妄想男その23(41停止目)

Live and Let Live

■Live and Let Live / 第一話 / 妄想男

 時刻は22時。大人のドラマの時間。
「はぁ……」
 家賃2万8千の薄汚いぼろアパートの一室にため息の似合う男がいた。
 つまるところ、俺。

 さて、本日も絶好調に無気力な一日であった。
 二週間前にバイトを辞めてから完全に無職。
 あー……このまんまお布団の中でゴロゴロしながらぽっくり逝きたいなぁ。
「……」
 一応大学出てるけどこのままだと半ニートだな。……半ニートか。中途半端な俺にとても
ふさわしい言葉ですねぇ。

「……はぁ」
 おかしいなぁ。こんな人生になるはずじゃなかったんだけどねぇ。
 出てくるのはため息と屁だけ。
 もっとドラマティックに生きたいんだけどなぁ……。
「無理無理」
 自分で言ってて虚しくなる。ほろりと涙が出てきた。
 そんなときはアイツの出番さね。冷蔵庫を開ける。
「酒ー」
 飲む。飲むしかない。飲んで寝れば気分はさっぱりさ。
 いただきます。
 ごくごくごく――……・・・

 そこからの記憶があまりはっきりしない。
 部屋を出て公園に行って変な爺さんと熱いキスを交わして……えーと……意味わからん。

 まぁいい。
 そんなこんなんで現在、俺は夜道をふらふらと歩いていた。
 雲ひとつない夜空にはまん丸のお月様が妖艶に輝く。
 体がなんだかふわふわしてて非常に気分がよい。
 今なら何でも出来そう。たとえば時間を30秒止めるとかな。
「止まれ!」
 ピタッ。ほら、30秒止まったぜ。
 ふはははは、俺、無敵!

 そしていまや人類最強クリーチャーと化した俺の目の前に、無防備に歩く小柄な女の子がいたっ!
 推定年齢1○歳! どうみても○学生! 真新しい制服が初々しさをかもし出しているね! 目の
ツンとした気の強そうなところなんて俺好みだね! ロリツンデレ万歳!
 よし、犯す。
 そこの路地裏で蹂躙の限りを尽くしてやるのさ!
「止まれ」
 時間を止めた俺は獲物を狩るライオンのごとく駆け出した! 特に意味なく四足で。

 女の子の体を軽く担いで人目の付かない路地裏に連れ込む。
 時間は停止したままで、女の子はマネキンのように形を崩さない。

「あれ……え?」
 そして時間が動き始めるとその子はものすごく驚いた顔でそう言った。
 そりゃそうだろうな。普通に歩いてたはずなのに、いきなりこんなところにこんなお兄さんといるんだから。
「さーて、ぬぎぬぎしましょうねー」
「や……いやっ!」
 とたたたたー。女の子は逃げ出した!
 俺はその小さな背中を見送る……わけにはいかないんだ。

「止まれ」
 駆け出す少女の後ろから思いっきり抱きついた。
 ついでにあまり大きくない胸をもみしだいておく。
「え、あ! い、いやっ! やだってば!」
「うおっと」
 時間が動き出すと少女は健気にも抵抗する。
 ふむ、困ったな。とりあえず……。

「止まれ」
 服を剥ぎ取ることにする。
 と言ってもいちいち脱がしてられないので――ブチブチブチ!
「オペ・完了」
 文字通り剥いでみました。

 ちょうど時間が動き出したので聞いてみた。
「その格好で表通りに出る気?」
「え……う、嘘ッ!? いやぁっ!」

「け、警察に言うわよ!」
 この状況下でもめげないとは、いい根性だ。
「あ、そう」俺は声のトーンを落として言う。「死にたくなかったら大人しくしろ」
「う……」さすがに怖気づいたか。少し大人しくなる。「絶対に……絶対に許さない
からっ!」
 うん、あれだな、抵抗されると、その、萌える。

 悔しそうに歯を食いしばる女の子の表情を楽しみつつ、俺は彼女の大事なところに
手を伸ばす。
「いっ! あ、やだ……やめてよ……」
 急にしおらしい声を出す女の子。俺はむにむにした感触を存分に楽しむ。陰毛の感
触がないのですべすべして気持ちいい。
「や、やだ……入れないで……つっ!」
 人差し指を軽く挿入。お? 入るぞ。くにゅくにゅと動かす。
「や、やだっ、やめて……!」
 ぬるぬるとした粘液が指に絡まる。感じてるのか、コイツ?
 第二間接ぐらいまで入れてみる。膣内の壁面がうにゅうにゅと動いてる。温かい。
「いっ……」
 だんだんと大人しくなってきた。

