かつを その9(35停止目)

 

「誕生日プレゼント、一応ありがとうな」
「どういたしまして。中々良い感じじゃない?」
などと言いながら、俺は誕生日プレゼント――自転車を押しながら歩く。
彼女はその後ろをついて歩く。
「じゃあ早速だけど、二人乗りしちゃおうよ」
「え、うーん……。端的に言おうか、イヤです」
「え、どうしてどうしてー?」
「そりゃ、アレだ。……人の目が気になるだろうよ。――ってオイ!」
彼女は俺が押す自転車に無理やりまたがろうとしてくる。
そして、俺は彼女を押し返す。
「ちょっと、力が強いよ。こんなときだけ男っぽい姿見せないでください」
「うるせー」

「じゃあ交換条件? みたいなもんだけど。
 わたしここで30秒数えてるから、その間にタカシ君、自転車こいでってよ。
 そのあと、わたしがタカシ君に追いつけたら二人乗りしようよ。いい?」
「ん……うん、別にいいけど。――って、もう数えてるの?」
「――さーん、しー、ごー」
彼女を背にして自転車に飛び乗った。思いっきりペダルを踏み込む。凄く重い。

「にじゅしち、にじゅはち、にじゅく――」

結構な距離を進んだあと、自転車から降りて額を拭う。
後ろを振り返りながら。
「ふぅ、かなり進ん――」
「どうも、タカシ君」
「ん? 何故?」
「タカシ君のところなら、どこでも一瞬で移動できるんだよ」
「ん? サイヤ人のこと?」

彼女の顔は赤く染まっていた。
いつの間に彼女は俺のところに着いたのか。なんてことよりも、
ただ、彼女の顔色が気になった。
彼女は体が弱いことも、頻繁に病院に通ってることも知っている。

「……でもね。どこでも行けると言っても、凄く疲れるんだよ。
 タカシ君には分からないと思うけど、今凄く胸がドキドキしてるんだから。
 触ってみる?」
「バカ」
と言いながら、仕方なく彼女に自転車に乗るよう促した。
あくまでも仕方なしに、である。
「あ、乗せてくれるの? やっさしー」
「俺、後ろな」
「ちょっと、わたしレディーだよ。レ、ディ、イー」
頬をふくらます彼女をよそに、さっさと前に乗った。
やがて彼女が後ろに乗ると、自転車は走り始める。
彼女が後ろで何か言ったが、聞かなかったことにしておいた。

「ホラ、笑われてる……」
「気にしない気にしない」
そういう彼女は、本当に気にする様子が無いのだから凄い。
でもそれ以上に彼女のセンスが凄い。
二人用の自転車なんてバカかとアホかと。――体弱いクセに。

「エヘヘ。胸がドキドキしてるのは、時間を止めて疲れたから、ってだけじゃないかもしれないよー」
「知るか。言っとくけど、お前こぐなよ」
「で、これからどこいくの? もしかして、わたしをもっとドキドキさせる気?」
「アホ」
と言って、彼女の尻を触ってやった。
俺がドキドキしてる理由も、自転車をこいで疲れてるから、ってだけじゃないっつーの。

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