喪君その2(6~22停止目)

「12メサイア」

Chapter,1

時雨 奈緒、14歳。身長147.5cm、体重44kg。
しなやかに流れる髪は多少の茶色を含む。染めた訳ではない。
胸は同年代と比べ、発達が遅れていると見ていいだろう。カップはB。
視力極めて低し。赤い縁のメガネがあどけない童顔に魅力を加えている。
好きな色はスカーレット。好きなアーティストはハイカラとかいうバンド。
以前テレビで見た時、ギタリストのストラップ(肩からギターを下げる紐)が
短く、「グループサウンズですか?」と思っていたところ、いきなりソロで
スゥイープ(谷亮子の顔面並難易度)を用いた速弾きを披露し、度肝を抜かれた。
世間の音楽に全く疎い俺だけど、ハイカラが好きなキミは最高に可愛い。
服はロリを基調としたロリロリなファッション。ブランドを知らない俺には
細かな事は判別しかねる。しかしロリで可愛くてロリなキミには最高に
似合っている。キミは最高に可愛い。
ふわふわという言葉がしっくりくるキミは俺にとって唯一心安らぐ存在だ。
如何なる女優もアイドルも奈緒の前ではゴミクズ同然、カス同然。
キミは最高に可愛い。
年齢相応の下着のセレクトが可愛い。一流は一流を知る。ロリはロリコンの
好みを知る。小さな頃からキミを近くで見守ってきたが、俺は何度キミの
下着姿というエデンに魂を飛ばし、流星の如く絶頂に至ってきた事か。
キミは最高に可愛い。


簡単にまとめたが、以上が時雨 奈緒という女の子である。
小さい頃からずっと意識していた。絶対にこの子を俺のお嫁さんにする、
バージンロードの向こうで待つ!と決めていた。
俺は時雨 キリト。奈緒の兄である。

本当に同じ子宮で育まれた生物ですか?と問いたくなる程に奈緒は可愛い。
天使や女神がよく教会などに描かれているが、奈緒に比べたらブル中野である。
比較にならない。俺など歩いているだけで補導されるこの凶悪なツラのせいで
人が寄り付かないというのに。少しでもこの凶悪さを緩和しようと髪型は七三、学校でも
いい子ちゃんで過ごしているが、全く状況が好転しないのが現状だ。
陰で囁かれるサラリーマンというあだ名が胸に突き刺さる。
だがまぁいい。こうやった奈緒の最も身近な存在でいられるのならば。
が!可愛くて性格が良くて可愛いが故にファッキン!な無知的生命体共が奈緒に纏わりついて
きやがるのです。
どうするかって?ええ、殺しますよ?奈緒に近付く生物はゴミです。漢字で塵です。
いかにもいらない感じしませんか?
それ程腕力があるって訳でもないですが、必ず殴殺します。
何故そんな事が出来るかって?それは俺には不思議な力があるからです。
物心ついた頃からこの能力はあった。この両手で一定の意志を持って殴ったもの
(触ったもの)はその場に固定される。
いや、固定という表現は不足かもしれない。固定した物体を殴れば、その衝撃は
数秒後にその物体に伝わるのだ。
物体が破壊されるか否かは俺の意志次第。
破壊したいという意志の下に殴れば破壊しつつ固定も可能だ。
まぁ俺の腕力で破壊出来るものに限るが。
人間を殴ればその人間はその場にピクリともせず止まる。後はその数秒間に殴りまくる。
これでおk。
数秒後にその人間は固定されていた時間内の衝撃を一度に受けてKO、という訳だ。
同じ高校生クラスならまず耐えられない。
言い寄る生物がジャニ系優男だったりしたらもう、それはそれはエライ事しますから。
殴るとかじゃ済まないっすから、先輩。
それはさておき、この能力は固定というよりも「数秒間時を止められる」と言った方が
適切かもしれない。
小さい頃は一秒にも満たなかったこの力だが、今は最大10秒近く止められる。
これで奈緒を守ってきたのだ。本人は知らないだろうが。
まぁ知らない方が幸せという事も多々あるものだ。そして今日も俺は奈緒を守るため、
数個の盗聴器を奈緒の衣服や持ち物に忍ばせるのであった。
守るためですよ、念のため。奈緒の部屋に隠しカメラも設置している俺ですが、
それも守るためですよ、念のため。

朝、奈緒は相当早く目を覚ます。家を出るまで相当時間はある筈だが、親の朝食の
手伝いをするためだ。健気だね、奈緒。だが俺はもっと早く目を覚ます。
奈緒の寝顔を隠しカメラ越しに観察するためだ。おはよう、奈緒♪
「あ、お兄ちゃんおはよう!」
キッチンで味噌汁を作る奈緒。世界でお兄ちゃんと呼ばれるのは俺だけである。
世界で唯一の存在である。朝から幸せ全開です。
「ちょっと焦げちゃった・・・ゴメンね?」
そう言ってやや焦げ目のついた目玉焼きを皿に乗せ、テーブルに置く。喩えこれが
発がん性物質の塊だったとしても俺は意に介さないだろう。おとんとおかんも奈緒の
作った朝飯に舌鼓を打ちながら、ほのぼのとした空気を同時に味わっている。
いつもの光景、いつもの朝だ。

「じゃあ行ってきます!」
「行ってくらぁ・・・。」
家に残るおかんに別れを告げ、俺と奈緒は学校へと向かう。当然奈緒は中学、俺は
高校のため行き着く先は違う。しかし途中までのコースは一緒のため、そこまではデートである。
デートである。デートである。
「・・・最近なんか変なんだよ〜。」
奈緒の突然の告白に俺は問う。
「何が?変?」
「最近ね、何か見られてる気がするぅ〜。」
「ガハッ!」
「?」
さすが思春期、まさか奈緒にそんな獣のような勘が備わろうとは・・・。隠しカメラの存在に
気付いたとでもいうのか?いや、バレるとは思えない。細心の注意を払って仕掛けたカメラだ。
だが少し数を減らした方がいいかな・・・今20個くらい奈緒の部屋につけてるし。
そんな俺の心配を他所に奈緒は曲がり角で待つ友達を発見する。
「あ、じゃあお兄ちゃん、またお家でね!」
「ん、あ、あぁ・・・。」
トテトテと友達へ駆け寄る奈緒。これで朝のデートは終了。もう帰って寝てもいいくらい、
今日の俺の仕事は終わった。仕方なく学校への道を俺は歩く。
脱力感に見舞われる俺は他の一切に注意がいかなかった。背後から俺を見つめる陰が
あった事にすら、気付かない程に。
「あの人がメサイヤ?」
「恐らく・・・ね。」
もういつもの光景を、あの朝をいつものように迎える事は出来ない、俺にはそれに気付く
能力など備わっていなかった。

学校に着いたところで楽しい事なんざ一つもありゃしません。
エンジェル伝説のようなこの凶悪なツラのせいで女子生徒はおろか、男共も恐れを生しやがる。
いいモン、奈緒に付けた盗聴器に耳を傾けるからいいモン。
と、そこへ担任登場。俺に負けない凶悪なツラの担任・桐生はその眼光一つで生徒達を着席させる。
プライド出れんじゃね?というくらい体格に恵まれた教師という名の893は咳払いをすると、
いきなりこう切り出した。
「最近よぉ、この近隣で暴行事件が続いてんだよ・・・それも単なる喧嘩じゃ出来ねーよーな怪我してる・・・
こん中にゃあいねーよな?そんなチンピラみてぇな事する奴はぁ!」
チンピラはオメーだ、という言葉も出せない程桐生のボルテージは高い。朝なのに。
余談だがこの桐生のモデルは作者の高校時代の教師である。血祭りにあげるぞ、と教師に言われたのは
後にも先にもこの教師のみ。
鈴木先生、お元気ですか?
話を戻そう。とりあえず最近不可解な暴行事件が多い事は俺も噂に聞いていた。
いきなり喧嘩をふっかけられ、そりゃあもう酷い事されるという。
しかもその犯人が俺達と同年代らしいというからタチが悪い。
桐生がプリプリするのも致し方ないというものか。
言っておくが俺じゃありません。俺が制裁を加えるのは奈緒に近付くキチGUYのみ。
それ以外では全く暴力はおろか、能力も使わない。俺はこの時を止める能力が奈緒を守るために天が
与え給うた力なのだと認識している。故にそれ以外では使わない。
全て、全部、奈緒のために使う。だから俺はイイ子ちゃんですよ。ホントですよ?
893様による朝の説法も終わり、授業が始まろうとしている。
あぁ、今日も穏やかな一日だなぁ〜・・・。

