではないのかもしれない。
冷たくて静かで、海のそこのようだ・・・本当に周りには何もない?

段々と自分が立ってるのか座ってるかの感覚すらなくなってきた。
試しに使ってみるか。時間・・・止めた。
この状況では成功したかどうかの判別も出来ない。

「あなたはあなたですか?
 それとも他の誰かですか?」

声が聞こえた。スピーカーの音だ。
しかし、僕はそれが同一のスピーカーかどうかの判別もできない。
何か振動が連続的に伝わってくる。何を言っているんだ?
僕はもう僕じゃないようだった。

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