 ひとまず指を抜く。
「くぅっ……」
 痛がるように体を前かがみにする女の子。
 ふと、俺の抜いた指を見ると
「……え?」
 うっすらと赤く、血に染まっていた。

 生理か、まぁいい。――いや、よくねぇ。
 血の付いた指先をみて、俺は冷静さを取り戻してきていた。

 ……何をしているんだ俺!?

「く、はぁ、はぁっ」
 苦しそうに肩で息をする少女。
「あわわわわわわ」
 コトのやばさを認識し始めた俺。
 いかん、いかんて、これは。
 俺は……俺は……!

選択肢1「逃げる」
 女の子に顔を見られていることから、バッドエンドの警察通報フラグが立つんだろうなぁ。
 女の子との接点もこれっきりになるだろうから、まぁ俺なら選ばないなぁ。(by 楔)
選択肢2「続ける」
 まぁCG回収のための選択肢だろうなぁ。
 とりあえずセーブして、これを選んでCG埋めてから正解の選択肢を選ぶかな。(by 楔)
選択肢3「お持ち帰り」
 この時点ではこれがベストだと、俺の百戦錬磨の勘が告げている。
 うーん、でも前回の選択肢ミスってる気がするんだけどなぁ……(by 楔)

 以上、三択恋愛の達人こと楔先生のコメントつきでお送りいたしました。
 と言うことで選択肢3、「お持ち帰り」で。

 小柄な体を背中に背負う。抵抗はない。相変わらず軽い。
 少女は微妙に顔を火照らせ、肩で息をしている。耳にかかる吐息がこそばゆい。
 俺は時間を止めて人目に付かないように注意しながら帰宅した。

 ――というところで目が覚めた。
 俺は便座に座っていた。

 ……おいおいおいおいおいおい、夢オチかよ!
 ぼやけていた頭がクリアになってくる。
 確か昨晩は酒を飲んで……そして俺はいつの間にやらトイレで爆睡していたと。
 は、ははは。
 そうだ、そうだよ、俺。
 所詮俺の人生なんてそんなもんさ。
 ヤマもオチも何もありゃしねぇ。
「はぁ……」
 そしてまた、ため息の似合う男に戻ってしまった。

 大抵の人生は凡庸に終わる。
「バイト求人誌でも買ってくるかなぁ……」
 そんな人生の虚しさを埋めようと、人は娯楽に走るのかもしれないなぁ。
「ぬぬくぅ……ぬぅっ!」ぽちゃぽちゃん。
 朝の儀式を済ませ、俺はトイレを出る。
 まぶしい太陽とさわやかな雀のさえずり。ああ、すがすがしい朝だな。
 さて、もう一眠りするか。
 俺は布団にもぐりこむことにした。
 したんだが。

「すぅ……すぅ……」
「…………あ……あれれー?」

 

■Live and Let Live / 第二話 / 妄想男

「……」
「すぅ……すぅ……」

 えーっと……?

 まず現状を整理しよう。
 ここは俺の部屋だ。
 時刻は七時。テレビをつけたらめざましテレビがやってるだろう。
 俺はトイレで寝ていたようで、たった今朝の儀式を終えて出てきた。
 で、もう一度布団にもぐりこもうとしたら女の子が寝ている。
 推定年齢1X歳。前面のボタンや布地が破れた制服を着ている。

 次に記憶を整理しよう。
 俺は昨晩やたら酒を飲んだ。
 気が付くと夜道にいて時間を止めていた気がする。
 で、少女を襲う夢を見た気がする。
 その少女が俺の布団で寝ていた。

 ということは……えーっと、どこからが夢なんだ?
 大体なんだ? 時間を止めるって? 馬鹿、俺?
「止まれ」
 うん、止まるわけないじゃん。時計を見る。あれ? 止まって……。

 止まってるよ!?

