775(40停止目)

いつもと変わらない帰り道。
会社から駅までの百メートル前後と、駅から電車に乗っての何駅か。
家の最寄り駅まで半刻ばかしガタンゴトンと揺られるだろうか。
それからまたしばらく歩いてやっと家に帰って、そうしてする事も無く、たまった疲労を癒すべく寝る。

ああ、なんて退屈な日々だ、と毎朝毎朝思いながらも、朝の気だるい体に鞭打って、顔を洗い歯をみがき、軽く朝食をすませてから、そそくさと家を出る。
会社に行けば毎日毎日一銭にもならない残業をして、嫌みなハゲ野郎、ああ部長様か失礼しました。
部長。そう、奴隷達を指揮する「奴隷」に何かの拍子に必ず愚痴をこぼされ、嫌みを言われ。
どだい的外れで、馬鹿で。1+1=1のように分かりきっている事を、声高らかにただのストレスの発散と思える説教をするのだ。
されども反論する事も出来ずに、ただただすいませんだのと謝る。

何て退屈な日々だ。何か一つでも面白いことがあって然るべきじゃないか。
恋人はおろか友人と呼べる友人もいない。皆上辺だけの付き合いだ。奴らはどうせヘーコラしながら、内では俺のことを罵り見下しているのだ。ああ不愉快だ。

いつもいつもそうなのだ。何度となく転職をしたりして、環境を変えようと試みたが、
人間の内にある醜さを知っている俺は誰とも打ち解けられないんだ。俺ほどいたわりという気持ちを大事にする人間もいないのに。
所が世の中の人間というのは誠馬鹿で愚かなものだから、何よりもみてくれをとるのだ。
部屋の隅で怯えてぶるぶる震えて歯をガチガチ鳴らして、ただ耐えている百姓より、
其れを恫喝して年貢をかすめ取り、毎日毎日痴話騒ぎをしているデカダン役人がのうのうと、百姓よか幸せに生きていやがる。畜生!
燕雀いづくんぞ鴻鵠の志を知らんや。昔の人はいい言葉を残したな。

だから、何をしたって状況は変わらない。いや、変えられない。むしろ悪化していってるようにさえ思える。
その内に、再就職も叶わない年齢となって今の会社に落ち着いているのである。

今日も、そんなふうな事をいつも通りに、愚痴を聞いてくれる相手もいないので、心の中でつぶやき卑屈になりながら家路についていた。

帰るときには必ず駅前の小汚い、ゴミなんかが散らかっている公園を通る。
アベックなんかは見ないようにしながら、そこにいる、その散らかっているゴミを漁っているような乞食を見ながら、一抹の優越感に浸るのだ。
ああ、どうやら俺も馬鹿にしていた世間の汚らしい人間の下卑た精神を持っているようです。

そうしていつも通りに、転がっている缶コーヒーの空き缶や小石なんかを軽く蹴りながら歩いていると、一人の乞食が目に止まった。
明らかに他の乞食とは一線を画しているのだ。
ぼさぼさの白髪混じりの、どこが境界線なのか全くもって分からない髪と髭に、醜く皺だらけな肌。歯を抜け落ち、だらしなく空いた口から息をするたびにヒュウヒュウと不快な音を立てている。
ぼろきれのような服…と呼ぶのも如何なものかと思う服を来ている。
身なりは何も乞食と変わらないのだが、オーラというのか。
詐欺師まがいの自称カウンセラーがしばしば金蔓を調子づかせるのに用いる、そのオーラが、俺にもはっきりと見えた。
その男の体から、2、3cm程度に帯のような、煙のような、そんなものがゆらゆらと霞んで見えた。
とうとう俺は気でも違ってしまったのだろうか?