アンッ!という間に放課後到来。
つまらん、非常につまらん学校が今日も終わりを告げました。
部活はやってないっす。すぐお家に帰って今日の奈緒にまつわる会話、
発言、諸々の雑音を編集しなければならぬ。録音してあるから。
この際、もし男子生徒による不穏な発言を盗聴器がキャッチしていたならば俺の拳の出番である。
その者の時を数秒間奪い、正にこの世の生き地獄を味わわせるだろう。
ゴルゴ13を彷彿とさせる笑みを浮かべながら、俺は家路を急いだ。
しかし、今日はいつもと違っていた。工場地帯の脇を通って帰る俺の前に、一人のセーラー服の女が現れた。
ウチの学校のものとは明らかに違う制服だ。
「・・・・・?」
壁に寄りかかり、腕を組んだまま俺を凝視する彼女。は?なんすか?そんなにこのツラが
珍しいっすか?失礼しちゃうわね、プリプリ。
多少苛立ちながら俺は無言のまま彼女の横を通り過ぎる。日はもう暮れ始め、傾く陽光は朱色を帯びていた。
チラリと見たその子の横顔は、夕日に染まって輪郭を朧気に映し出す。
綺麗な子だな、と思った矢先、そのセーラー服の子は口を開いた。
「・・・ちょっといいかしら?」
「いやん。」
「ちょっ・・・!?」
俺には判る。あれは美人局である。きっと裏の工場内に織田みたいな奴らがワンサカ居て、
俺から金を毟り取り、個人情報を奪うのである。もしくは喪吉氏の親子みたいに壷関係。
どちらにせよ、虎を自ら招き入れる事など愚の骨頂だ。
完全に安全と判明しない限り、喩え金髪美女が股広げていようが近付く事はしない。
しかし足早に去ろうとする俺に女は焦りを感じたのか、あらぬ手を講じてきた。

ススッ
「ガハッ!」
何と女は自らスカートをたくし上げ、パンツで俺を釣ってきやがった!アォッ!
「聞きたい事があるだけ・・・ちょっとでいいから時間をちょうだい?」
セーラー女の予想を超えた行動に、突如開かれる俺会議。だがやはり男の性か、否決派は
非常に少数であった。ほぼ全会一致で「釣られてしまうんだ!」と俺の中の俺が叫ぶ。
極めて冷静な表情の女に一抹の不安を覚えつつも、砂漠でオアシスを発見したかのような
渇望に全身を支配される。
釣られたい、億が一、あの女が痴女である可能性もあるじゃないか、行ってしまえ、イってしまえ!
三次元の女が俺のような喪に声かけてくれるなんてこの先二千年無いぞ!
やはり一度勢いのついた感情の奔流に逆らう事は至難だった。てか無理だった。
だってパンツっすよ!?俺からしたら天皇より遥かに偉い。どちらに手を振るかと言えば
俺はパンツに手を振る。判ってもらえるだろうか、この心情。
「・・・いいでしょう・・・時間というより俺をあげましょう、お姉タン。」
「ありがとう。」
ようやく彼女の貌が綻んだ。そして俺を工場の中へと俺を誘う。
工場ファックか、童貞の俺にはちと走り過ぎな場所ですね。
まずは体育倉庫とかにしませんか?と声をかけようとした時だった。
工場の中ほどに辿り着いた時、彼女はクルリと踵を返し、こちらに近付いてくる。
おもむろに俺の眼前に立つセーラー女。
か、可愛い・・・。アップにも耐えうる彼女の可愛さに改めて感嘆する。
切り揃えられた髪の長さは首元まで。身長は奈緒よりもやや高いくらいで、175cmの俺より
結構低いのだが、醸し出す雰囲気のせいか不思議と年上感がある。包容力をその身から感じさせる、というか。
念のため、先程見た彼女のパンツについての報告をしよう。色は白、所々にレースがあしらわれ、
中央にはリボンがついた清楚なものだった。材質は光沢から見てシルクの可能性が極めて高い。報告終了。
スッ
「おぅわっ!?」
突然手をかざす彼女に身を震わせる俺。そして優しく俺の胸に間隔を開けて二回タッチする。
いや、乳首はそこじゃないっすよ、こっちです、ココとココです☆
しかし、軽く胸にタッチした彼女は再び距離を取り始めた。何故?これがかの有名な放置プレイ?
最初はこんな始まり方なのか・・・。
「今からアナタに質問をするわ・・・答えてね。」
「あ、自分まだぁ・・・童貞っす!エヘ♪」
「そんな事を聞きたいんじゃないの・・・いい?ちゃんと答えない時は・・・。」
そう言って女は傍に転がっていたドラム缶に触れた。俺にしたのと同様に二点。
するとどうだ、彼女がタッチした部分がボヤァッと丸く光りを発し始めたではないか。
おぉ・・・と声を漏らす俺。何か凄い超魔術が始まりそうですよ。ワクテカ

「ヒステリカルリンク。」

ドゴォォッ
「のわっ!?」
情けない事に俺はドラム缶を襲った現象に驚き、尻餅をついた。光る二つの点の間に彼女が手を置いた瞬間、点は線となり、
轟音を伴う爆発をドラム缶に引き起こしたのだ。
それ程大きな爆発という訳ではない。しかしその音はこの工場という空間の中でやけに大きく反響を繰り返し、
俺の耳をつんざいた。
何なんだ・・・一体・・・。
「判る?コレと似たような事がアナタにも出来る筈・・・そうでしょ?答えて。」
今尚燻り続ける残骸とは対照的に、女の声は冷たさを含んで俺に届いた。
普段は揺れぬ精神を心掛けている俺だが、ぶっちゃけ揺れまくり。乱れまくり。
こんなテロリスト敵能力なんざ持ち合わせちゃいない。やっぱりこれは美人局なのか。
出来る筈も無い事を強要し、出来ないとなれば金を毟り取るつもりなのか。昨日見たAVの
タイトルとか、個人情報を奪い取るつもりなのか。
「答えなさい、さもないとアナタの胸も同じ運命を辿るわよ?」
言われてハッとした。胸に目をやれば先程と同じように、触れられた箇所がぼんやりと光りを放ち、丸を形作っている。
マジっすか!?こんな事ってあるんすか!?理不尽なり!あまりに理不尽なり!
ここで俺はこのテロ女に爆砕されてしまうんですかっ!?
どうやら女の表情を見る限り、マジらしい。俺に対する情など寸毫も見当たらない。
鼓動が恐ろしい速さでビートを刻み始める。あの平穏な日常は何処へいった?
もう奈緒を見れなくなるのか・・・もう奈緒に触れなくなるのか・・・
もうあの声を聞く事も出来なくなるのか・・・。ああぁぁぁぁおあおあぁぁあっ!!

「答えないのならばアナタの妹さんにも質問するわよ?」

ビクッと体が震えた。今この女何て言った?妹?
「何・・・?もう一回言ってくれる・・・?」
「妹さんにも同じように質問する覚悟がこちらにはあるという事よ。」
あぁ、ブチッときたわ。
俺の中でスイッチが入ったのが判る。何人たりとも奈緒に危害を加える者は容赦しない、
いつものあの感情が沸き起こってくる。奈緒を守るためには、どのような問題も問題足り得ない。
この女、殺す。
「テメェ・・・単なる犯され方じゃ済まないと思えぃっ!!」
覚悟完了。

Chapter,1 END

Chapter,2

「アナタも能力者じゃないみたいね・・・皆同じ事ばかり・・・犯す犯すって。」
「お前なぁ・・・俺の犯すはただの犯すとはワケが違うぞ・・・?」
怒り心頭の俺はもう自分が何言っているのか理解出来ていなかった。
そして忘れていた。セーラー女の手が爆発を起こす事が可能だという事実を。
妖しく揺れる彼女の右腕。ここでようやく俺は我に返った。
「成る程ね・・・お前がここいらで起きてた暴行事件のホシって事か。」
「・・・そうなるかしら・・・。」
またも冷たく言い放つ女。今も黒煙を上げ続けるドラム缶に目を遣り、
俺から視線を外す。
チャンスか?一足飛びで女に接近し、拳を叩き込んで時間を止めれば・・・。
しかし女を殴った事など経験が無い。いくら奈緒を守るためでも、女の顔面は
殴れる気がしない。腹か?いや腹は赤ちゃんを育むからどーのこーの・・・。
思案する俺に再び彼女の視線が戻る。
「大体今までの男はこのタイミングで飛びかかってくる・・・私が視線を
外した瞬間にね・・・でも私の指先は彼らが私の体に覆い被さる前に的を
射抜ける・・・それで皆、病院送りよ。」
どうやら僕の案は全然通用しないみたいです。どうしようかね、こりゃあ。
唯一、この時点で俺が有利なのは俺の能力がバレてないって事くらいだろう。
体格差は勿論ある。だがそんなものはあのヒステリカルリンクとかいう能力の
前では大した差にならない。何せ小規模とはいえ、爆発である。
エロテロリストならまだ対処のしようもあるが、テロリストは不可。中国語でプカ。
仕方が無い。こういう時の対処方法はジョースター家に伝わるコレしかない。
ダッ
「えっ?」
唖然とする女。そりゃそうだ。俺は女に背中を見せて逃げ出したのだ。
奈緒にもその歯牙を向けようというこのセーラー女をこのままにしておく訳では
ないが、一旦体勢を整える方が先決だろう。
幸いにも此処は工場地帯、身を隠す場所は山程ある。問題は逃げ切れるか、だ。
案の定、女は追いかけてきた。それもスゲェスピード。速っ!
「逃げられると思っているのっ?それより質問に答えなさいっ。」
「質問に答えて欲しかったこのマーク消せや!」
「要求は却下するわ。」
「どんだけSなんだ、エロテロリストッ!」
もう突っ込んでいる場合ではない。女は俺のすぐ背後まで来ているのだ。
どうやって撒こうか・・・。