 瞬間、俺はゲームを始めた瞬間レベル99だった主人公のような錯覚を覚えた。
 嘘だろっ!? え、でも止まってる……あ、動いた。
 目の錯覚じゃないよな? 今確かに数十秒間は止まっていたぞ?
 えーっと、とりあえずこの時間を止める力についてはまた後で考察するとして……。
 問題はこの少女だな。

「すぅ……すぅ……」
 凡庸な表現ではあるが、天使のように眠る謎の少女。
 記憶が正しければ昨日俺が犯しかけた女の子である。
「……ん?」
 布団を見ると何箇所か血のあとがついている。
 はらりと掛け布団をめくってみた。
「……おーぅ、じーざす」
 何滴か血を垂らしたような状況になっていた。その、主に少女の股間辺りが。
 血なんて見慣れてないから少し気分が悪くなる。

 さて、俺はどうするべきだろう。
選択肢1「逃げられないように少女を拘束」
選択肢2「少女を起こして話す」
選択肢3「襲う」

楔「えーっと……これが陵辱系のゲームなら1が正解。感動系なら2だよね。3は明らかに
  ネタ選択肢でしょww CGは回収できるかもしれないけど少女は回収できませんよww」

 はい、楔先生ありがとうございました。
 さて、これは陵辱系なのか感動系なのかと問われれば……どっちだ?
 昨日の俺の行動からして感動形はありえない気がするんだけど。
 すると……1?
 いやいやいや……んな馬鹿な。
 え、どうしよう、楔先生? もう一度ヒントをお願いしますよ。

楔「セーブ汁」

 できるかっつの!

「あー、くそっ……どうしよう……」
 大体これゲームじゃないんだから選択肢に縛られる必要はないんだって。
 ならば自作選択肢4「少女がおきるまで待つ」で。
 起きた後は謝罪して……許してもらえるわけねーー!!
「はぁ……」出てくるのはため息ばかり。
「すぅ……ん……」
「げっ」
「んん……あ、あれ?」

 瞼を開ける少女。――起きちゃった。

 次の瞬間、キっと俺を睨みつけた少女は思いっきり枕をぶん投げてきた。
 予想だにしなかったその行動に俺は反応できず、顔面に直撃をもらう。
 その場にしりもちをつく俺。

「……何? また私を襲うの?」
 直立し、毅然とした態度で俺を見下す少女。
「いやあの、あの、あの」
 思考が追いつかない。もう何を言ったらいいんだか。
「帰る」
 部屋を出て行こうとする少女。
 ――それは非常に困る。
「待て、待ってくれ」
「嫌よ、警察呼んでくるから」
「待て待て待て待て」

 どうする、どうしたらいいんだ楔先生!
「能力使えよ」
 ナイスアドバイス!
「と、止まれ!」
 ありがとう、止まってくれて、ありがとう。意味なく575。
 で、どうしたもんか。
 部屋を出て行かれるのは非常に困る。

「とりあえず、すまんな」
 ガチャリコと、少女に手錠。なぜ手錠が部屋にあるのかなんて些細な問題である。
 本棚にしているメタルラックにもう片方をガチャリ。
 拘束完了。

「え、あ、あれ?」
 時間が動き始め、戸惑う少女。
「すまんがその、出て行かれるのは困る」
「な、何すんのよ! 最っ低!」ガチャガチャと手錠をはずそうとする少女。うん、おもちゃだけど
簡単には壊れないぞ、これ。「ちょっと、外しなさいよ!」

「とりあえず、話を聞いてくれ。まず謝りたいんだ」
「……え?」
 その言葉が予想外だったのか、少女は少し大人しくなった。

「すまなかった。あの時俺はどうかしていた」
「……謝る気はあるのね」
「うん」
「へぇ。でも警察は嫌なのね」
「……うん」
「最低ね」
 ああそうさ! 俺は最低な男さ! 警察にちくられるのは嫌さ!
 あー、もうなんかやりきれなくなってきた! どうすりゃいいのさ、俺!