いつのまにか歩を止めていた。馬鹿らしい。ただの乞食じゃないか。
何か因縁を付けられるのも癪だし、目を逸らし小走りになりながら去ろうとすると、嫌なことに向こうから声がかかった。
「ちょっと兄ちゃんや」
ああ、恐れていた事が現実になった。次に続く言葉は「何見てんだよコノヤロウ」これに違いない。畜生。ついていない。
攻撃に備えて身構えていると、俺の想像とはおよそかけはなれた言葉が飛んできた

「あんた、人生に疲れているね。」

ああ、俺はいよいよ乞食にも馬鹿にされるか。このまま殴り倒してもよかったが、警察沙汰はごめんだ。こんな奴には関わらないのが一番だ。
沸騰した水の気泡みたいに沸いてくる苛立ちを抑えつつ、立ち去ろうと男に背を向けた。その時だ。

目の前に突然、本当に一瞬の間に、乞食の醜い顔がドアップで浮かんできたのだ!
いや、一瞬なんてもんじゃない、きびすを返したらそこに「居た」のだ。
超スピードだとか催眠術だとかそんなチャチなもんじゃねぇ。もっと恐ろしいもの片鱗を味わったフランス人のような顔をして、しばらくそこに立ち尽くしていた。

いつのまにか、この矍鑠たる老人の横に腰掛けて、二人で世間話をしていた。というより、させられていた。

「武器商人の事を悪魔の商人というじゃないの?君。ん?あれは死の商人か。まあ似たようなものか。あれこそ人間の本質だと僕は思うのね。」
顔色も真っ青で酒臭くもないのに、この老人はあたかも酔っ払っているかのような語り口で、毒された哲学者のような事をふらふら喋っている。
別段こういう話が嫌いというわけではないが、それ以上に、さっきの…が気になってしまって、話にも身が入らなかった。
あの奇妙な現象のことを伺おうと機を計っているのだが、元々口下手なのもあってか、いつのまにかこの老人ののらりくらりに乗せられている。

「ところで君、名はなんていうのだね」
「や、山田です。」
「うんうんそうか、山田くんか。いい名前だね。…僕ぁねぇ、まだ名前がないんだねぇ」
「まさか。どこぞの飼い猫じゃあるまし。」
「はっはっはっ。ただのしがない乞食さ。まぁ好きなように呼んで呉れ給え。そういえば漱石といえば…」

ああ、まただ。またこの老人のペースにのせられている。いい加減しびれを切らした俺は話を打ち出すことにした。

「あ、あの、」
あまり人と接していないせいか、どうも俺は、タイミングというものが分からない。案の定セリフを噛み噛みしながら声を出すと、思い切って聞いてみた。
「…さっきの…あの…アレは、一体何なのです?」
「……」
「何かの奇術?それとも俺が幻覚でも見ていたのです?ベンチに座っていたあんたは、いつのまにか俺の目の前に居た。」
「あんたは、一体全体何者?」
「………」

重苦しい沈黙。老人は、何も語らずただ細い目で遠くを見ていた。
その横顔の無言の圧力に屈しそうになって、何かまずいことを聞いたんじゃないか、という気になってくる。

沈黙に耐えられなくて、うつむいて指をいじってみたり、ちらりと老人の顔に目を向けて、またすぐうつむいてみたりする。
気まずい。幼少期に散々味わった、二度と味わいたくなかった、この気まずさ。
口が良ければ、ここで気の利いたジョークの一つでも言って、質問を茶化して、この気まずい空気を破る事もできるのだろうけど。
それも出来ないし、出来得たとして、そうしたのだろうか。
好奇心と後悔の狭間を行ったり来たりしていると、やがて老人から重い口が開かれた。

「あんたは、人生に疲れている。」

「無駄に長く生きていれば、余計なことまで分かってしまったりするものさ。
 貧すれば鈍すると言うけれど、僕はなかなかそうはならないなぁ。」
そう言ってから軽くため息をつき、数拍おいてから、また語りだした。

「あんたは、人生に疑問を持ちながら生きているね。世を嘆き、人を疑い、自分を疑い。違うか?まるで若い頃の僕を見ているようだったよ。」
返す言葉もなかった。

「人には添うて見よ、馬には乗って見よって言うが、誰も本当の自分を見てはくれない。そんなものだから、自分も人を見ずに生きよう。そうして今日まで歩んできた。違うか?」
涙が溢れていた。目を乱暴に握り拳で拭った。

「まあね、そんな事を長々と説教するつもりも無いけどね。
 けど、あんた、今の自分に満足しているか?本当は、白痴か狂人みたいに騒いで、されども子供みたいに楽しそうにしている、世間の俗物の輪に加わりたい。違うか?」
「人を見ずに生きてきたが、どこかで人に救いを求めている。そうだろ?」

