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ある日の午後、であった。
天気は晴れ模様、気温は適度、青く透き通るくらいさわやかな風が吹いていた。
そんな中、独りの男が歓喜の涙を流した。
彼はついに分かったのだ、自分が幸せであると。
三田 喪太郎(みつだ もたろう)、彼自身は自分は不幸な人間だと思い込んでいた。
このある日の午後、までは・・・・・。

時間は遡り、彼の過去の話になる。
三田 喪太郎が生まれ、その7年後
彼が7歳の時の話である。
彼が生まれたのは市、町、村でいう『村』であり
人里離れたところにひっそりとある。部落であった。
村には『指切り』という風習があった。
昔からこの村には6本指の子供が多く生まれた。
この6本指の正体は近親相姦による悪影響なのか
それとも幾多にわたる繁殖の末の進化なのか誰にも分からない。
ただそれは異様であった。
ある日、であった村の巫女は言う。
6本目の指には悪魔が宿っていると。
この指を切らねばいつか村に災いが降りかかると。
そして『指切り』は行われた。
この儀式の時期は決まっている。
生後84ヶ月後の満月の夜である。
儀式の日は村中に妙な空気が流れる。
それは何か楽しい祭りごとを控えたかのような
陽気な雰囲気と親戚が亡くなったときのような沈鬱な雰囲気
両方が交じり合ったかのような妙なものであった。
儀式の対称となる子供は神宿と呼ばれる祠にいれられ一日を過ごす。
泣きだすもの、脱走を試みるもの、諦めたかのように虚空を見つめるもの
何が行われるか分からず笑っているもの、平気な顔をしているもの
反応は様々であるが『指切り』を行われると子供は必ず泣いた。
今までだしたことのないような声で叫び、喚きそして泣く、大声で痛々しく
村中を駆け巡るようにその声は響きわたる。
それを尻目に大人たちは儀式を終えたことを喜び酒を煽る、
子供の様子を心配するものはいなかった。その子供の両親でさえ他の大人たちと
楽しく酒を飲んでいた。7歳に満たない子供たちはその様子をみて明日は我が身を思い浮かべ
体が畏縮させていた。その中でも一番に恐怖を感じていたのは三田 喪太郎、彼である。
この時、三田 喪太郎は生後83ヶ月、6本指である彼もまた儀式の対象者なのである。

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