 そんな時、少女が口を開いた。
「まだ私を襲おうとか、考えてるの?」
「いや、もうしませんので勘弁してください」
 どうみても十代の女の子にみっともなく頭を下げる俺。
「……そう」
 少し考えるそぶりをする少女。そして
「分かった、警察は許してあげるわ」
 俺にはその声が神からの許しのように思えた。
「……そうね、とりあえず」続きがまだあった。「シャワー貸して。あと、そろそろ手錠外して?」

 

■Live and Let Live / 第三話 / 妄想男

 いったん場が落ち着き、俺に思考する時間が与えられた。
 シャワーからザーと水の流れる音が響く。妙にどきどきするのはなぜだ。
「シャンプーがないわよー?」急に少女の声が響いた。
「あー、石鹸使えー」
「……信じられない」
 そんなぜいたく品、買う余裕ねぇよ。

 そもそも謎の多い少女であった。
 疑問点を挙げてみよう。
?なぜ真夜中に一人でふらついていたのか
?なぜ鞄も持たずに制服なのか
?なぜ俺の部屋からさっさと帰ろうとせず、なおかつシャワーまで浴びているのか

「うーん……」
 思考すれども、納得のいく理由が見つからない。
 聞いたら教えてくれるだろうか。

「着替えあるー?」再び声が部屋に響く。
「TシャツとGパンぐらいならー」
「それでいいから貸してー」
 タンスをあさって目的のブツを取り出す。

「洗濯機の上においておくぞ。あと女の下着はないぞ?」
「い、いいわよ。仕方ないじゃない!」
 すりガラスの向こうから声が聞こえる。
 体のシルエットがドア越しに浮かんでいる。
 ふと足元を見ると、洗濯機の前に脱ぎ捨てられた制服と下着があった。

 勃起した。

 午前八時。街が動き始めている。窓から外を見ると、車の通りが激しくなっていた。
 俺は正座しながら少女があがるのを待った。
 やがてバタンとドアが開く音が聞こえた。少女が出てきたようだ。
「ドライヤーはある?」
「ねぇよ」
「どうやって髪を乾かしてるのよ、あんた」
「扇風機」
「……冗談でしょ?」
 うるさいよ。

 やがてホカホカした少女が出てきた。乾いていない長い髪の毛がつやつやと光を反射する。
健康的な石鹸のにおいが部屋に漂う。
「ありがとね」
 俺の渡したTシャツとGパンを身につけている。やはり大きいのか、少々ぶかぶかである。
「……? なんで正座してるの?」
「自分を戒めるためだ」
「意味分からない……」

 少女は俺から少し離れて座布団の上に座る。そのとき、Tシャツにツンとしたものが二つ浮き
あがって、俺は少女が下着を着けていないことを悟った。
「……? なんでもぞもぞしてるの?」
「暴走する俺のマグマを鎮めているのだ」
「意味分からない……」

 それから、少女はテレビをぼーっと見ていた。
 俺はそんな少女をぼーっと見ながら煙草を咥えていた。

 なぜこの子は帰ろうとしないのか。

 聞きたいんだけど、微妙に話しかけないでオーラを放出している少女。
 気まずいような気だるいような、なんとも説明できない雰囲気が漂っていた。
 ただ一つ言えるのは、腹が減ってきたと言う事実のみである。

「飯、食うか?」
「あ、うん」
 はなまるマーケットの薬丸さんを見ながら少女はそう言う。
 俺はおもむろにお湯を沸かし、鯖缶を二つ取り出した。
 数分後、やかんが音をたてる。
 インスタントの味噌汁にお湯を投入。続いて白米をよそう。
 朝食完成。

「……これが、ごはん?」きょとんとした顔で少女は俺に聞く。
「ああ」
「お味噌汁と、鯖の缶詰しかないわよ?」
「あと白米があるだろう」
「……冗談でしょ? サラダぐらいないの?」
「そんなぜいたく品、ございません」
「ホントに、信じられない……」

 でも腹は減っていたようで、食べ始める少女であった。
 そういや俺、人と飯食うの何年ぶりだろう。
 しばらく、お互い無言でご飯を食べる。

「家出したの」

 食事の途中で少女が突然、そう言った。
「あー……」
 なるほど。情報のピースが頭の中でかちりとはまる。少女が夜遅くに出歩いていたこと。鞄も
持たずに制服なこと。それと、俺の部屋からなかなか帰ろうとしないこと。
 家で何があったのか少女の顔から伺おうとしたのだが、よく分からない。まぁ、親との喧嘩だ
ろうなぁ。お年頃だし。

「それで、何日かでいいから、泊めて欲しいんだけれど」
「……俺の部屋なんかより、友達の家の方がいいんじゃないか? 大体俺、男だぞ?」
「あまり友達には話せない事情なの。それに、犯されそうになったら大声出してやるから」
「そうか」俺は少し考える。そして少女に言う。「泊まりたければ泊まればいい。好きにしろ。
そのかわり、あまり健康な生活の保障はできないぞ」
「ホント? ありがとう、宿泊費は体で払うから」

 カラダデ ハラウカラ?