そんな俺の視界に、建物の端にあるドアが飛び込んできた。
至って普通のドアである。逃げ道はあそこしかない。
いや、入ってきた時の運搬用に開かれた出入り口もある。
フォークリフトや大型の貨物を出し入れするために巨大なシャッターが
備え付けられたでっかい搬入口。
シャッターが上がっていたため、俺達はそこから中に入ったのだ。
だがあの搬入口では女を撒く事は出来ないだろう。今は普通のドアがいい。
バンッ
勢い良く俺はドアを蹴破り、女が追いつく前に閉める事に成功した。ヤタ!
すぐさま女がドアノブに手をかけたようだ。感触が微妙に伝わってくる。
だが時すでに遅し、だよ♪
「ッ!?」
女は愕然とした。
古く、薄い木製のドア、それが押しても引いてもビクともしない事に。
まるで鋼鉄製で数tの重量を有しているかのように錯覚しているだろう。
しばらくドアと問答し、いよいよと思ったのか、女が激しいキックを
ブチ込み始めた時、ドアはギィッという音と共に事も無げに開いた。
僅かな風にさえその身を揺らすドアを見て、女は呆気に取られる。
あれ程ビクともしなかったドアが、あれ程重かったドアが何故?
そう思っている筈だ。
女はすぐさまそのドアの向こう側、外へ身を乗り出し、俺の姿を確認する。
だがもう俺の姿は捉えられない。何とか身を隠す事に成功した。
とは言ってもそう遠くに逃げおおせた訳ではない。
とりあえず隠れた、という程度だ。まぁ十分か。
ここで何故ドアが開かなかったのか?について述べておこう。
別に鍵が閉まった訳でも建てつけが悪かった訳でもない。

あのドアを閉めた瞬間、ドアの時間を止めた。
俺の意志による許可が無ければ、時の流れが止まったその物体を今在る座標から
移動させる事は出来ない。故にドアは閉まったまま固定されたのだ。
止まった時に干渉する事は不可能だ。

フゥ、と溜め息をついて俺は隠れた小屋の壁にもたれかかった。

恐らく業者が来た時のために管理人が駐在するための小屋なのだろう。
しかし不思議だ。平日のこの時間だというのに誰もいない。
チキショォ・・・誰かいれば通報してもらってあのエロテロリストをタイーホして
もらえるのに・・・。
いや、今はそんな事よりこの状況を打破しなければ。
奴の能力について考察するか。
ヒステリカルリンク、自分の起爆能力の事をあの女はそう呼んでいた。
能力に名前つけるなんてカコイイな。
どうやら奴はマーキングした二つの点、その間に触れる事によって爆発を
起こせるらしい。
丁度互い違いになった導線に手で橋渡しをし、通電させる感じか。
手で触れさえすればいいのだから厄介と言えば厄介だ。
俺と同じく近距離でしか使えない能力だが、エロテロリストの方が速い。
こちらが拳をブチ込むより先に奴の方が懐に潜り込むだろう。
だが俺と同様、触れなければ能力は完成しない、とも考えられる。
ならばずっとこの点と点の間を手でカバーしていたらどうだろうか?
そうすれば通電する事は無く、爆発も防げるか?
問題は奴が同時に幾つマーキング出来るのか、だ。今は胸だけだからいい。
だが足や背中にまでマーキングされたらカバーのしようが無いぞ・・・。
俺の胸とドラム缶、同時に二箇所マーキングしていた事は確かである。
複数のマーキングも可能と考えざるを得ない。

ハッと思い、俺は服をめくり上げて見た。もしかしたらマーキングされたのは服
だけかもしれない。服を脱げば能力の範疇から外れるかもしれない。
淡い期待を抱いて俺は胸を確認する。
だが悲しいかな、俺の肉体自体にまでマーキングは透過していた。服くらいの厚みは
透過してその下にまで影響を及ぼすらしい。アォッ!
こいつぁヤベェ・・・。どうするか、どうするか・・・。

「出てきなさいっ!」
突然響き渡る怒声。エロテロリストはまだ俺の位置を把握していないようだ。
小窓からチラリと覗くとキョロキョロと辺りを見回す女の姿が見える。
この小屋にまで捜索の手が及ぶのは時間の問題だな。マジどうしよう。
いや、俺は俺の「時を止める」という能力を信じるしかない。時を止めた物体は
俺のみに全ての権利が与えられる。エロテロリストの能力をも覆せる筈だ。
奈緒を守るんだ・・・!
その時、俺の足元に無造作に積まれた物に目がいった。これは確か・・・。
「・・・ホント何処いったのかしら・・・何処かに隠れるにしてもそれ程遠くには
行けなかった筈・・・あのドアが開かなかったのがせいぜい十秒くらいだし・・・。」
こうなれば虱潰しに探していくしかないか、と思ったその時だった。
「ここだ。」
「!」
「この時雨 キリト、逃げも隠れもせぬわっ!」
「逃げて隠れた男がよく吠えるわね・・・私の勘だけど、アナタも能力があるわね?
探していたわ・・・。」
「どうでもいいんじゃ、そんなこたぁ!早よこいやぁ!」
「勇ましいわね・・・とりあえずちょっと痛い目見てもらうわ・・・。」
俺は胸を張ってエロテロリストを迎え撃った。必勝の策は我にあり。
ダダダダッ
凄まじいスピードで俺へと突進してくるエロテロリストに、俺も拳を握り締める。
奴が手を出してくるならば、それに合わせて俺は拳をブチ込めばいい。
それで目標の時を止める事が出来る。まぁここからは一種の賭けみたいなものだが。
「ハッ!」
威勢の良い掛け声と共に一直線に伸びされる腕。軌道は逸れる事無く俺の胸へと、
マーキングとマーキングの間にへと向かっている。ここからの見極めが全てだ。
トンッ
軽くタッチされる俺の胸。アンッ!という吐息が漏れる。無論俺の口から。
だがこの瞬間を待っていた。
(もらった!)
拳を最速のスピードで胸へと向ける。時よ止まれぇっ!
そう思った瞬間だった。タッチした直後、女は俺の眼前で飛び跳ねると空中で
身を翻し、俺の背後へと降り立った。
そして流れるような動作で俺の背中に二回、タッチする。マーキングである。
俺の拳はそのまま、自身の胸を叩いた。
「ッッ・・・!」
「能力の判らない相手に、真正面から突っ込むだけでは愚かよ・・・策は二重に
講ずるもの、胸と背中の両方で爆発を味わいなさい。」
間、髪を入れずに女はマーキングした二点の間に手を添える。
マーキングからこの一連の動作に費やした時間は一秒も無かった。
この女、やっぱ凄いわ。

ドゴォッ

小規模な爆発が俺の体を襲う!超イテェ・・・。

ブスブスと白煙を上げる俺の体を見て尚、冷静な表情を崩さぬ女。
どんな精神してやがるんだ・・・。
しかし、すぐさまその冷静な表情が崩れる事になる。
「・・・・・えっ?」
それに女が気付いたのは爆発から数秒後だった。背中は爆発に見舞われ、白煙を
燻らせているが、俺の胸には未だ爆発が起きない。
相当不可解だったのだろう。女の動きが止まった。ようやく俺のターンか。
ガバッ
ここで俺が採った行動は女を更に混乱に陥れた。俺は彼女に抱きついたのだ。
「お前も味わえ、爆発の痛みを。」
ドォッ
刹那の間を置いて、俺の胸と彼女の胸の間で爆発が生じる。超イテェ・・・。
だが予定通り、だ。
まるで全ての時間の流れが緩やかになったかのような錯覚に囚われた。
浮遊するように崩れ落ちる彼女の体。まさか自分も爆発の巻き添えになるとは
思ってもいなかっただろう。
だがやはり彼女の精神力は並ではなかった。膝をつく一歩手前で踏み止まる。
「な・・・何で・・・?何で爆発が遅れて・・・?」
「コイツを胸と背中に仕込んでおいた。」
そう言って俺はワイシャツの中からガラス繊維の束を取り出した。
一見すると人工芝のように見えるが、これが思いの他強度に長けている。背中の
爆発の衝撃はこれで緩和した。
重ねて仕込んでおいた背中にはやはりマーキングも肉体まで届かなかったようだ。
途中のガラス繊維に底辺のマーキングが成され、それが爆発した模様。
衝撃緩和の役目は十分果たした。胸はそうはいかなかったがね。
さて、もうお解かりであろう。俺は彼女の腕を殴り、時を止めようとしたのではない。

