kukuku(11停止目)

俺は天童。時間を操ることができる。とはいってもかなり制限された時間だけだが。
なぜそんなことができるのか。それを語りたいところだが今の俺にそんな暇は無い。
まずは生きるか死ぬかのこの状況を切り抜けなければ──

「天童!足元だ!に

時間を止めたが──危なかった。もう1秒遅かったら"奴"に喰われていただろう。
山本、感謝するぜ。しかしこんなところで使ってしまうとは。
とりあえず手持ちの手榴弾をすべて足元にまで迫っていた"奴"の腹の中にぶち込んだ。
そうして山本を抱え、ダッシュでその場を後にした。

10秒ほど走ったところで時間を元の流れに戻す。くそ、15秒も使ってしまった。

 げろ!…あれ?」

その2秒後、轟音がトンネル内に反響する。足止めぐらいにはなっただろう。

「逃げるぞ、山本」
「俺の台詞だよ」
「いいから自分で走れ」

抱えていた山本を投げ捨て、俺は走った。

5分ほど全力疾走したところでようやく出口が見えてきた。

「やっと血生臭い廃トンネルから抜けられるのか」
「油断するな。あの程度じゃ死なん」
「…だろうな。追ってきてたりして」

話しながらトンネル沿いの国道を歩く。車が通ればいいんだが。
そう思っていると遠くの方から車が来るのがわかった。

「ちょうどいい。アレ、借りようか」

そういうと山本は道路で仁王立ちになった。
10mほど手前で止まる車に向かって走る山本。

「動くな。この車は徴発します。以後、私の指揮下に入り行動しなさい」

民間人に銃を突きつけ言う。どこのヤクザだよ。

「ふ、フザケンナ馬鹿野郎っ!一体何様のつもりで──
「私語は慎みなさい。命令違反は銃殺です」
 ──…わかったよ畜生…」
「ご協力、ありがとうございます。
 おい天童!貸して下さるそうだ!」

嬉しそうに叫ぶな馬鹿。後のことを考えると頭が痛い…。

「私の連れが失礼なことを…申し訳ありません」
「まったくだよ。これだから軍人ってのは嫌いなんだ」
「いいから逃げるぞ。早く乗れ」

能天気な奴め。まったく…。
乗り込むと同時に急発進し、舌を噛む。苦労するなあ、もう…。

「ところでアンタら、全身血まみれだけど殺し合いでもしてたのかい」

皮肉った口ぶりで言う。もっと穏便にいこうよ君達…。

「殺し合い?とんでもない。一方的な殺戮ですよ」

だから穏便に…。

「この人殺しめ」

穏便にっつってんだろーが。

「人殺し…ね。ま、否定はしませんよ」
「山本!」
「事実だろ。みんな目の前で喰われたんだ。見殺しにしたも同然だろ」

そう。事実12人の小隊は全滅した。俺達2人を残して。

「くく、喰われた?どういうことだ?!」
「機密事項です。 と、言いたいところですが、教えても問題ないでしょうかね。
 どうですか?天童隊長殿」
「もう…好きにしろ」
「それじゃあ説明お願いしますね。天童隊長」

振り回される俺がとても愛おしい。

「簡単に説明しますと──

・コードネーム"モンスター"
・人食いの怪物
・銃器の類は一切効かない
・効かないというより凄まじい再生力で治癒
・運動能力は人間のそれを遥かに凌駕

 ──こんなところですね」
「"モンスター"…なんでアンタらはそんな人の手に余るような怪物を相手に…
 死ぬかもしれない、いや、死者も出てるっていうのに」
「国民の安全の為ですよ。ねっ、隊長」