「は?」信じられなくて、聞き返してしまった。これ、何てエロゲ?
「あ、いや、そういう意味じゃないわよ、スケベ。お手伝いよ。家事一般とか」
「……あ、あぁ」
 思いっきり勘違いしそうになった。いや、普通はそう考えちまうだろうが。

 そしてそんな感じに、少女が俺の部屋に住むことになったんだが。
 もう一度言わせてもらうか。
 これ何てエロゲ?

■Live and Let Live / 第四話 / 妄想男

「出かけないの?」
 昼前、少女は俺に向けてそう言った。
「ん? どこに?」
「ほら、学校とか、仕事とか」
「……」
「……え? 何?」
「……そこに触れるな」
「あ、もしかして、ニートさん?」
 俺はバランスを失ったジェンガのごとく崩れ落ちた。
「しくしくしくしく」
「……泣いちゃった。元気出して、ニートさん」
「ニートさんなんて呼ぶな……とっても傷つくから」
「えーっと……」少女は少し考えてから「それじゃニーさん?」
「SOREDA!!」俺はがばっと起き上がる。「俺のことはこれから兄さんと呼べ。さぁ、もう一度」
「あ、え? うん……」少しためらって少女は言う。「ニーさん?」
「うっひょー!」
 兄さんって呼ばれてしまった。何? この全身から湧き上がるパゥワーは!? これが兄効果(ブラザー
エフェクツ)か!?

「ニートさんだからニーさんなのに……いいの?」
「あははははは」
「聞いてないし」

 ズボンを履き替えて、シャツの上にパーカーを一枚羽織る。お出かけの準備だ。
「あれ? どこかに行くの?」
 語尾に「ニートなのに?」とでも付けたそうな顔で少女は俺に聞く。大人な俺は軽くスルー。
「買い物に行くけど、おまえも行くか?」
「あれ? お金はあるの?」
「問題ない。少しは蓄えてある」
「うん。じゃあ、行く」
 とことこと少女は付いてくる。……下着つけてないのに、恥ずかしくないのか?
「……何? じろじろ見て?」
「いや、なんでもない」
「下着つけてないのに行くのか? とか思ったの?」
「ゴフンゴフン!」
「ニーさんが女性下着売り場で買い物する勇気があるなら別にいいけど?」
「……それもそうよの」
「この時間なら人もあんまりいないでしょ。早く行きましょ」

 というわけで徒歩でスーパーへ。なんか妹を連れてお買い物って感じで微妙に嬉しい。

 女性下着・食料品・歯ブラシ・シャンプーとリンス・洗顔料・化粧水・タオルなど、
主に少女用の生活必需品を買い込む。
「これと、これも」
「……あ、ああ」
 ロリエ昼用と夜用。……ああ、女の子だもんな。
「何よ?」
「いや、なんでもない」
 視線をそらす。
 そらした先にコンドームが置いてあったので、気づかれないように一つかごに入れた。

「ありがとうございましたー」
 店員さんの声がすがすがしい。
 諭吉さんが一人飛んでいった。
「はぁ……」
 買い物袋を下げてスーパーを後にする。
「悪いわね。結構高かったでしょ。お金はまだ大丈夫なの?」
「あー、そうだな……って、あっ」
 そうだった。

 ――俺、そういえば時間止められるんだった。

 え、ちょっと待てよ?
 時間止める力を持ちながら普通に買い物した俺って?
 もし時初の偉業なんじゃないのか?
「……何してるんだろうな、俺」
「え? なんのこと?」
「いや、気にするな」意味ないのは分かってるけど一応言ってみる。「止まれ」

 ピタッ。気持ちいいぐらいに全てがかちりと止まる。
「……はぁ」
 馬鹿だな俺。最高に馬鹿だ。
 とりあえず少女の小さな胸を揉んでおいた。
 うん、帰ったらブラつけような。もにゅもにゅこりこり。