胸に仕込んだこのガラス繊維を殴り、時を止めたのである。

時の流れが止まった物質は如何なる干渉も受けない。俺以外からの干渉は。
故に女の能力も胸板に届く事無く、干渉不可能となったガラス繊維に受け止められ、
伝達を断たれた事になる。導線が繋がらなければ、爆発は起こらない。
まぁ結果的に時が流れ出してから爆発の被害は被った。スンゲー胸痛い。
だが覚悟を決めて爆発に備える事が出来た俺と、出来なかった女。
ダメージの差は明らかである。

「策は二重に講じるもの、か・・・全くだぁね。」
「私の腕に能力を仕掛けようとしたのは・・・フェイクだったのね・・・?」
「オメーは俺が能力者だって気付いてみたいだし、俺の手には警戒してた
みたいだから・・・まともに能力を受けてもらえるとは思えなかった・・・
こうでもしないとさ。」
「でも・・・胸と背中で爆発したのは事実なのよ・・・何故立っていられるの?」
「それは我が妹への愛なり!」
女はそれを聞いてフフッと嘲笑する。だが次の瞬間にはまたあの眼に戻っていた。
「まだ私の負けじゃないっ!」
突き出される彼女の右腕。だがダメージを負った今のキミじゃさっきまでの動きは
不可能だね。
「ちょっと遅い!」
女の腕は俺の胸に一ヶ所マーキングした時点で止まった。それ以上動く事は無い。
俺が一瞬早く彼女の腕に拳を叩き込み、時間を奪ったから。
「さぁて・・・オメーのような女は痛みには屈しないと見た・・・だが、手が無い
ワケじゃあないよ・・・♪」

十秒後、彼女は自分の視界から俺の姿が消えている事を知る。
世界中の時間を止める事は出来ないが、彼女に限れば紛れも無く時が止まっていた
筈だ。
その間に起きた出来事は認識する事が出来ない。
「こっちだよ。」
背後からの声に、咄嗟に振り返彼女。そこには笑みを浮かべる俺の姿があった。
「えっ?アレ・・・?」
「もう教えてもいいだろう、俺の能力は触れた物の時を止める事が出来る・・・
キミがマーキングするより速く、キミの時間を止めたんだ。」
「時空間干渉の類っ!?そんな凄い能力だったの・・・?」
「まぁね。」
「でも能力をバラすなんて・・・何を考えているの?私に同じ策は通じないわ。」
「いや、もう俺の勝ちだからいいんだ。」
そう言って俺は両手に持ったスカートとパンツの切れ端を見せた。
呆然とする彼女。そして知る。自分が今下半身に何も身につけていない事を。
「ッキャアアアアアアアアアアアッ!?」
ペタンと座り込むエロテロリスト。顔は極限まで紅潮している。
無論、俺がやりましたよ、ええ。でもどちらも脱がしている時間は無かったんで
そのまま力任せに引き千切りました。他にする事があったんで。
「あわあわわああわわわわわわぁ・・・!!」
途轍もない羞恥心に襲われている事だろう。ウム、心地よい☆

「・・・・・み・・・・・見たの・・・?」
「見た!」

「・・・・・さ・・・・・触ったの・・・?」
「なめたっ!!」

「はわぁ・・・。」
女は完全に精神を打ち砕かれ、その場に伏した。手強い相手だった・・・。
だがこれに懲りてもうこんな真似はしないだろう。奈緒にも手は出さない筈だ。
これでまた手を出してくるようならホントに犯して・・・。
犯す?
俺は眼下に横たわる女を見つめた。

これは、犯してもいいのかな?

Chapter,2 END

Chapter,3

ふと、声が聴こえた気がした。「犯せ」と。
それは天からの啓示だったのかもしれないし、スレ住人の声だったのかもしれぬ。
眼下に見えるは下半身全裸のエロテロリスト。
俺の中で何かが脈打つのが判る。甲子園クラスの激闘を繰り広げていた先程までは
全く気にかからなかった一つの感情が、安堵と共に眼を覚ましやがったのである。
それはホラ、アレっすよ、子孫を残したいっていうか遺伝子がどーのこーのって
いうか・・・まぁ早い話が目の前にマンコがある。決してCGではない。ナマ。
普通は入れませんか?入れますよね?神奈川県では一般常識ですよ?
ホントにさっきまでは全くこのエロテロリストを女と認識していなかった。
いやゴメン、嘘ついた。
えぇ、そりゃ意識してましたよ。揺れるスカートとかデラベッピンな顔とか、色々
意識してましたさ。
でもね、軽々と爆発起こして近所の男に吉良吉影みたいな事を繰り返していた女です。
俺も胸と背中をやられました。痛いです。
しかしですね、こんな風に下半身全裸で誘惑されればこちらも男ですから、獣が
目覚めるってもんです。陸奥圓明流的には修羅が目覚めるって感じです。
故に俺は神奈川県の法令に則り、この女を犯す事を決定致しました。Ya―ha―!
ここで問題が一つ浮上。
悪役商会の八名信夫が直々にスカウトに来る程のこの人相のため、俺はゴムなど
所持してはいない。セックル出来るなんて想像もしていないからね。
家には奈緒とのめくるめく夢のエッチ☆のために腐る程確保してあるのだが、
携帯はしていなかった。
まさかこんなところで使う事になるとは・・・持ってくればよかった・・・!
まぁ世の常識からして初めてはナマがイイ!と女は思ってるらしいですよね?
俺の勘違いかもしれないし、その言葉の頭に「好きな人とのエッチは」というのが
付属するかもしれないが。
うぉぉぉぉっ!もうどうでもいい!目の前に股開いた女!カワイイ!周りに誰も
いない!女気絶してる!カワイイ!俺モテナイ!女カワイイ!こうなりゃやるしか
ないっ!ここで退いたらサムライを自負する俺の名折れだっ!
俺はルパン脱ぎで全裸になった。

じっくりたっぷりねぶりあげるように俺はエロテロリストの脚の間に顔を据え、
眼前におわす女性器を見つめた。凄い。神秘。こんなのを神は創るのか?
よし、触ってみよう♪
クチュッ
「ぅっ・・・。」
多少女から吐息が漏れた気がした。でも俺の息の荒さはそれを遥かに超越していた。
「ふぅぅっ!ふぅぅっ!なんっなんだ、このエロい感触はぁっ!!」
最早逆ギレに近い俺。指でヴァギナのスジに沿って指をクチュクチュクチュクチュクチュクチュする。
程よい湿り気が感じ取れる。何か泣けてきた。
母ちゃん、俺今女の子の大事な所触ってるよ、ってのと奈緒じゃない女に操を捧げ
ようとしている自分に。
でもこれは浮気じゃないよ奈緒・・・サムライ魂だよ!

