ボーイその3(3停止目)

 

発端は「せんぱいせんぱーい。わたし、スゴイ能力手に入れちゃったんですよー」なんていう、何気ない彼女の一言。
狭い部屋。コタツで差し向かい。そんな、色気もなんもないシチュエーション。
バカな話にも飽きて、さぁ寝るかという時間にも関わらずコイツのバカさ加減は相変わらずだ。
俺は俺で、例によって彼女の虚言なのだろうと本気にすることなく、
「あーあー、そりゃヨカッタなー。精々世界平和にでも貢献してろー。俺は寝る」
などとテキトーにあしらったり。
コイツの行動パターンは読み切っている。
「えー、つまんないですよーぅ。せっかくなんだから『どんな能力?』とか食いついてくださいよー」
「はいはい。どんな能力よ?」
あくまでがっつかない程度に質問してやる。会話の主導はこうして握るのだ。
「聞いて驚かないでくださいなー。なんと時間を止めることが出来るのです!」
じゃーん、などと擬音を発し大げさに両手を広げる彼女。
「……はいはい」
期待した俺が馬鹿だった。さて、寝るか。
「こらー、寝るなー! 寝たら襲いますよー」
「そうなる前に全力で逃げるわ」
「時間止めれるんですよー?」
「やってみろよ」
「わかりましたー♪ 証拠見せますから眼ぇ閉じてくださいー」
「誰が閉じるかボ――――」
ケ、と言葉を繋ぐよりも早く、視界は彼女の顔で埋まっていた。
そして唇には微かに甘く、柔らかな感触。
「!!!!!!!!?」
慌てて飛びのくと彼女はぺろり、とイタズラっぽく舌で唇を湿し――
「ごちそうさまです」
などと呟きやがる。
「ちょ……ッ、おま! なにすんねん!」
どうやったのか?
なんてこたぁどーでもいい。ファーストキスなのに。穢されちゃった、俺……
「わたしも初めてですよ?」
訊いてねーよ!
「オマエなー、初めてなら初めてらしく大切にとっとくなり、
 もっとムードある場所で思い出にしたり、
 もっと好きな人との記念にしたりだな――――」
焦る俺焦る。
何言ってんのか自分でもわからない。
そんなふうに狼狽してる俺を前に、彼女は
「くすくす」と笑い、「見かけによらずロマンチストなんですね」などと嘲い。
「もう充分に大切にしてましたし、ムードはなくとも一生の思い出ですし、
 
 せんぱいより好きな人なんか、居ませんから」
と恥かしげも無くそんなコトを口にして、
「わたしは別にかまいませんよ?」
などと屈託の無い笑顔で締めた。
「せんぱいは、不本意でしたか?」

ああ、もう。
そんな風に問われたら

「……俺も、まぁ、いいかな」

と呟くコトしか出来ない。
時間止められたんなら、抵抗なんかできねーし。
時間を止められなくとも、俺はコイツを拒絶なんか出来ないのだ。

続き

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