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「近寄らないで」
 ――意外と、と言うべきか、屋上を開放している学校と言うのは少ないものだ。
 青春の物語にはつきものの、屋上での気だるい昼休みも、聞いてみれば案外、そういうシチュエーションというのはなかなかあり難いもので、あるらしい。
 屋上が閉鎖されているか、あるいはそもそも存在しない理由は色々あるだろうが、それはさておくとして、その屋上に人影があることは、滅多にないと言っていいだろう。
田舎ならともかく、学校の屋上程度では見晴らしも知れているし、そもそも日差しの下で何かをすると言うのは案外に暑かったりするからだ。
 くつろぐ、というほどにくつろげないのが実情なのである。
 では日差しが出ていない場合ならば? 雨の日ならばそもそも利用なんかしない。
 曇りだって、見通しの悪い景色に囲まれ曇天の元で昼休みを過ごすくらいならば、教室でトランプにでも興じていた方がいくらか楽しいというものだ。
 屋上なんて、そんな程度に夢のないものだ。
 だと言うのに。
 今日に限っては、正確に言うなら今夜に限っては、その屋上に、二人の人間が、存在していた。

「それはひどい」
 と、少年が言った。
 小太りで眼鏡、背は低く、学生服を着ているが、下は全くの裸。丁寧にたたまれたズボンとパンツが屋上の隅っこに積まれている。
「当たり前の反応でしょ」
 と、少女が言った。
 真っ黒な髪は長く、体系は痩せ型、というよりも、強く握れば折れそうなほどの、痩せすぎ。黒と白のみの配色の、妙にフリルが多くファンシーな衣装、いわゆるゴスロリファッション。
 そして、手には「遺書」と書かれた、白い封筒を持っていた。
「自殺はよくない。とてもよくない」
「黙れ。近寄るな。死ね。気持ち悪い」
 少年が両手を広げ、無抵抗をアピールしつつ人道を説くと、少女は辛辣な四語を返した。
 少年はその言い草に、「遺書」なんてものを持っている人間の言い草とはとても思えないよう案その言動に、しばし凍りついた後、ため息を吐いて言う。
「僕はあなたと違って見た目もこんなだし、成績だってよくないし運動も出来ない。友達も数えるほど。でも死なずに生きてます。人生は楽しいです。今も、中華キャノンの練習をしていたのです。こう、股間を前に突き出し、ズギューン!」

「いやああああああああああ!」
 少女が悲鳴を上げた。
 当たり前の反応だった。
 それは少年一流の励ましだったのかもしれないが――いや、それにしても変態だった。
「これから死のうって人間がずいぶんとまぁ肝の小さいことじゃないですか」
 少年がふんぞり返って腕を組み、あまつさえそんなことを言う。
 それは確かに正論と言えなくもなかったが、あからさまに何かが間違っていた。
「うるさいバカ! 小さいのはお前だ!」
 少女は怒鳴り、靴を脱ぐと少年に向かってブン投げる。靴は股間にクリーンヒットし、少年は「ゲルググ!」と悲鳴を上げて一回大きくのけぞった後、少女に背を向けてその場にうずくまる。
 クリーンヒットはクリティカルヒットだったらしかった。
 最低のリアクションだった。

「死ね! 死ね! 本当に死ね!」
 少年はしばらく痛みに震えていたが、やがて足をプルプルさせながら立ち上がると、『遺書は伏線で、その自殺を止めてらぶらぶ、というフラグでは?』などと呟き始める。
「あの、自殺は」
 振り向いてそう訊ねた丁度そのとき、もう片方の靴が少年の顔に命中する。
 よろめく少年。
「変態がいるようなところでできるわけないでしょ――!!!!!!! 消えろ!!!」
 少女が叫び、

「…………」

「え?」

 少年はそこから本当に消えていて、

 絶叫が聞こえてきた。
 少女が屋上の縁に駆け寄ると、少年が落下している。
 どうやらさっき落ちたらしい。地面が迫り、見たくも無い激突の瞬間から、少女は目を逸らすこともできずただ硬直する。
 だが、その直前少年が叫ぶ。
「なーるほど・ざ・わーるど!!!111!!」
 そして、少年はむき出しのアナルに指を突っ込んで、

 瞬間、一秒が、永遠になった。

 

【引きこもり】都内の学校で半裸の男投身自殺【NEET】

1 名前:☆クソ展開なんだ☆ ◆liuseSEaEu @(´・ω・`)すまない ★ 2006/08/03(木) 19:09:30 ID:???0

 17日、上半身に学生服、下半身は半裸の男が都内のA小学校の屋上から転落し死亡した。
 男は10年にわたる引きこもりを続けており、家人はいなくなったのには気づかなかった、と供述している。
生前、「俺は世界を支配できる力を手に入れた」などと話していたことから、精神疾患が飛び降りの原因と見て捜査を続けている。
なお、現場からは【人間関係に疲れたので死にます】と書かれた遺書が発見されているが、これが男のものかははっきりしていない。

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