口の中に似たような感触は粘膜だからだろうか。
そこんとこ詳しくない俺はヌルヌルしたまんまんを広げたり、指入れたりして弄ぶ。
ここに俺のアレをこうするんですね、楽しみです。
エロテロリストのワリにスンゲー綺麗なマンコ。もっとこう「ギャース!」とか叫ぶ化け物が
出てきそうなものを想像してたんだが、ヘアーも薄めでかなり犯罪的なマンコだ。
まるで年端もいかない少女にイタズラしてる感覚♪あぁぁぁぁああああっ!
よし、次は味わってみよう♪
舌を這わせてご機嫌を伺ってみる。ぺろぺろ。
「ふぁっ・・・!」
先程までより大きなリアクションが返ってきた。その反応が俺を更にエキサイティングに
暴走させる。
ペチャペチャペチャペチャッ
もうね、相手の両脚を肩に担いでね、何つーか、フランケンシュタイナーをかけられた
状態で眼前のエッチな部分を舐めまくる!女の股は唾液でビショビショですよ。
エイリアンも裸足で逃げ出す俺の唾液分泌量に乾杯だね。
ブチュチュチュチュッ
HANABI-la大回転の勢いでエロ女のエロい部分を舐めまわし、吸い尽くす俺。
もう誰が来ようと止められない事を自覚する。初めてなのにこんな舌技を駆使出来る
自分に多少の恐怖を覚えながらも、俺のプリキュアはマックスハート☆
さぁ、入れちゃるわボケェェェェッ!
息も荒いまま、俺は男性自身(笑)を彼女の秘部にゆっくり差し込んでいく。
「あぅっ!」
今まで一番大きな反応が返ってきた。やはりこんなモノをこんなトコに入れられるのは
とんでもない事なんだろう。でも構わず腰を更に押し込む。
ズチュッ
「あああああっ!!」
「あああああっ!!」
同時に声を上げる二人。結構いい関係になれるんじゃね?とレイプしている事を忘れて
思ってしまう。てか何だこりゃぁあああっ!?
何て恐ろしい破壊力なんだ!これが女ってやつですかぁっ!
チクショォ・・・同じクラスのイケメン共は毎日こんな快感味わってやがるのかぁ!?
ズチュズチュズチュズチュ
もうサルですよ、いやサルってよりも淫獣って勢いで腰を動かす俺ですよ。
零れ出るエロテロリストの吐息で自分を更にヒートアップさせながら、無人の野を
往くが如く、はっちゃけちゃいます。
前回の小説の主人公ならもう5,6発イッてるところですが、この時雨キリトは違う。
ガンガン、いやガンガン攻めまくります!
しかし、工場のど真ん中でレイプを続ける俺の前に影がふわりと現れる。
全く気配を感じさせず、それは現れたのだ。どうやら小柄なショートカッツガールの
ようだ。
「あ、あの・・・。」
「今とりこんでるから後にしてくれ!」
レイプする俺に冷静に言い放つ影という、凄くシュールな構図だが、俺は止まらない。
今止まるわけにはいかない。何よりイッてない。脳天撃ち抜かれようが俺はイク!
「アナタもメサイヤだったんですね?」
その言葉に俺の腰が止まる。コイツもまさか、能力者?

「やっとボクの話を聞いてくれる気になったんですかぁ!?」
嬉しそうに満面の笑みを浮かべるショートカッツ。やべぇ、カワイイな・・・!
金髪に近い、栗色の髪を風に揺らしながら微笑む少女か。
しかも「ボク」とか平気で使いやがる。虫唾が走るわ。ウソ。ボクっコ大好き♪
チッキショォォォッ、カワイイジャネェカコノヤロォォッ!
少女の可愛さに思わず腰も再始動ってもんです。あぁっイッちゃうぅぅ!
「うっ・・・!」
地上に舞い降りた天使を見ながら俺は絶頂へと辿り着く。
エロテロリストの膣から抜く事なんざサッパリバッサリ忘れていたため、完全に
膣内射精ですわ。ゲラゲラゲラゲラ
今日出逢ったばかりの見ず知らずのテロリストに童貞を捧げた俺。今日という日を
一生忘れないだろう。ありがとう、エロテロリスト・・・。
未だ意識の戻らぬ女から視線を移し、今度は少女を見つめる。
忘れているかもしれないが俺は今全裸です、お母さん。
「キミは何者だい?どうやらこの女の仲間っぽいけど。」
「えっと、その女性は東方 涼子さん、12メサイアの一人です。」
12メサイア?そういえばさっきもそんな事口走ってたな。何なんだ、そりゃ?
「とりあえずさぁ、その12メサイアっていうのを教えてくれないかな?あと
俺みたいな超能力持つ奴を襲ってる理由、そしてキミの名前、制限時間15秒!」
「ボクの名前は西園寺 葵です、12メサイアというのは・・・あの・・・その・・・
すみません、ちゃんと答えますから・・・服、着てもらえますか・・・?」
耳まで真っ赤にして俯くその姿は非常に可愛らしい。イタズラしたくなるわね。ウフフ
「これは失礼、ジェントルメェンな私とした事が・・・こういうブラブラしたものを
見るのは初めてかな?ん?ん?」
もう会社ならセクハラで訴えられる事間違いなしの言動に、葵と名乗るその少女は
俯いたままこう答えた。
「い、いえ・・・ボクも男ですから・・・見慣れてはいるんですけど・・・そうやって
あからさまに見せられると・・・。」
ハッハッハ、初々しいのう!・・・って、え?今何て言った?
「すまん、耳が瞬間的に壊れた・・・「ボクも」の後をもう一回頼む。」
「あ、ボクも男ですから・・・ですか?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁアナルぁぁぁぁぁぁぁぁぁアベシぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
男?オス?雄?♂?オッス!押忍!
ありえねぇぇぇ・・・この可愛さで男ですか?ウチの学校に来たらモテモテになれますよ?
しかも男からも女からもモテモテっていう夢のスクールライフを約束しますよ。
童貞と処女を一度に失う事も可能ですよ。良かったですね。
僕には男の顔を見て初体験の絶頂を迎えたという、消しようのない事実が刻まれました。
正直こんだけ可愛けりゃアリかな?と思う自分が怖いです。
意識がブッ飛びそうです。
いや、正確に言えばブッ飛んだのだろう。俺はここから記憶が無いのだから。

「・・・・・うぁ・・・。」
目が覚めた。しかし意識はまだ朦朧としている。自分が何をして、どうしてここに
いるのかさえもハッキリしない。寒い。痛い。何なんだ、一体・・・。
「目が覚めたようね?」
聞き覚えのある声に俺は一気に覚醒した。視線を上に移動させると、そこには
葵とその隣にあの涼子とかいう女が。
俺は生まれて初めて角の生えた人間というものを見た。気がした。
「よくも・・・よくも私が気絶しているうちに・・・犯してくれたわね・・・!」
「アハハハハハハハハハハッ!」
とりあえず笑っておいた。だって彼女の形相が完全に鬼なんだモン。
こんな鬼嫁相手に勝てるワケが無いと踏んだ俺は、脱兎の如く逃げ出そうと試みた。
しかし、それは叶わなかった。何故ならば、俺の両手両足は鎖でバッチリ☆固定されて
いたのだから。恐らくこの涼子とかいう女の仕業だろう。
全裸のままなのも絶対この女の趣味だ。いやらしい事この上ない。
こういう時は逆ギレに限る。
「てかテメェが襲ってきたからだろがボケェ!迷惑料だよ迷惑料!悪い事したら金払うか
体でおもてなしする、常識だぞゴルァ!シーン・ハリを見習ったらどうだ!?バスタードの
二巻読んで出直してこいコラァ!とにかくもう一回やらせろブルルァァ!」
もうアホの子みたいだが、必死にこの圧倒的不利な状況を打破しようとする俺。
だが涼子は全っ然動じる事無く俺の顔面を足蹴にしてきた。ヒドイわっ!
「アナタ、時が止められるって言っていたわね?その能力はいつからあるの?」
「・・・スカートは何とか履けたみたいだけど・・・パンツは破ったから無理だった
みたいだね?この角度からだとよぉく見えるよ、キミのマン・・・。」
グシャァッ
そりゃあもう凄まじいケンカキックだった。俺の顔を踏みつけたまま打ち抜きやがった
のだ。蝶野ばりっすよ。俺がアムロだったらあの台詞を吐いているところですよ。
「別に私達はアナタの敵っていう訳じゃないの・・・素直に答えなさい。」
「・・・言ってもいいんだけどさ・・・その前に俺の質問にも答えてよ。」
「また踏まれたいの?」
涼子のS的な発言に俺は溜め息をつく。S的〜S的〜。問答は無駄無駄無駄と感じる。
全裸で両手足の拘束という如何ともし難い状況を考慮し、俺は折れた。
「覚えてないね、気付いたら物の時間を止められるようになってた・・・でも最初は
もっと短い時間だったんだがなぁ。」
俺の言葉に顔を見合わせて頷く涼子と葵。
「能力は成長するらしいから・・・もしかしたらもっと長い時間、広い領域の時間を
止められるようになるかもしれないわね。」
感心するような涼子の顔が少々怖い。俺モルモットにされちゃうのかな。
だがここはサムライ・時雨キリトですから。憮然とした態度をとります。
「別にこれ以上は必要無いよ、俺は奈緒を守れればそれでいい。」
「いいえ、必要よ。」
カッコゥイ〜俺の言葉を頭ごなしに否定する涼子。
「何で?奈緒に近付く奴をブチのめすには今のままで十分だ。」
「私達がメサイアだからよ。」
「それだ、そのメサイアってやつの事を教えてもらわんと全く話が噛み合わない。」
ようやく、ようやく本題に入れそうだ。
読んでくださっていた方々、へいお待ち。

