541(42停止目)
猫踏んじゃった。猫踏んじゃったら、死んじゃった。
僕を止められるのはただ一人、前田さんだけだった。
でも、彼は私を止めようとしなかった。
今回で5匹目。うち一匹はまだ幼くて可愛らしい子猫だった。
踏んでおいてなんだが、もう猫の死ぬところなんてみたくない。
でも私を止められるのはただ一人、前田さんだけだった。
もう猫なんて踏みたくない・・・そう願いながら走っていたある日のことだった。
目の前にひょろひょろっと、一匹の白い猫が躍り出た。
でも彼は、私を止める気なんてさらさらなかった。
また一匹、猫を殺してしまうのか。
そう思っていた刹那、突然風景が止まった。
前田さん?まさか、彼が止めることなんてまず無い。
すると、私の真ん前には踏まれるはずの、白い猫が立っていた。
猫は言った。
「猫殺しは楽しいか。」
楽しい訳が無い。そのまま私は猫に言った。
「なすがままにされ、それでもお前は彼に仕えるのか。」
私は彼以外の人に仕えたことがない。だが、彼が底辺に
値することくらい分かっていた。しかし、だからといって
私の力ではどうにでもならないことなのである。
私は彼に仕えなければらないし、彼は私を使うのだ。
猫は言った。
「お前は五つの命を奪った。この罪を償うつもりはあるのか。」
あるが、それは出来ないこと。そのまま私は猫に言った。
猫は言った。
「簡単な話だ。後にまた会おう。」
風景は動き出した。
その後、白い猫は死んだ。また猫を踏んでしまったのだ。
しかし、それ以降私が猫を踏むことは無かった。
彼?彼は何も変わろうとはしていなかった。
しかし彼はあの白い猫によって変えられた。
死体という、冷たい肉の塊に。
私もあの白い猫によって生まれ変わった。
真っ白の、綺麗な車に。