 やがて時間が動き出す。停止するのは大体30秒ぐらいかな。
「ニーさん? どうしたの、落ち込んだ顔して?」
「いや、なんでもない」
「帰ったらお昼ご飯作ってあげるから、元気出しなよ」
 何も知らない少女は健気にも俺を励ますのであった。

 ドアノブに鍵を差し入れて捻る。
 パタンと安っぽい音がして俺の部屋の鍵が開いた。
「ただいまー」「ただいま」「おかえりなっさい」
 俺と少女はぼろ部屋にただいまを告げて靴を脱ぐ。
「飯はどうする?」「私が作ってあげるわよ」「それじゃワシの分も頼む」
 キッチンに向かう少女。
 俺と爺さんはちゃぶ台の前に座布団を敷いてくつろぐ。
「何を作るんだ?」「チャーハンでいい?」「異議なーし!」
 まな板と包丁を取り出して、買ってきたばかりの野菜を刻み始めた少女。

「ふむぅ、しっかりしておる。あの美少女、将来が楽しみじゃの」
「そうだな。胸以外は」
「なになにまだあの歳じゃ。これからこれから。かく言うワシは貧乳属性じゃが」
「ああ、それも悪くないとは思うぜ。俺は大きさよりも形を重視するからな」
「ほほぅ、青年。貴様、死線を越えておるな。ワシには分かる」
「ふ……爺さん、俺を誰だと思ってるんだ? かつて北の(おっぱい)ソムリエと呼ばれた……」
「半ニート君じゃったっけ?」
「げふっ」
 目から汁を出しながら、俺は爺さんの辛辣な言葉に沈んだ。

「……ニーさん? 誰? そのお爺さん?」
 お盆を持った少女が怪訝な目で俺と爺さんを見ている。
「ん? 爺さん? 誰のこと……うぉっ!? 誰だアンタ!?」
「ふ、ふふふ。ワシか? わしの正体はだな……!

■Live and Let Live / 第五話 / 妄想男

「ふむ、美味い。しかしチャーハンの割にはもちもちしてるな」
「家庭のガスコンロの火力だとパラパラしたのは無理よ。これは蒸して作った炊き込みチャーハン」
「ふむぅ、なんかあっさりしてて、ダシが利いておるの。年寄りのワシでもするする食えるわ」
「炊き込みご飯から作ったの。ダシは昆布よ」
「90点。合格」
「うむ、文句なし」
「チャーハンに文句はないが、ジジイ、なぜ俺のチャーハンを食っている?」
「ワシの分がないからの」
「知るかっ! 自分の乳首でも吸ってろ!」
「ちゅーちゅー」
「キモッ! 本当に吸うな!」
「まったく、年寄りはいたわらんかい……はぐはぐ」
「だから食うなと」
「ごっそさーん」
「うわっ! 全部食いやがった」

「それで、お爺さんはどこの人?」
「いきなり話を元に戻すな!」
「うむ、ワシはだな」
「話を聞け。そしてチャーハンを返せ」
「ちょっと酸っぱいけどいい?」
「ダメだっ!!」
「まったく……ほいほい、これでええかの?」
「ああ、これでいい……って、え?」

 爺さんが指先をフワフワさせると、俺の皿にチャーハンが元の姿で返ってきた。

「ワシはな、時の神様じゃ」
「ああ、昔のもし時のSSなんかでしょっちゅう現れる都合のいいジジイキャラか」
「身も蓋もない言い方をすればまぁそうじゃの。森羅万象全ての時間を管理しているのはワシじゃ」
「ああ、そうか」
 俺は爺さんを引きずって玄関に立つ。
「じゃあな」
 リリース。
 ばたん。ガチャリ。
「まったく、老人ホームもしっかり看護してくれないと困るんだよねぇ……放浪癖と虚言癖持ちの
ジジイときたら、まったく、手に負えないぜ」