「何度この世に生まれた不幸を嘆いたことか。天は人の下に人を作った。人の上に人を作った。神にいくら祈れども救いなんぞもたらされん。」

「僕が直接何をするわけでもないが、一つチャンスってのを与えてやろう。」

頭がくらくらする。老人の頭がいくつにも見える。世界が捻れる。

気がつくと、俺は家にいた。

陽の光が、中途半端に閉まったカーテンの隙間から部屋に射し込み、薄汚い部屋に一服の清涼剤を与えているかのようだった。騒がしい車の音も、まだ聞こえてはこない。
静寂の中に小鳥のさえずりが見事に調和し、朝のこの爽やかな時間を彩っている。

ただ一つケチを付けてやると、この部屋は、あまりにも汚い。この悠久の時をものの見事にぶち壊してくれている。ああ、落ち着かない。

読みかけの本が、そこらじゅうに転がっているし、ちょっと使った時にしまい忘れた日用雑貨なんかもある。

…どうも俺は、片づけるというのが苦手だ。気にしてはいるのだけれど、しまい忘れて二、三日もすると、最早どうでもよくなってしまうのだ。
すぐに使えて便利だとすら感じる時もある。

今度の休みにかたそう、今度の休みにかたそう。などと思いつつも、休みの日は疲労困憊で一日眠ってしまう。
最初の内はものの数分でかたせられるものが、「今日は疲れているから明日かたそう。」等と先延ばしにしてきて、いよいよ手の施しようが無いほどに傷口が広がり、化膿していく。
ああ、この怠け者め!恥を知れ!

そうして今日も、何もせずに一日が終わりそうである。
今日は休日。

部屋の隅に転がっていた何かをそこらに投げ、陣地を作ると、そこに腰を降す。
煙草をくゆらしながら思案に耽った。

ああ、何も高邁な事柄を思案しているわけではありません。
思案に余るという点では同じ事ですが。…あるいは、自分の頭が足りないだけかもしれませんが。
下手な怪談のような事を、真剣に考えている自分が酷く愚かに見えてしようがないです。

今、考えることと言ったら一つしか無い。
昨日の、あの、奇怪な翁の事だ。

果たしてあれは現実に起こったことなのだろうか?
今考えてみても、夢としか思えない。
そうだ、夢だ。夢に違いない。
疲れているから、この鶏よか下愚な脳が、あんな形で現実逃避させるのだ。そうに違いない。

…どうも自分は、訳が分からない事象(事象と呼ぶのは不適当かもしれませんが。)に出くわすと、其れ以上の追求を辞めて投げ出してしまう。
方程式だとか、そんな社会に出てなんら役に立つわけでもないものが授業に出たときも、「俺にゃ理解できん。やめだ、やめ。」等と投げ出している。
そうした若さ…んー、ハングリー精神の無さ、とでも言おうか。其れが今日の自分の怠惰な生活に身を堕としたる原因なのだ。
ああ、それじゃ世間の俗物と何も変わらないじゃないか!畜生!

そうしてちょっとした事で卑屈になる習性を発揮していると、もくもくと煙をたてている煙草の灰が、そろそろ指もとまで迫ってきていた。

もう一本…無い。
入っていないとは分かっていつつも、部屋のそこらに転がっている捨て忘れた空箱を漁ってみる。
その様が何とも無様で、惨めで。涙が出そうになった。

買いに…行くか。
部屋の掃除はしないくせに、こんな事はしっかりしている自分が嫌です。

俺が好んで吸っている銘柄は、自販機にはあまり置いていない。
コンビニか酒屋まで少し歩かなきゃいけない。面倒だが、仕方がない。
恐ろしく軽い財布をポケットにしまいこみ、さっさと家を出た。
女は肥えれば醜いものだけど、財布は肥えれば肥えるだけいいもんだ。
成金に見えてかえって醜いかしら。今の御時世、金持ちは現金を持ち歩かないそうな。


歩きながら、先ほど投げ出したあの老人の事を再び考え出した。
なりこそ酷いもんだが、その精神の絢爛さたるやいなや、貴族のそれを思わせるものがあった。
もしかしたら斜陽族ってやつかな。…もうとっくに死語か。