「メサイアはその名の通り救世主、カオスからマザーを守る者達よ。」
はい、またキタよ。カオスやらマザーやらキタよ。作者、これ以上風呂敷広げて大丈夫?
バスタードみたいになりませんか?
「先天的に何らかの力を持って生まれてくる人間をメサイアと私達の機関は呼んで
いるわ・・・メサイアはある一定の周期毎に現れる・・・いずれかの地域、国に集中
してね・・・マザーを守るために。」
「・・・・・・。」
「今回マザーが現れたのがたまたま日本だった・・・だからメサイアは日本に現れた、
私達はメサイアの使命を持って生まれ、能力を持って生まれたのよ。」
「・・・・・・。」
「能力の片鱗を持つ者は沢山いる、でもカオスと戦えるような能力を持つ者はいつの時代も12人、
だから12メサイアなの。」
「・・・もうね、トイレ行きたいから端的にお願い、漏らすよ?いいの?もう聖水とか
いうレベルじゃないよ?」
グシャァッ
涼子の蹴り。S的〜S的〜。
「カオスというのはネクロノミコンに記された秘術によって人の持つ心の闇が具現化
されたもの、それが人を狂気に奔らせる・・・近年、凶悪な犯罪が増えたでしょ?
それはカオスがマザーの誕生と成長に合わせるようにして力を増してきたからよ。」
「・・・で・・・カオスがあーだこーだするとどうなる・・・?」
「簡単に言えば悪意が世界に満ちるんだから地獄みたいな世の中になるんでしょうね、
でも今までのメサイアとカオスの戦いでは、メサイアがマザーを守り切ったから何とか
無事に過ごせてきた、って事みたい。」
「あぁ、そういやそのマザーってのが何なのか判らん、何だそりゃ?」
「カオスが欲しくて堪らない存在・・・それをカオスに奪われたらメサイアの負け。」
「奪われたらどうなる?」
「わからない・・・でも機関が保持するネクロノミコンによれば破滅が待っていると
いう事らしいわ・・・。」
「ふ〜ん、そら大変やねぇ?お前喋る毎に謎のワードが出るから喋んなくていいや、
とりあえず鎖外せ、俺帰るなり。」
「外してもいいケド、ここまで聞いたんだから私達の使命は判って貰えたわよね?力を
貸して欲しいの。」
「いやん。」
「何故?まだ実感が無いかもしれないけど、大いなる危機が訪れているの!」
「あのね、俺は妹を守る以外で力使う気はミジンコ一匹分も持ってないのよ、とりあえず
当社と致しましては検討に検討を重ねますので鎖を外してください、プリーズ。」
俺の言葉に、涼子の隣で押し黙っていた葵とかいうカワイコクンが見かねて俺の鎖に手を
かける。
涼子はそれを制止しようとするが、葵はそのまま俺の鎖を外してくれた。あくまで俺の
裸から目を逸らしながらだが。
女の子だったら犯してる。それくらいにイイ子だ。でも男だ。アウチ
「涼子さん、いきなりこの話をして聞き入れてもらうのは難しい筈です、一先ずボク達の
連絡先を預けて退きましょう。」
「う、うん・・・。」
葵に促され、涼子は渋々俺の解放に同意した。てか訴えますよ、涼子サン。

「とりあえずコレ、私と葵の携帯番号・・・アナタのも教えて。」
「仕方ないな・・・。」
と、いいつつ全く出鱈目な番号をメモり、それを渡した。こんなキチガイとよろしく
やってられっかっつーの。そして服を素早くジェントルに着込み、逃げるようにして
その場から立ち去ろうとする。
「キリト!この事実をちゃんと考えてよね!」
「オナニーしながら考えるわ!」
腐り切った捨て台詞を残して俺は走った。もうコリゴリですたい。童貞捨てられたけど♪
さて、今日は遅くなってしまったな・・・。
早く奈緒の部屋を隠しカメラ越しに覗きたいぜ!
と、家路を急ぐ俺だったが、突然の悲鳴に俺の足は止まった。
辺りには誰もいない。悲鳴を上げている者など見当たらない。
とてもか細い声だった。空耳か?再び足を踏み出そうとする俺。
しかし、空耳などではなかった。鞄の中からその悲鳴はリアルタイムで聞こえてくる。
「奈緒っ!?」
奈緒につけていた盗聴マイクからその悲鳴は聞こえてきたのだった。

Chapter,3 END

Chapter,4

「奈緒っ!?」
俺は道の真ん中で慌てふためいた。
マイクから漏れ出る声は、奈緒を取り巻く環境と状況が尋常ではない事を意味する。
「Hファほいへおいなおいのいdんぁ!!!」
やばい、俺パニック。手足バタバタ。頭グルグル。
前から歩いてきたオッサンが心配して駆け寄ってきてくれたが、説明のしようがない。
まさか「盗聴先の妹がピンチみたいなんです!」とは言えないよ。捕まる。
チックショォォ!どこのどいつだ、俺の女に手ぇ出すゴミクズは!
いつものように俺は奈緒に取り付けたGPSで位置を割り出そうとする。
だがしかし、胸ポケットに忍ばせていたGPSは涼子のテロ能力のせいで完全に破砕
していた。これでは奈緒のいる場所が判らない。
神速のタッチで先程渡された涼子の携帯番号をプッシュする。
しばらくコール音が続いた後、聞き覚えのある声が聴こえた。
<もしもし?誰?>
「キリトじゃボケェェェッ!!貴様のせいでGPSブッ壊れたじゃあねぇぇかぁぁぁ!」
<キリト?さっき貰った番号と違う表示されたわよ?騙したの?」
「そんな事ぁもう完全に全く何の意味も無いんじゃぁぁぁ!お陰で奈緒の位置が
判んねぇんだよ!どうしてくれんだ!?ブルルルァァァッ!」
<奈緒?妹さん?妹さんがどうかしたの!?>
冷静な涼子の声に俺も次第に落ち着きを取り戻しつつあった。同時に泣けてきた。
「奈緒がよぉ・・・ピンチっぽいんだよぉ・・・でも何処にいるかワカンネ・・・。」
<・・・判ったわ、私達も探すから・・・だからアナタも死に物狂いで探しなさい!>
「あぁ・・・そうする・・・奈緒ぉぉぉ・・・。」
情けない、我ながら情けない。だが大切な者の危機を知りながら何も出来ない歯痒さが
俺を包み込む。そんな俺に涼子は一喝した。
<アナタ、妹さんを守るんでしょ!?しっかりしなさい!>
そう言うと涼子は電話を切った。ホント、S的な女だ。
だが言ってる事は確かだ。俺がここで泣いていても奈緒から危険は去らない。
俺が奈緒を守らねばならない。
涼子の言葉を己の礎とし、俺は冷静になる事を心掛けた。
未だマイクからは奈緒の悲鳴が響き続けている。この悲鳴から何か掴めないだろうか?
神経を耳に集中し、マイクに聞き入ってみる。
すると奈緒の悲鳴が反響を繰り返している事が判る。同時にかすかに聞こえる歌が。
<池田のと〜お〜ゆ〜♪>
池田の灯油だ!モロ地域ネタ!だがこの時間あのオッサンが配達車転がしてる場所って
いやあの高架線の近くだ。反響は下のトンネル部分に奈緒がいるからか!
これで大体の場所は把握出来た。後はそこまで行くアシが必要か・・・。
と、そこへおばちゃんが原チャリで疾走してくるのが見えた。
スマン、おばちゃん死んでくれ。
俺の横を通り過ぎる瞬間、俺は原チャリに軽く触れ、原チャリの時間を止める。
慣性の法則に従い、おばちゃんはその勢いを保ったまま前方へと吹っ飛んでいった。
結構大惨事。でも奈緒がピンチ。わかってくれ、おばちゃん。
ミンチと化したおばちゃんを尻目に俺は停止した原チャリに跨る。
そして再び原チャリの時間が動き出す。
ブォォォォォッ
白馬に跨ったジェントルメンが今行くぞ、奈緒!