「で、ワシはそこの青年に力を少し分けてしまったんじゃよ」
「うおっ!? いつの間に!?」
「ふぉっふぉっふぉ、青年。まぁ落ち着けい。茶飲むか?」
「それは俺の爽健美茶だっ!」
「青年に与えたのは30秒時間を止める力じゃが……ワシがなぜ青年に力を与えたか分かるか? お嬢ちゃん?」
「いえ、まったく。知りたくもありませんけど」
「ふふん、まぁ聞けい。青年はそのとき酒に酔っていてな。公園のベンチで寝ていたワシを女性と勘違いして
抱きついてきてだな」徐々に、昨夜の酒に酔っていたときの記憶が戻ってきた。「“なぁ、ええやろ? ええ
やろ?”とそれはもう激しくワシを求めてきて」突如猛烈な吐き気が俺を襲う。「ワシは“ダメよ! わたし
は女である前に男なの! ああ! そんなぁー! 妊娠しちゃうー!”と抵抗したが」あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!
「ご飯食べているのでその先はやめていただけませんか?」
 とエグい描写が始まる前に少女が一喝。
「ふむ、失礼した。まぁそれでワシがコレをあげるから許してってことで時間を止める力を与えたわけじゃ。
まー、唇は奪われてしもうたがの」
「うおえぇぇぇーーー!! 殺してくれ!! 誰か俺を殺してくれえええ!!」

「と言うことでお嬢ちゃん、ワシら仲間じゃな」
「どうして?」
「ほら、犯されかけたもの同士ということで」
「……気持ち悪い」

 あまり掘り起こしたくない記憶がよみがえってきたばかりに、俺はPTSDを発症しそうになっていた。
「ふむ、そのあと青年はふらりと去っていったが……なるほどの。少女を誘拐しておったか」
「違う、断じて違う」
「あら、似たようなものじゃない?」
「多分……違う……」
「ワシは身の危険を感じたとは言え、人間には相応しくない力を与えてしまったからの。青年、貴様が
悪いことをしないように監視するために来たわけじゃ」
「あれ? でもニーさんはすでに私を誘拐してますよ?」
「あぁ、世界に影響を及ぼすこと以外なら別に何してもかまわんよ。誘拐・盗み・強姦・殺人なんかも
所詮は世界の隅で起きた些事に過ぎんからのぅ」
「流石は神様、スケールが違いますね」
「ほほ、嬢ちゃん。目上を持ち上げるその気配り、なかなか感心するのう。どうじゃ、ワシのところで
働かんか?」
「ええ、お断りします」
「そうかい、そうかい、ますます気に入ったわい」
 おほほほほと少女とジジイはお気楽に談笑するのだった。

 むしゃくしゃした俺はバールのようなものでジジイの頭を強く打って死亡させようと思った。
「止まれ」
 時間を止める。バールのようなものを手にした俺は間髪いれずジジイに殴りかかった。
 共に消え去れ、ジジイと忌まわしき記憶たちよ。
「いや、わしは動けるからの」
「うぉっ!?」
 時間が止まった世界でもジジイはしっかりと動くのだった。
「なんなら、時間の止まった世界の時間をさらにとめてやろうかの? ふむぅん?」
 俺は絶望し、バールのようなものを手から落とす。カコーンと空しい金属音が時間の止まった
世界に木霊した。
 ……コイツ、本当に時間の神様だったのか。

 突如、黙って聞きに回っていた少女が口を開いた。

「いままでの話を聞いていると、ニーさんは時間を止める事が出来る変態ってことになるけど?」
「待て! 確かに今日も時間を止めてお前の胸尻腹などを数回揉んでいるが変態ではない!」
「……変態っ!」
「あ、嘘だ嘘。今のノーカン、ノーカンで頼む」
「わかったわ……私が襲われたあの時も急に腕が絡みついてきたりしたから……そう、そういうこと
だったのね! 死んじゃえ! このスケベ! 警察に行って来る!」
「いやいやいやいやいやいやいや――止まれ」

 ……がちゃん。
「青年、卑怯じゃの」
「うるさいですよ」
 そして時は動き出す。

「あ……ま、また手錠!? 卑怯よ! ちょっと! 外してよ!」
「すいません、ほんと、もう揉みませんから、機嫌直してください」

「若いってええのー。ずるずるずる」
「こらジジイ! 人の茶を啜ってないでなんとかしてくれっつの!」
「大体何よ時間を止めるって! 馬鹿じゃないの! 本当に馬鹿っ!」

 

■Live and Let Live / 第六話 / 妄想男

 拘束した少女との和解交渉は数時間にもおよび、現在も尚進行中である。
「いや、本当に悪いと思っている。了解も得ずに勝手になんておこがましいにも程があると
自覚している。大体俺は……(以下、聞くに堪えない見苦しい言い訳)」
「……」
 途中から飽きてきたのか、少女は押し黙っていた。