そうこうしている内にコンビニが見えてきた。
カウンターで直接、番号かあるいは銘柄を言わなきゃいけないのだが、このやり取りが俺には煩わしくてしようがない。
いっそカートン買いするか。しばらく此処に立ち寄らなくてすむ。
さっさと買ってこんな所からはおさらばしよう。スタコラサッサだぜ。

会計3000円、給料日前だけどこのくらいなら足りるだろ?
1000円札が二枚、小銭を使わなきゃならんか、難儀だ。

…足らない。なんて事だ!
ああ、またしても恐れていた事が現実となった。
店員が怪訝そうな視線を送る。視線が、痛い…
今自分はどんな表情をしているの?死相を浮かべているか?犯罪者の目を浮かべているか?
情けなさやら何やらが頭の中でごった煮になって、発狂しそうになる。
死にたい。数え切れぬ程感じたその感情がまた、鎌首を持ち上げて襲ってきた。

 瞬 間 、 世 界 が 、 止 ま っ た 。


気が違った男の戯言として、軽く右から左に聞き流して下さい。

自分があの力を最初に使った日はいつでありましょうか。
確か9月の。残暑が鬱陶しい季節から段々と寒くなり始める頃だったと記憶しています
確かその日は休日で、則ち一週間で唯一気楽に過ごせる日でありました。
その日、私は煙草を買いに行きました。
親であれ酒であれ煙草であれ薬であれ、私は何かしらに依存しないと生きていけない性分なのです。
そんな私にとって煙草を切らすというのは、そのまま死に直結する程に大きな問題でした。
ジョイナーのベストタイムより素早く買いに行く事を決断しました。

で、その時に素直に終日まで持つ程度の量だけを買えば良かったのですが、その時に私は何を思ったかワンカートン購入しようとしました。
給料日前だったのですが、その程度なら足りるだろうと、そう考えていた気がします。
そういった自分の財布にすらいい加減な性格故に、私はこんな馬鹿げた事を乱暴に書き綴っているのですが。
もうお分かりかと思いますが、代金が足りませんでした。
その時でした。初めての時間停止は。
瞬間、全てが静止しました。
その時の店員は、確か女性だったと思います。
世間一般の物差しで言えば、かわいいと言うのでしょうか。そんな彼女が、眉間に皺を寄せ般若を思わせる表情のまま硬直していました。
嘘だとお思いならば、彼女に聴いてみればいいでしょう。監視カメラの映像も残っている筈でしょう。その時にバックヤードに人がいたならば、その人にも話を聴いてみればいいでしょう。
狂人は皆口を揃えてこう言うらしいのですが、私は一時でも狂った事は無いつもりです。

その時私は、何が起こったか状況を把握できずにいました。
それが自然な感覚なのではないでしょうか。
後ろで自分の会計を待っている客から、週刊誌なんかを立ち読みしている客から、弁当を手にとって何か考え込んでる客から、棚の整理をしている店員から、
自分以外の全ての人間が、直立不動のまま一向に動こうとしないのです。
このまま、自分だけの世界とでもいいましょうか。そこに取り残されてしまうのではないかと、そんな空恐ろしい気持ちに襲われ、私は無我夢中で走り出していました。
訳が解りませんでした。頭がどうにかなりそうでした。
ともかく、私は走り出していました。
しばらく走って、ぜいぜい息を切らしてから、ようやく自分の家を通り過ぎていたことに気が付きました。
冷静になって辺りを見回してみれば、自分以外の人も、ちゃんと動いていることに気がつきました。
奇妙な安堵感と、走って疲れた事もあってか、その場にヘたりこんでいました
それからの事はよく覚えていませんが、その日の夜は布団の中で転々反側していた事だけはよく覚えています。
その時から、何か自分に対して不利な状況になると、再び世界が自分だけの物になるのでした。
電車に乗り遅れそうになった瞬間、車に轢かれそうになった瞬間、コーヒーをこぼしそうになった瞬間…
この奇妙な現象は酷く私を悩ませましたが、その内に、この力をコントロール出来るようにしたいと、そんな風な事を考え出しました。
今まで散々艱難辛苦を味わい、辛酸を嘗めさせられた私に、きっと、神様が与えてくれた御褒美なのだと、そう考えるようになりました。
ようやく主は艱難汝を玉にしたのだと。