ガタンガタンッ・・・ガタンガタンッ・・・
幾重にも亀裂が走った高架線の上を、電車は轟音と共に駆け抜けていく。
その震動と音は、トンネル状になっている高架線下にやたら大きく反響し、いつまでも
木霊していた。悲鳴など掻き消してしまう程に。
「いやぁぁぁぁぁっ!!」
ドタッ
無残にもスカートを切り裂かれた状態で奈緒が壁に激突し、そのままズルズルと壁伝いに
体を曲げていく。どうやら相当強い力で撥ね飛ばされたか、何かから身体を引き離したよ
うだ。
「ハァ・・・ハァ・・・い、痛い・・・。」
見れば彼女の肘、膝は数度に渡る転倒により擦り剥けていた。軽くではあるが皮も剥がれ、
出血を見せている。
そんな奈緒の前に不気味に佇む者、それは虚ろな表情の中年男性だった。奈緒と組み合っ
た時に乱れたのか、ワイシャツはだらしなく裾をはみ出させ、上着は半分脱げた状態で
ある。それでも男は全く意に介していないようだ。
口からはダラダラと大量の唾液を垂れ流し、眼下の奈緒を厭な目つきで見つめている。
「だ・・・誰なんですか・・・?警察呼びますよぉ・・・!?」
奈緒は涙目になりながらそう警告を続けた。しかしもう何度同じ言葉を発した事だろう。
その警告を男は完全に無視し続けているのだ。
今や繰り返し言葉を投げかける奈緒自身が追い詰められている。
無駄と判っていながらもそれしか出来る事が無いからだ。
「・・・LJKJLKじょいじjjだんだあdけ・・・。」
ずっとこうである。奈緒の警告にも、男は意味不明の言葉を繰り返すだけ。
「お兄ちゃん・・・。」
奈緒を兄であるキリトの顔を思い出していた。いつも近くにいてくれた兄を。
誰がこなくとも、兄だけは必ず来てくれると信じていた。
(実は兄はシスコンでホント世界に誇るガイキチなのだが、奈緒はそれを知らない。)
「お兄ちゃぁぁぁん!!」
堪らず彼女は叫んでいた。この押し寄せる恐怖から自分を救ってくれる存在の名を。
(実は兄はシスコンでホント世界に誇るガイキチなのだが、奈緒はそれを知らない。)

「そこまでですっ!」

不意にトンネルの向こうから声が響き渡った。
奈緒は助けが、兄が来てくれた事を直感で感じる。やはり、やはり頼れる兄が来てくれたのだ、と。
(実は兄はシスコンでホント世界に誇るガイキチなのだが、奈緒はそれを知らない。)
だが声の質がキリトとはまるで違った。キリトはまぁチンピラの声とはこんな声ですよ、という見本のような声である。
が、その兄の声よりも幾分トーンが高く、どちらかといえば奈緒自身と近い声質だった。
女の子並のハイトーンである。
「そこまでです、カオスに憑かれし者よ。」
男を挟んでその声の主に目をやる奈緒。やはりそこに立つのは兄、キリトではなかった。
西園寺 葵である。

「奈緒さん、逃げて!」
「え・・・あ・・・はいっ!」
葵に促されるまま奈緒は反対側の方へと走った。
奈緒は当然、葵の事を知らない。しかし今は助けが現れたという事実にすがりたかった。命と貞操の危機から逃れられただけでも彼女にとっては僥倖と言える。

男は突然現れた葵に興味を持ったようで、折れそうな程に首を曲げて葵の方を凝視してい
る。
「・・・はJLkだkだlじぇけぇあ・・・。」
「完全に自我を失ってる・・・!」
一歩一歩距離を詰めてくる男を観察し、葵は判断した。この男の意識を奪い、体を乗っ取
っている存在こそ<カオス>であると。
どうやらカオスとは目に見えるような存在ではなく、エネルギーに近い存在らしい。
涼子の言っていた事はこれだったのか。
しかし何故カオスは、カオスに憑かれた者はマザーと呼ばれる存在を求めるのだろうか?
葵は、涼子はその真意を知っているのだろうか?
何にせよ、彼らがカオスという悪意を駆逐しようとしている事だけは確かか。
その時、不意に男が喋り出した。今度は聞き取れる言葉で。
「マタ・・・貴様ラ・・・カ・・・マタ・・・邪魔ヲスルノ・・・カ・・・。」
「うん、悪いけど邪魔をさせてもらう・・・アナタ達カオスをマザーと接触させてはなら
ないという教えに従い、その存在を否定させてもらいます!」
「グォォォォォォォッ!!」
まるで何かに弾かれたかのように、男の脚は大地を力強く蹴り、葵との距離を一瞬で縮め
た。尋常ならざる力の働きを感じる。
しかし葵は動じる事無く身を屈めると、足元にあった小石を拾い上げ、それを鋭く投げ放
った。
投げたと言っても小石である。それが一体だれだけの威力を持つのか甚だ心もとないとこ
ろだが、予想に反して小石は男の太腿部分に命中、何と穴を穿つ程の威力を見せた。
ドズゥッ
「ガッ・・・!?」
突如として脚を襲った激痛に、葵に届く事無く男は膝を折った。
ズボンを貫き、肉をえぐる程に小石は深々とめりこんでいる。
何故単なる小石にこれ程の威力が?
「アナタの中に宿るカオスは・・・ボクが消滅させる!」

やはりこの西園寺 葵も能力者だった。

決して軽く投げた訳ではなかった。それなりの鋭さを伴い、小石は葵の手から
離れたと思う。
しかし男のズボンを貫き、肉に穴を穿つ威力があるようには到底思えなかった。
尖っていたとか、そういう問題ではない。
確実に何らかの力が小石に働いたのである。
「ゴメンなさい・・・でも、こうするしか手が無いんです・・・。」
葵は少し悲しそうな顔を見せ、男との距離を少しずつ狭めていった。
その能力を用い、この争いに早めの決着を齎そうというつもりか。
彼の額にはうっすらと汗が滲んでいる。やはり悪意に支配された男といえど、人を
傷つける事は葵の中で咎めるものがあるのだろう。
「ガァッ!!」
「ッ!」
跪いたままだった男が、突然葵に飛びかかる。全身をバネのように躍動させ、跳ねた。
傷口からは筋肉硬直による圧力で血が噴出したが、一向に構いはしないようだ。
しかし葵もそれに合わせて後方へと飛び退く。その反射は超人的か。
それでも男のタックルの方が速く、強烈だった。葵は下半身を抱えられる格好で
テイクダウン。激しく背中を地面に打ち付ける。
ドドォッ
「うぅっ!」
僅かに呻く葵。目の前には馬乗りになろうとする男の姿があった。
この体勢は非常に危険である。完全な馬乗り、マウントを取られてしまえば非力な
葵に勝ち目は無い。そのまま敗北が決定する。
だが、葵は焦る事無く男の胸に両手をそえ、押し出すようにして力を込めた。
当然の事ながら葵の腕力と男の体重を考えれば敵う訳が無い。しかも地面を背にして
寝ている状態の彼には男を突き飛ばす程の力など発生させられない筈である。
にも関わらず、男の体がまるで綿のようにフワリと浮き上がったかと思うと、軽々と
数メートル先にまで押し飛ばされてしまった。
一体どういう事なのか?有り得ない吹き飛び方であり、葵の腕力だ。
数メートルフワフワと宙を舞っていた男の体だが、あるところを境に無重力状態から
戻り、そのままドスンと落下する。これには飛ばされた男自身も理解が出来ない。
これこそ葵の能力だった。
「小僧・・・貴様、重量ヲ変エラレルノカ・・・?」
「そう、ボクの領域の中では人も物も本来の重量を失う・・・さっきの小石は貴方に
当たる直前に100kg前後まで重量を増加させました。」
重量変化、これが能力の正体か。男が馬乗りになった際、葵は男の体重を本当の綿同様
に軽くしてしまったのである。それで葵の腕力でも軽々と押し出せた訳なのである。
そして葵が言った領域、ここに先程男が突然落下した理由があった。
どうやら能力保有者本人から一定の距離が能力有効領域となるらしい。そこから外れる事
で能力の範疇から外れるのだろう。故に領域から出た男から能力の効果が消失し、男は
落下したという事になる。
しかも領域内ならば能力発動は葵の任意で発動可能と思われる。小石が男に当たる直前に
重量を変化させた芸当から、それは読み取る事が出来る。
「今から貴方の体を限界まで重くします、早くその体から消えてください・・・。」
「フン・・・ソウヤッテ我ガ想イヲ邪魔スルダケノ存在ガ・・・虚シクハナイノカ?」
「・・・ボクは永く続くこの争いの駒の一つに過ぎませんから・・・。」
俯く葵はどんな表情を浮かべているのだろうか。それは無表情のようにも思え、悲しそう
にも思えて。
それでも葵は己を束縛する意志に従い、男の方へと歩を進め始めた。
だが・・・。

