かつを その15(41停止目)

ウンコ

 

僕は最近便秘気味である。そして、同時に下痢気味でもある。
高校男児、青春の時期を下痢に振り回されるとはなんとも情けない。
(もっとも、青春を謳歌することに対しても反吐が出るが)
びちびちのウンコが腸の中で発酵し、ガスが僕の体を隈なく
汚していっていると思うと恐ろしく思える。
――などと余裕ぶって独白している間も、僕は必死に内股だ。
秋のはじめに感じる風はいつもより一層冷たく感じられ、
そのくせに汗はとめどなく垂れ続ける。
体に充満する下痢ガスが溶け込んだような、ひたすら不快な汗。
周りでは、昇りゆく朝日の下、僕と同じ制服を着た奴等が
爽やかで清々しい朝の挨拶を交わしている。
僕の腹の中のウンコさえあれば、そいつ等の朝を破壊するに充分事足りるだろう。
そう考えると、何一つとりえのない僕でもそいつ等に勝ったような気がするが、
それよりもまず、自分に勝たなければいけない。校舎へ駆け込む。

尻が緩まないように、かつ、できるだけ素早く階段を駆け上る。
校舎の中は外よりも冷えていて、体が震えるが、
窓枠の向こうから見える朝日、投げかけられる日光は
いつもよりも僕を温かくさせた。
廊下の真ん中でだべる生徒をかき分け、三階まで上った。
同時に僕は咄嗟に時間を止めた。――限界がすぐそこまで来たのだ。
(ちなみに下痢止めのためだけに、時間を止めたわけではない)
僕の肛門に与えられる30秒だけの猶予。僕は限界を迎えつつも、トイレへすがりつく。
耐え切れずに穴は広がる。しかし流れ出る土石流は、身をのり出した瞬間時間を止める。
それゆえに漏らし続けている間も、その事実は保留されたままだ。
僕はトイレへ駆け込む。
30秒が経つ前に便器に座り込み、多少の苦痛に脂汗を浮かべる。

30秒の間流れ出続ける僕のウンコは、重力に影響されることはない。
僕の尻にぶら下がり、その質量を増していく。まるで黒い゛まりも゛のように見える。
腸が締められていく度に、表面上にあるウンコは放射線状に押し広げられていき、
黒い゛まりも゛は加速的に膨張していく。
音は全て゛まりも゛に吸収されている。「ブリブリイィ」という音は聞こえない。
さらには、僕のもっていた焦りとか苦痛とか興奮だとか、そういった感情さえも
゛まりも゛が成長していくと、薄まり、やがて消えた。

黒い゛まりも゛は物質・音・感情までも吸収していった。
だがそれも30秒が経つと、落ちて消える。便器に水に叩きつけられて崩れ去る。
僕はそれを見る度に、小宇宙を連想する。まるで小宇宙のようではないか、と。
さらにはそうやって、便器に腰掛け尻を拭く間にも、
個室の薄っぺらな壁一つ隔てた向こうでは、新しい小宇宙が誕生している。
純朴な娘が、不純な娘が、可愛らしいあの娘が、もしくは不細工なあの女が、
人前で見せる出来合いの顔からは想像もつかないほど、
顔を歪め、あるいは恍惚とした表情仕草で小宇宙を誕生させているのだ。
再び僕の頭には感情が湧き出す。悦びの感情が僕を支配する。
なんという極上! この世の至高! 真理!
僕はいつも宇宙を感じ、気だるい授業を乗り切るのだ。

時間を止めてトイレへ駆け込み――――――――そして、時間を止めて女子トイレから出る。
一種のライフスタイル。もちろん水は流さない。
小宇宙の残骸は、僕の証だから。

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