喪吉その6(43停止目)

 

彼女と知り合ったのは、今年の夏の一日だった。
友人が知り合いを集め、ドライブに行ったときのメンバーの一人。
車の中では特に話す機会は無かった。
特に彼女と話すことも無く、その日のドライブが終わりかけ、夕食を
取るためにファミレスに入った。
偶然、彼女が俺の斜め前の席に座った。

彼女は気さくな人で、喪男の俺にも気軽に話しかけてくれた。
何とか、彼女のメールアドレスを聞き出し、その日のうちにメールをした。
話題は、もんじゃ焼きの話になった。
下町育ちの俺にとっては、昔から食べ慣れた食べ物だった。
彼女は生まれてから一度ももんじゃ焼きを食べたことがないらしい。
俺は彼女をもんじゃ焼き屋に誘った。
本当なら、格好良くイタリア料理屋とかに連れて行けばいいのだろうが、
喪的な俺にとっては、下手な場所に行くより、食べなれたものの方がボロがでない。
ましてや、彼女の方から行きたいと言ったのだから。

彼女と知り合ってから、月に1〜2度程度食事や映画に誘った。
友達カップルと一緒の時もあったが、何回か2人きりで映画を見たり、飲みに行ったりもした。
いつしか、俺の心の中に恋心が芽生え始めた。
彼女と居ると、自然体で居られる。

現在、彼女に彼氏が居ないのは聞いていた。
だけど、喪男の俺が告白なんてしたら、迷惑じゃないのか?
何度告白しようと思ったか判らない。
好きだと言おうと思っても、口から声が出ない。
本当の話じゃないかも知れないが、電車男は告白出来ただけでも凄いと思う・・・。

そんなことが数度続き、やがて12月になってしまった。
彼女と知り合って、すでに半年。
12月と言えば、カップルに取っての最大とも言えるイベントがある。
そう、赤い悪魔が跋扈するクリスマスだ。
今年のイブは日曜日だった。
ダメ元で彼女を誘ってみる。

結果はOK!
過度の期待はしちゃいけない。いけないかも知れないが、浮かれずに居られるものか!
クリスマスイブに女性と二人でデート出来るのだ!
俺は、この日に告白すると決めた。
デートの内容は、映画を観て食事。

ちょうど突発的な仕事が入り、毎日残業の日々が続く。
たが、24日だけは何とか休めるように、そして24日を楽しみに頑張った。
最近は俺も飲めるようにと電車移動が多かったが、今回は俺の車で映画に行く。
出来るだけ二人きりになれる時間を取れるための配慮だ。

クリスマスイブ・・・。この日なら告白できるような気がした。
映画を観終わり、何度か告白のチャンスはあった。
しかし、余計なことを考えてしまう。
告白して、フラレたら彼女との今の関係が崩れてしまう。
そんなことばかり考えてしまい、言葉にならないのだ。

夕食も終わり、ついに彼女を送る時間になる。
彼女の家に近づくにつれ、告白しなければと思うが、やっぱり駄目だ。
何度告白しようと思っても、告白出来ない。
口が渇く・・・。

ついに彼女の家に近くに到着してしまい、彼女が車から降りてしまった。
今日も告白出来なかった・・・。
キリスト教徒でも無い俺には、キリストは何の加護も勇気もくれなかった。
このままじゃ駄目だと思いつつも、すでに彼女は居ない。
俺は帰路へ着き、国道を飛ばした。

このままじゃ、いつもと同じだ。
今日、告白するって決めたんじゃないのか?
しかし、もう彼女は居ない。
まぁ、次会った時に告白すればいい。
いや、駄目だ。このままじゃいつもと同じじゃないか!

俺は車を止め、彼女にメールを打ち始めた。
100文字にも満たない短いメール。
内容は、俺と付き合って欲しい。本当は直接言いたかったけど、なかなか言えなかった。
たったこれだけの短いメール。
送信ボタンに指を伸ばすが、なかなかボタンが押せずに、何度も携帯を閉じたり開いたり
した。

どうせ、俺は喪男だ。今更フラレたからと言って何が変わる?
いつもの生活に戻るだけじゃないか。
このまま告白しなければ、彼女に新しい彼氏が出来て会えなくなってしまう。
同じ会えなくなるなら、遅いか早いかの差だ。
俺は勇気を振り絞り、指に力を入れ送信ボタンを押した。
メールは無事送信され、彼女の元へ届いたはずだ。

自宅へ到着しても、彼女からの返事は無かった。
俺が彼女に気があったのは、彼女も判っていたはずだ。
やはり、迷惑だったのか・・・。
告白したこともあり、もう彼女とは元の関係には戻れないだろう。
喪男の俺が、女の人と二人きりで会えるだけで十分だった。
身分不相応だったんじゃないか?
告白なんてしないで、今の関係のままで良かったんじゃないか?
いや、そんな事はない。彼女と一緒に居られた時間は俺の中には残っている。
今回は上手く行かなかったかも知れないが、きっと俺は成長出来たはずだ。

いままで、ありがとう。
貴方との時間はとても、とても大切な思い出です。
本当にありがとう・・・。

夜も深け、もう時間的に日が変わる時間が近づき、俺は寝る準備を始めた。
携帯からメールの着信を知らせる音が響いた。
俺は期待と不安に駆られながら、メールを開く。
差出人を見る。
彼女からだ!
俺は恐る恐るメールを開く。

彼女からのメール内容にはこう書かれていた。
今はまだ友達以上、恋人未満。
だけど、今の関係から始めましょう・・・と。

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