597(42停止目)
静かな朝だ。
「おはようございます」
毎度のように階下に降りる階段の途中で朝の挨拶をする。しかし養父の声も、養母の声も返ってこない。
階段に背を向け、養父はテーブルに座り、養母はキッチンに立ち、いつもと同じ光景に今日は違和感を感じた。
二人とも何かを考えているのか、まるで動かずに料理と食事の手を休めている。
養父は、テーブルまで近づくとやっと気がついたのか、振り返ってみせた。
「ああ、おはよう。いつもの『おはよう』はどうしたんだ?何か悪い夢でもみたのか?」
いつも通り階段で・・・と言い掛けたが、何も言わないでおくことにした。深い考え事で、二人とも付かなかったに違いない。
養母がこちらに向き直って食事を並べ始めた。
「あらおはよう。今日の鰺はおいしいよ。早く食べてみなさい。」
炊きたての白米と大根と油揚げの熱い味噌汁、鰺の開きに胡瓜の漬物と、典型的な日本の朝食が並べられた。
その途端に養父が時計を見ながら言った。「もうこんな時間なのか?」養父からは遅刻を気にするような焦る様子が伺える。
「すみません、寝坊をしてしまって。」 焦る養父に謝罪を入れる。時々寝過ごすたびに養父や養母が部屋まで起こしに来てくれるのだ。
それが無かった今朝は、過っておく事が必至という考えが頭に過っていた。
「いいのよいいの、たまには仕方がないんだから。さぁ、早く食べて学校に行きなさい。遅刻はダメなんだから。」
養母のその言葉を聞いて、少し安心した。
そして言葉に押されるように、朝食を残さずにたいらげて、朝の寒い風を切りながら
日が昇って間もない、薄明るい空の下を学校まで走った。