こ、コイツ…一番オイシイ台詞を奪いやがった…。

「え、えぇそうです。その通りです」
「アンタたち…さっきは酷いことを言っちまってすまなかったな」
「いえ、憎まれるのも私達の役目ですから」

またしても…いつか殺してやる。

「ところで、軍の機密なんて話してもよかったのかい?」
「問題ありませんよ。大したことではありませんから」
「そうかい?ならいいんだけがねぇ…」

その通り。問題ない。一番重要なことは話していないのだから。
"モンスター"が実は軍の人体実験の産物だということは…。

「今どの辺りだ?」
「基地の南10kmだ」
「もうすぐ…か」
「だけどさ、これはまずいんじゃないか?」
「隊員を見殺しにしたことの処分なら覚悟はできてる」
「いやそうじゃなくて」
「?」
「民間人の車を許可なしに奪って帰還なんて」
「誰の仕業だよ、誰の…」
「私は隊長の命令に従ったまでであります!」

コイツ…指揮能力は俺より長けているくせに責任感皆無なのがなぁ…。
副隊長としての自覚もあるのかないのか。

「仕方ない。ここまできたならモンスターも追ってこないだろう。歩くぞ」
「えっ そんなつもりで言ったわけでは──
「歩 く ぞ。命令違反は?」
 ──銃殺、ですか…職権乱用だー!」
「何か言ったかね?山本副隊長」
「なんでもないです。隊長殿」
「では、そういうわけですので。北嶋(車の持ち主)さん、迷惑をおかけしました。
 それでは失礼します」

車を止めて降りようとした、その時だった。

「ま、待ってくれ!あれは…な、なんだ…?」

北嶋の指差す方には奴がいた。そう──

「モンスター…! まさか、ついてきてたのか…?」
「またかよ。天童、バッテリーはあといくつある?」
「予備含め3個だ」
「60秒弱か…よし、じゃあ応援を呼ぶからお前、それまで時間稼げ!」
「無茶言うなよなぁ、まったく…
 北嶋さん、車に乗って逃げてください!」

装備の確認をし、車を見送る。

「来るぞ、逃げるなよ山本!」
「お前が生きてる内はな!」

距離を詰めたモンスターが襲い掛かって来る。
振り下ろされた右腕をバックステップで避け、鉛の雨を浴びせる。
だが、銃弾は硬質化した皮膚で止まり、中までには至らない。

「こんな小銃じゃ役に立たんな…」

呟くと、左腕が飛んできた。
それを右に避け、モンスターの懐に飛び込んだ。

顔が迫ってくる!
ギリギリまで引き付け──時間を止めた。顔はもう文字通り目の前にあった。
このバッテリーじゃ5秒が限界か。ナイフを取り出し、モンスターの左目に突き立てる。そしてグリグリ。
あと3秒。モンスターの後ろに回り込んで銃を構える。
1…0!

「ググゥギャアアアァァァァ」

悲鳴と同時にトリガーを引く。そうしながらバッテリーを入れ替える。

「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」

どうやら背中は弱いらしい。これはなんとかなりそうだ。
と、思っていると──
カチッカチッ
──弾切れ──!
まずい!うろたえる俺。クールキャラを目指していたハズなのに!
やばい!死ぬ!喰われる!殺される!

「そ、そうだ!山本──っていねぇ!!」

こうなったら…退散だ!時間よ止まれ!
大丈夫だ、時間はたっぷりある。基地に向かって走ろうとした時、山本の姿が見えた。
と同時に…

「モンスター!?なんでこっちにも?」

分裂?いやまさか。一体だけじゃなかったというのか…。

「…チッ」

山本を抱え、ひたすら走る。止まっている時間を精一杯使って。
そうして30秒が経った時──

「死ぬゥ───!助けれたいちょおおおおぉぉ!!
 …あ、こんにちは隊長」
「…まったく」
「待て天童。もうすぐ応援が来るハズだからここで待機だ」
「死ぬぞ?」
「ギリギリまで粘って、殺されそうになったら任せる」
「じゃあ銃をよこせ」
「ほらよ」

山本から自動小銃を受け取って覚悟を決めた。

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