ゴンッ

何かが葵の後頭部を直撃した。一瞬意識を失いかけたのか、彼はフラッとその場を泳ぐ。
無意識の内に膝をつく事でようやく事態を把握出来たようだ。何かが飛んできた、と。
咄嗟に後頭部に手を当てる葵。ヌルッという感触は出血のためか。
「くっ・・・!?」
振り返るとそこにはキリトと同年代くらいの青年が石を手の上で弄び、跪く葵を見下ろし
ていた。彼が石を放ったと思われる。
「モウ邪魔シナイデクレルカナ?鼬ノ追イカケッコニモ疲レタヨ。」
口だけがつり上がって笑みを浮かべている。その他の顔の筋肉は弛緩したままだ。
虚ろなその眼と口調は、この青年もカオスに支配されている事を示している。
これで戦況は一転、2対1となった。
「不覚でした・・・まさかもう一人傀儡を用意しておくとは・・・。」
「俺ハ一人デアリナガラ無限ノ存在デモアル、ソレハ貴様ラモ良ク知ッテイルダロウ?」
葵が青年の言葉に下唇を噛み締めている最中、後方の男も再び立ち上がってきた。
依然として脚からは出血を見せたままだが、それでもその存在が厄介である。
複数の敵を相手とする場合、一度でも不利な状況に陥ればそれでもうアウトだ。
もう一方の敵がその隙を逃がす筈が無い。
「良ク見レバ貴様、ソソル顔ヲシテイルナ?ズタズタニシタ後、コノ二人ノ体ヲ使ッテ
可愛ガッテヤロウカ?ククッ。」
ゾッとした。葵の背中に冷たいものが流れた。それは戦闘によるダメージなどとは違う、
厭な感覚であった。
「たった二人でボクを破るつもりですか?ボクもメサイアの一人ですよ?」
「選バレシ者、めさいあ・・・ソノ真価ヲ発揮スルツモリカ?出来ルノカ?」
「やってみてから考えますよ・・・ただ能力があるからメサイアなんじゃないって事を
証明してみせます・・・!」
メサイアの真価と、能力の違いについては未だ不明瞭だが、葵には、12メサイアには
まだこの状況を打破する手が残されているという事か。
しかしそれが可能かどうかもまだ判らないという事実もある。
それは葵自身の懸念するところでもあった。
(やるしかない・・・か・・・!)
葵が意を決したその時、そう、こういったオイシイ時に主人公は現れる。

「ヘイ、お待ち!!」

ガズンッ
男が後方からカッ飛んできた原チャリに轢かれた。というより撥ねられた。
そりゃもうかなりのスピードが出ていたね。撥ねる気満々の全開具合だった。
さらば、男よ。
「キ、キリトさんっ!?」
白馬の原チャリに跨っているのは凶悪な人相で絶賛指名手配中の時雨 キリト。
ようやく参上。何処に行っていたんだ主人公!君が来るのを待っていた!(刃牙風)

「奈緒傷つけやがったのは貴様らかゴルァァァッ!ブチ殺す!本当に殺す!マジだからねっ☆」

Chapter,4 END

Chapter,5

素早い身のこなしが叶わなかったため、その凄まじい衝撃を避ける事は出来なかった。
男はキリトの乗るスクーターの追突を、半身の状態でモロに受ける事に。
思いの他その身は吹き飛び、地面に落下した後も二転三転、まるで達磨のように
転がる事となる。
「キリトさんっ!」
「やぁ、ボーイ・・・結構走り回っちまったよ。」
キリトは凡その位置を掴んだ後、御婦人から拝借したスクーターで一帯を走り回っていた
のだった。全ては愛する奈緒のため、彼は疾走したのだ。無免許なのに。
「ところでカワイコ君、奈緒は何処へ?」
「キリトさんが来る前に逃げました・・・でも助かりました、援護に来てくれて。」
「とりあえず奈緒にオイタしたと思われるオッサンは黄泉へと送った・・・もう俺が
ここにいる理由も無いな・・・さて、帰るか。」
「まだです、あの人もカオスに憑かれています。」
踵を返し、戻ろうとするキリトの袖を葵が引っ張る。
そして眼前に立つ青年を見据えた。まだ戦いは終わっていないのだ、と。
しかし奈緒が無事に逃げられたという事で、キリトはもうまるでやる気が無い。
「あぁ?カオスだかアヌスだか知らんけど・・・アイツも敵なの?」
「ハイ・・・倒さないと・・・。」
仕方がない、といった感じでキリトはスクーターから降りた。だが相変わらずやる気は
見られない。隣の葵とは対照的な程に。
そんなやる気の無いキリトを、青年は嘲笑する。
「何ダ・・・?ソイツモめさいあナノカ?戦力ニハ見エンガナ。」
まだ戦いの場に身を置いていないキリトは青年から見れば普通の人間に過ぎない。
葵のような覚悟が見られないからだ。
その気になれば相手を殺す事すら厭わない、そんな覚悟がキリトには見られなかった。
逆に言えば葵にはそれがあるという事にもなるか。
「キリトさん、気をつけてください・・・カオスに憑かれた人間は身体能力が・・・。」
「知らん。」

ギャギャギャッ

「ッ!?」
気がついた時には、スクーターが猛スピードでキリトの腕の中から走り出していた。
まるでカタパルトから飛び出したかのような加速であり、速度を伴って。
ドゴォッ
僅か数メートル先にいた青年は顔を驚愕で変形させる事しか出来ず、スクーターの
直撃を受けた。有り得ない加速力が、青年の回避行動を封じたのだ。
先程の男と同様、地面を転がる青年。唖然とする葵。動じる事の無いキリト。
一体何が起きたのか?

「・・・キリトさん・・・今のは・・・!?」
「原チャリから降りる時にアクセル思いっきし回してから時止めておいた、時間が動き
出したらヤツにブチ込めるようにね。」

この瞬間、葵はキリトという人間の恐ろしさを知った。

キリトには覚悟が無いのではない。殺意が無いのではない。逆鱗に触れる者にはいつ何時
だろうと地獄に送る事が出来る。
ただ、それが平常時からすでにそういう状態なのだ。
青年が直接的な被害を彼女に与えた訳ではないが、キリトの中でカオスという存在が
忌むべき対象になった事は確かだった。逆鱗とは奈緒であり、奈緒を傷つける事が
彼の逆鱗に触れるに等しい。
故にごく自然に、キリトは殺意を芽生えさせたのである。
そこに覚悟は必要無かった。彼にとって愛する妹を傷つける者を殺す事はごく自然な
行動だったのだから。ある意味純粋、ホント、ホントにある意味。

青年は突っ伏したまま、ピクリともしない。死んではいないだろうが、衝撃は相当の
ものだっただろう。しばらくは目を覚まさない筈と思われる。
「さ、終わった終わった、帰るかね。」
何事も無かったように背伸びをし、帰途に着こうとするキリト。
葵はこの時キリトに対する認識を改めるに至った。
時雨 キリトというこの男、生粋の戦士、メサイアなのかも知れない、と。
しかし天は尚もキリトをこの戦場に引き止める。
ドザッ
ザッ
土手から何かが降って来た。振り返るキリト。次の瞬間彼は眉間に皺を寄せる。
「・・・カワイコ君、コイツら・・・何人いるの?」
「恐らくこの辺りにいた人間にカオスを憑かせたみたいですね・・・。」
キリトと葵の前には十数人の男達が立っていた。皆一様に虚ろな表情を浮かべて。

「・・・俺の推理が確かならさ、もしかしてカオスって何人にでも増やせんの?」
「カオスを生み出しているのは唯一人ですが、ある程度の数の人間は操れます。」
「じゃあその一人の阿呆がこんなメンドイ事してくれちゃってんのかよ・・・。」
これにはキリトも呆れ、そして焦りを感じたようである。
何せこの人数は多過ぎる。彼自身、こんな数の人間を相手にした事は無い。
「カワイコ君、俺帰りたいんだけどさぁ、どうしたらいいかね?倒さないとダメ?」
「いえ、奈緒さんも逃げ切ったようですのでここは逃げましょう。」
葵もキリトの意見に賛成のようだ。そして耳元で呟く。
その間も現れた男達は一歩一歩二人に接近していた。
まるで飛び掛るタイミングを計っているかのようにも思える。いや、実際そうなの
だろう。ピリピリと空気が固体化していくのが判る。
「合図と一緒に思いっきり跳ねてくださいね。」
「ヤー(了解)。」
徐々に高まる緊張感。二人を包囲する輪が狭まっていく。葵はその中にある唯一の
タイミングを探っていた。
そして・・・。
バォッ
一斉に男達は輪の中心部へと、二人の立つその場所へと群がった!押し潰さんとする
勢いで人の河が流れる。
「今ですっ!」

ダンッ

力強く大地を蹴り飛ばすキリトと葵。だがこの場でジャンプをしようが人間の跳躍力で
脱出出来る囲みではない。キリトにしてみればこの行為自体に何の意味も見出せないが、
言われるがまま、ただ素直に葵の言葉を信じ、渾身の力で己が体を浮かせた。
その直後、彼は重力が反転したかのような錯覚に見舞われた。
二人の体が地面を蹴った反作用で上空へと飛び上がったのである。最早ジャンプと形容出
来る範疇からは逸脱している。
「なぁっ・・・!?」
「ボク達の体重を空気よりも軽くしました、このまま風に流されながら離脱しましょう。」
葵の能力により、二人の体重がほぼ消失したのだ。ジャンプの勢いそのままに、二人は
宙を泳ぐ。
眼下に目を移せば男達がこちらを見上げながら、ポカンと口を開けていた。
さすがにここまでは追ってこられない筈だ。
それにしてもこんな脱出方法があるとは、キリトも驚きを隠せない。
「こいつぁ驚いたね・・・あのS女といい・・・メサイアってのは・・・。」
風に揺られる風船のように、二人は当ても無く空中を浮遊し続けたのだった。

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