戦闘機(32停止目)

「どうだ、あの患者?どれぐらい持つ?」
全館禁煙の中、カルテの置く部屋で紫煙を燻らせながら山岡が言う
「まぁ、2ヶ月ぐらいじゃないかな?」
と仙石は言った。
「お前、また死んだ患者の家族に会ったんだろぅ?
患者にのめりこむのは辞めとけよ。」
「ああ、分かってる」
そう言うと仙石は部屋を後にした。
綺麗な廊下をしている院内。しかし、医者は醜くて汚い保身のことしか頭にない。
あまり知られていないが、今現在。医者のリストラは始まっている。
国家試験だからといって身が安泰なわけじゃないのだ。
そういうことで、どの医者も保身で躍起になっている。
早い話が、院長一族に媚を売るということだ。
仙石は、そうした事情に嫌気が差していた。
「先生。こんにちわ。」
見た目では、何処が悪いか分からない15〜18ぐらいの女の子が仙石に話かけた。
「ああ、こんにちは。どうだい調子はいいかい?」
仙石は一瞬表情が歪みそうになったが笑顔で答えた。
「ええ。すこぶる元気です。入院してるのが不思議なくらいです。」
女の子は元気そうに答えた。
女の子を見て仙石は意を決した。
「親御さんを呼んできてくれないかな?」
女の子は本当に嬉しそうに
「何ですか?退院の話ですか?」
と聞き返した。
「うん、まぁね。」
と仙石は言葉を濁した。

そして、翌日
その女の子の親が病院にやってきた。
「端的に言います。娘さんの病名は、炎症性乳がんというものです。」
その女の子の母親は唖然としていた
「で…でも、直るんですよね?」
「乳がんというものはだいたい高齢な女性に多く見られますが、稀に
若い方でもなられます。そして、この若いことが厄介なんです。
若い方の乳がんは活発的なことが多いんです…。娘さんも
この類でして、がんの進行が早いんです。
もうステージ、すいません分かりづらいですね。
転移が始まっていまして…。」
仙石は感情を押し殺した声でしゃべった。
「そんな…。」
母親は、それだけしか言わなかった。
「娘さんにもこのことを告げようと思います。
抗がん剤を使う延命治療が考えられますが。
彼女の意志に任せたいんです。」
「そんな!…。  

    わかりました。」
母親は一瞬感情が沸騰したようだがすぐに、感情を抑え同意してくれた。

仙石は、この旨を女の子に伝えた。
彼女は最初、泣きそうな顔になったが、すぐに決意した表情になった。
「わかりました。抗がん剤って副作用が強いんですよね?
なら使いません。」
「それに進行してて良かった。おっぱいなくならなくて済みましたから。」
と彼女はいつもとちがう悲しそうな笑顔になりながら言った。
仙石は、彼女が生を諦めたようにも見えた。

そんなことがあって数日後、彼女の容態が急変した。
若い子のガンは進行が早い。
いつ倒れても不思議では、ない。
そう不思議ではない。
仙石が手を施しても何の解決にもならなかった。
そして、彼女から人工呼吸器が外された。
もう着けてても意味がないからだ。
最後の言葉を残すための処置だ。
いやまぁ、普通ならそのまま更に容態が急変して言葉を残すことなく
死んだりもする。
しかし、仙石にはあることが出来た。
超能力というのかなんというのかわからないけど
1日一回30秒間手を触れたものの病気の進行をとめることが出来る能力がある。
まぁ、これを使うと手を触れてるものと仙石意外の時間は止まる。
仙石は、女の子に手を触れ。
時を止めた。

「言いたいことを話してごらん。時間は30秒ぐらいしかないけどね。」
仙石は言った。
女の子は、もう最期が分かっていたので別に不思議なことが起きても
どうも思わない、もう死んでしまったと思ったからだ。
「先生?いや神様なのかな?言っておきたいことはお父さんお母さん有難う。
それに今まで、私に関わってきた人みんなありがとう。」
友達の名前を言いたかったが次官が30秒しかないので彼女は、辞めておいた。
「これまで、生きててどっちかというと楽しかった。
色んな辛いこともあったけど、楽しかった。
恋人は出来なかったけど、好きな人は出来たかな?」
女の子は気恥ずかしそうに
「神様分かってるんでしょ、だからその姿なんだよね。
私の好きな人は先生だったんだよ。最後の最後だけど好きでした。
お嫁さんにしてください。て出来ないか。もう終わっちゃたんだし…。」
彼女は、本当に悲しそうになった。
でも、表情を代え。
「でも、それが出来ないんだったら。私のことを一生忘れないでほしいな。
そうだ、私の手帳が。枕の下にあるから。それを先生に見つけさしてね。
お願い。」
と彼女は昔の明るい笑顔になった
「これくらいかな。」
「まだ、後5秒あるぞ」
と仙石は言った。
「えへへへへ…ありがとう先生。」
そこで、能力が途切れた。
彼女はまた、あのつらそうな顔に急変した。
彼女は、虫の息で
「あれ?まだ生きてるんだ…。
ママ…  パパ… ありがとう。」
と言い、視線を仙石に向けた。

そして、彼女は息絶えた。

彼女の両親が泣き叫ぶ中、仙石は放心状態になった。
バカ野郎…。もっと早く言ってたらいい土産をやれたのに…。
そんな中、院長が廊下を歩いていた。
こっちを向いて彼は、冷笑しそのまま歩いていった。
仙石は怒りをおぼえた。

そして、彼女の遺品は片付けられた。
そんな中、仙石は手帳を見つけ読んで見た。
その一つ

○月×日
先生に話しかけると、親を呼んで欲しいだって
退院が近いのかな…。先生に会えなくなるよ…。

仙石はその手帳を彼女の両親に返し
家で泣き叫んだ。   
そうして彼は、病院を退院した。

今は、ただの町工場の兄ちゃんだが
これでいいと思っている。
俺が医療にいると時を止めて言葉を聞くだろう。
彼女が、天国に持って行きたかった言葉を俺は
聞いてしまった。
だから俺は、これでいいと思うわけだ。

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