やがて、自分の意志でこの力を使えるようになりました。
時計の針すら止まってしまうので、正確な時間は解らないのですが、時間を止めていられる限界は、おおよそ30秒程度だという事が解りました。

他にも色々気付いた事があります。
その止まった時の中で唯一動くことの出来る自分が、何か止まっている物体を持ってそのまま動かすことは出来るようですが、投げたりして一度を手を離れると、その物体はピタリと止まるようです。
他にもまだありますが、時間が止まっているのならば至極当然といった事ばかりなので、此処では野暮ったく書くことはしません。

その内に、時間を止めるという事にも飽いていました。それもそうです。
お金に困ることはありませんし、どんな悪戯でも可能なのですが、何せ、自分以外の全てが止まっているのですから。

30秒時間を止めるこの力を最大限活用するとするならばどんな事をすればいいのだろうか?と、日々考えを巡らすようになりました。
やがてそれは、誰しもが一度は考えるような事で決着したのでした。
この力を使えるのは自分だけなのだ。ならば、自分にしか出来ないことをしよう。
この世にはこびる蛆虫のような腐った輩を粛正するのだ!と。

そんな風に意気込み、最初の事件を起こします。あなた方もよくご存知のあの事件です。
右翼団体の仕業だの何だのと、マスコミがあれこれ推測を立てているのをブラウン管越しに嘲笑していたものです。
その内に自分は、犯行後に何かしらのメッセージを残すようにしました。
歪んだ名誉欲というか自己顕示欲というか。そんな気持ちがあったのでしょうか。
今思えば、こんな愚かな行動が自分の首を締めていたのですが、
さながら救世主気取りの当時の自分は、この力があればどんな奴にだって絶対に負けることは無い!等と馬鹿な事を思っていました。

そうして、皆さんの記憶に新しい国会議事堂前の騒ぎです。
もっと派手に暴れてやろうと、週刊誌なんかを見ながら、粛正すべきあくどい政治家を探していました。
と同時に、自分が残したメッセージからあれこれ想像している様を見てにやけていたのでした。

そうして決行の日が来ました。一応顔だけは隠すようにして、時間を止めて進入しました。
煙草を吸いながら佇んでいるその様はさながら不審者のようであったと思います
高そうな外車が来ました。いよいよターゲットが来ました。
面倒事は嫌いなので、さっさと時間を止めて仕留めてしまおうと思ったのですが、
 無  情  に  も  時  は  止  ま  ら  な  か  っ  た 。

そら、自分にかなう者はいないでしょうが、時間を止めることが出来なければ只の草臥れた中年です。何も出来るはずがありません。
とうとう神は自分を見放したのかと、絶望に暮れました。目の前が真っ暗になりました。
その日、一人の何て事無い非力な暴漢が逮捕されたのでした。
後は皆さん御存知の通りです。
何故、あの時、時間が止まらなかったのか?それは誰にもわかりせん。
信じられないでしょうが、全て現実に起こったことなのです。
だから、どうぞ、信じて下さい信じて下さい信じて下さい信じて信じ(…以降、訳の解らない文字の羅列が最後のページまで続いている。)
(山田容疑者の手記より)

−−どこかの駅前の薄汚い公園−−

「というお話だったのさ。」
「へー。おっさん、あんた乞食のくせして作り話が犯罪的にうまいな。」
「信じる信じないは勝手だけど、全て現実に起こった事さ。
 悪魔の商人に乗せられた哀れな一人の男の話さ。」
「ところで…」
「ん?」
「何だよ、この取って付けたようなオチは。」
「いや、最初からこういう構想はあったんだけど、単純に力重が無くて巧く持っていけなんだ」
「ていうかこの部分は必要なのか?」
「いまいち不完全燃焼気味だし、いいんだ、妄想スレだから」
「随分なご都合主義だこと。風呂敷広げまくって収拾がつかなくなるって最低だな。どこの冨樫だよ」
「初めから無いんだ、やる気なんざ」
「認めるなよ!」

収拾の付かないまま
−完−

 

あとがき

後半投げやりです。悪い癖です。山田くんと一緒です。
こんな下らないSSを読んでくださってありがとうございました。
では、また会う日まで!

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