 そしてまた数分後。
「……そして君の胸が小さいなんていって悪かった。でも俺は形を最重視するソムリエだから
そこはなんとか許して欲しい。そもそも……」
「……ねぇ」
「え?」押し黙っていた少女が急に言葉を発したものだから少し驚いた。
「これ、解いてくれない?」メタルラックに繋がれた手錠をジャラっと持ち上げる。
「いや、お前が納得してくれるまで放さない。真剣なんだ、俺は」
「あのね……そうじゃなくって……」
 もじもじする少女。なんだ、何が言いたいんだ? ん? もじもじ?

「……止まれ」小声で言ってみる。
 時間の停止を確認。特に異常もなし。ジジイは俺のベッドで安らかに寝ている。いや、死んでるんじゃないぞ。
 おもむろに少女のおなかを触ってみた。……んむ、少し張っているな。

             ――おしっこか!

「ほほぅ……ふむふむ、なるほど」ならば俺は気を利かせて手錠を優しく解いてやるか。
 そのときグラっと、「お、うおっと!」床に放置していたダンベルに足が引っかかってしまい、俺は
バランスを崩した。

「あ、やべ」
 バランスを崩した先は何故か運悪く少女の方向に……!
 俺の体のモーメントが少女を目指して傾く……!
 そして非情にも……時間は動き始める……!
「お、ちょ、まて、まてってああああ!!!」
 がしゃーん!

「ひぁぁあ!?」
「いだだ! だ、大丈夫か……お?」
 思いきり少女の腹部めがけて頭突きを食らわせる格好になってしまった。
 結果的に体勢は少女の腹部に俺の頭がある状態。
 そして……。
 ――ちょろちょろ――ちょろちょろ――。
 腹部に微妙なぬくもりを感じた。
「いや、いゃぁ……」「うおおお!?」「ん?」

「ひ、ひぐ……ひっぐ……」
「あ、あの、あのさ……」
「ひ……っく……うっ……」
「ほら、俺気にしないから……」
「やだ……もうやだ……」
「……すまん」
「死ね……死んじゃえ……ひっ、ひ……」
 嗚咽を漏らす少女。罪悪感にやられながら俺は手錠を外す。
「悪い……とりあえず、シャワー浴びて……」
「うっ、くっ……」
 泣きながらバスルームに向かう少女。
 あー、なんていうか……いじめちゃったよ、俺。

「今度は精神的にレイプか。やるのぅ青年」
「……貴様も犯してやろうか」
「掘って! あたいをめちゃくちゃにしてー!」
 俺に尻を向けて挑発してくるジジイ。
「せっ!」
「あふんっ!」
 うるさいので首をひねっておいた。
 なんてこの場に相応しくないジジイだ。作者も邪魔くさがってるじゃないか。

 とりあえず、汚れてしまった服を洗濯機にぶち込む。
 やがて少女がシャワーからあがると、俺はまともに彼女の顔を見られなかったのでバスルー
ムに逃げ込んだ。
 お湯を浴びながら少女になんて謝罪しようか考える。
「……うーん」
 どうしよう。なんて謝ればいいんだ?
 ざーっとノズルから流れる水の音がやけにうるさく感じた。

 バスタオルで体を拭く。使う前からちょっと湿っているのは、一枚しかないので少女と兼用
だからである。
「……うぅーん」
 謝罪の言葉が喉の奥で詰まっているようで上手く出てこない。ごめんって言えばそれですむん
だよな。くそっ、なんつか、面と向かって言うのは恥ずかしい。
 ええい、迷うな俺。

 バスルームを出る。
 勢いに任せて、少女の顔も見ずに言う。
「あー、その……悪かった、ごめん」
「ああ、別にええぞ」
「ジジイには言ってない!」
「いや、出て行ったぞ、あの美少女」
「……………………へ?」
「ほい、手紙」
「え?」
 ジジイから手紙を奪い取る。

『バカ! 夜ご飯までに帰るから謝る言葉でも考えてなさい!』

 少女が部屋を出て行ったわけじゃないことと、今謝らなくていいことにほっとする汚い自分がいた。

 / 続く

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